クルニ村01
楽しい朝食が終わり、
(さて、今日は何をしようか?)
と考える。
勉強はしたいけど、教科書や本はほとんど持ってこられなかった。
そのことをロロアさんに言うと、
「ああ。それならとりあえず村の図書館、ああ、本がいっぱい置いてあってみんなが自由に読みに行ける場所があるんだが、そこに行ってみるといい。ついでに村の様子を見てきたらどうだ? 村長に言えばきっと喜んで案内してくれるぞ」
と教えてくれた。
「そうですね。昨日のお礼や報告もありますから、村長にはあとでご挨拶に伺うところでした。その時、ついでに頼んでみましょう」
と言うメルの意見に僕も賛成してさっそく村長さんの家を訪ねることにする。
さっそく支度を整えて昨日馬車で通った道をのんびり歩きながら眺めてみると、畑の脇には色とりどりの花が咲いていたし、綺麗な色の蝶々も飛んでいた。
どこかから小鳥の鳴く声も聞こえてくる。
「なんだか長閑な村ですねぇ。まるで昔話に出てくる田舎の村みたいな感じがします」
と言うメルの言葉が本当にぴったりな村だと思った。
しばらく歩いて村長宅に着く。
「ごめんください」
と玄関先でメルがおとないを告げると、奥から、
「はーい」
という女性の声が聞こえてきた。
「はい。どちら様でしょう?」
と言いつつ開けられた扉の向こうから、昨日チラリと見た村長の奥様らしい人が声を掛けてくる。
それに対してメルがにこやかに、
「昨日やってきた者です。無事落ち着きましたので村長にご報告に伺いました。村長はおられますか?」
と来訪の目的を告げた。
「あらまあ。そうでしたか。どうぞお上がりくださいまし」
と言ってくれる奥さんに軽くお礼を言って昨日に引き続き村長宅にお邪魔する。
すると、すぐにリビングでジャック村長に出迎えられた。
「いや。昨日は失礼いたしました。その後いかがでしたでしょうか?」
と少し心配そうに聞いてくるジャック村長に、メルが、
「はい。おかげ様でロロア様とミュウさんに快く受け入れてもらい落ち着くことができました。改めて御礼申し上げます」
と頭を下げる。
僕もそれにならって軽く頭を下げると、ジャック村長は少し慌てたような感じで、
「いえ。どうぞ頭を上げてください。もとはこちらの不手際もあったことですから。……とにかく、上手くいってよかったです」
と両手を顔の前で振りながら、そう言ってくれた。
「そのように言っていただきありがとう存じます。つきましては、本日はその後報告がてら、簡単に村の中のことをお教えいただこうと思ってまいりました」
と切り出すメルに、ジャック村長が、
「ああ。そうですね。落ち着かれたのであれば是非村の中をご案内いたしましょう」
と少し嬉しそうな感じで答える。
それにメルが、
「ありがとうございます。まず、図書館があると伺いましたが?」
と図書館の存在が気になっていることを伝えると、ジャック村長は、
「ええ。小さいですが、ロロア先生たちのご尽力もあってこの村には図書館があるんですよ」
と、どこか自慢げな様子でそう答えてくれた。
(なるほど。小さい村だから図書館っていうのがあるのはどっちかっていうと珍しいことなのか……)
と察しながら聞く。
そんな村長にメルが、
「それは素晴らしいことですね。是非アルフレッド様にも見せて差し上げたいと思っております」
と言うと、ジャック村長はニコッとした表情を僕に向けて、
「アルフレッド様は本がお好きなんですか?」
と聞いてきた。
「はい。本を読むのは好きです。それに勉強をするのも」
と答えるとジャック村長は感心したような顔をして、
「はぁ。それはすごいことでございますね。うちの娘にも見習ってほしいものです」
と言ってきた。
そこから、
「へぇ。娘さんがいらっしゃるんですね」
「ええ。リリカと言いまして、今年で七歳になります。アルフレッド様と歳が近いんじゃないですか?」
「はい。七歳なら僕と一緒です」
「ほう。そうですか。ということはアルフレッド様も学問所に通われるので?」
「えっと、それはわかりません。でも興味はあるので、是非見てみたいです」
「さようですか。では図書館に行ったあと学問所も見学しましょう。他にも商店街……、と言ってもいくつかの店と宿が並んでいるくらいですが、そこもご案内しますね」
「ありがとうございます。楽しみです」
と世間話をしつつ案内してもらう先を決めていく。
そして、話が一段落すると僕たちはジャック村長に案内されて村の図書館へと向かった。
しばらく歩いて、少し古びた家に着く。
外見は普通の家にしか見えないけど、どうやらここが図書館らしい。
表には確かに図書館という看板がかかっていた。
「どうぞ。お入りください」
と言って扉を開けてくれるジャック村長に軽く頭を下げながら図書館に入る。
すると、家とは違う独特な匂いがして、たくさんの本が並んでいるのが見えた。
「うわぁ……」
と思わず感嘆の声を漏らし、本棚に近づいていく。
そこには僕が見たことも無いような難しそうな本がずらりと並んでいた。
「その辺はこの村の地理や植物についての本ですね。まだアルフレッド様には難しいかと思いますよ。お子様に向けた本はあちらにありますので、ご覧になってください」
と言うジャックさんに案内されて子供向けの本が並んでいる本棚に向かう。
するとそこにもたくさんの綺麗な絵が描いてある本が綺麗に並べられていた。
「今、司書さんを呼んできますから、ちょっとお待ちください」
と言ってジャックさんが奥に下がっていく。
僕は、それに構わず手近にあった本を取ると、ドキドキ、ワクワクしながらその表紙をめくった。
(ちょっと字が少ないから僕よりももっと年下の子向けなんだろうな)
と思いつつも久しぶりに本を読むという行為に興奮して読み進めていく。
その本は伝説の勇者様が悪い竜を退治しに冒険の旅に出るという定番の絵本だった。
(そう言えば、小さい頃、メルにもらって夢中になって読んだっけ)
と懐かしい記憶を思い出しながらその本を眺めていると、
「絵本が好きなの?」
と後ろから唐突に声を掛けられた。
ちょっとびっくりして、
「え?」
と間抜けな声を出しつつ振り返る。
するとそこにはニコニコと微笑むキツネみたいな耳の優しそうな獣人のお姉さんがいた。
(なんだか全体的に柔らかそうなお姉さんだな……)
と思いつつ、
「はい。小さい頃よく読んでました」
と正直に答える。
すると、そのお姉さんは少し驚いたような顔をして、
「あら。もっと小さい頃から本を読んでいたの? うふふ。お利口さんなのね」
と言って僕の頭を優しく撫でてくれた。
僕は少し、いや、かなり照れながら、とりあえず、
「ありがとうございます……」
と軽く頭を下げる。
すると、そのお姉さんは、
「じゃぁ、もうちょっと難しい本がいいわね。こっちにあるわよ」
と言って僕をすぐ隣の本棚に案内してくれた。
「あの絵本を読んでいたのならこの本はどうかしら? 同じ伝説の勇者様のお話なんだけど、悪い竜以外にもたくさんの敵と戦うのよ」
と本の内容を説明してくれるお姉さんに、
「読んでみたいです!」
と即答する。
「うふふ。今度、時間のある時に読みにおいで。ここはいつでも開いてますからね」
と言ってくれるお姉さんに、
「はい!」
と元気に返事をしてその本を少しだけ読ませてもらった。
その本は絵よりも字が多くて、ほんの少し読んだだけでもなんだか大人になったような気分になる。
そんな僕をそのお姉さんも、ジャック村長もメルも優しい顔で微笑みながら見守ってくれていた。
僕はもうちょっといたいと思ったけれど、今日は他にも行くところがあると思い出してその本を閉じる。
「また、すぐに来ます!」
と、そのお姉さんに言うとお姉さんはまたニコニコと優しく微笑んで、
「ええ。いつでもいらっしゃい」
と言って僕の頭を撫でてくれた。
そんなお姉さんにきちんと挨拶をして図書館を後にする。
僕は、初めて体験した図書館というものに興奮しながらも、ジャックさんに案内されて次は商店街へと向かっていった。