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世界樹の守護者、アル~追放から始まるほのぼの英雄譚~  作者: タツダノキイチ
第二章

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世界樹へ06

「はっはっは! どうよ?」

と、また得意げに聞いてくるガルボさんに、

「……すごかったです」

と正直な感想を伝える。

するとガルボさんはさも嬉しそうに、

「わっはっは! そうだろう、そうだろう!」

と言い、豪快に笑って見せた。

「まったく。相変わらず豪快だね、ガルボは。でも、返り血が凄いことになっているから、その辺りはもう少し気を付けた方がいいんじゃないかい?」

と少し呆れたような感じで横からツッコミを入れるロロアさんにガルボさんが、

「なに。お前がいるんだからその辺を気にせずに戦ったまでのことさ。ほれ、さっさと洗濯してくれ」

と言い、腕を広げて見せる。

そんなガルボさんにため息を吐きつつ、ロロアさんがなにやら呪文のようなものを唱えると、また青白い光が辺りに広がり、ガルボさんに着いていた返り血がきれいさっぱり落ちて、あれだけ大きかったオークの死骸も消えてなくなってしまった。

「まったく。私は洗濯屋じゃないんだぞ?」

「はっはっは。いつも感謝してるぜ、聖女様」

と言葉を交わしつつ拳をくっつけ合う二人を見て、なんだか微笑ましいような羨ましいような気持ちになる。

(僕にも将来こんな遠慮ない仲間ができるのかな?)

と思うと、楽しみなような不安なような変な気持ちになった。

それからまた森の中を進むこと少し。

上手い具合に開けた場所で昼食をとり、またうっかりうとうとしてしまいそうなのをこらえて進む。

「うふふ。寝ててもいいのよ?」

と言ってくれるミュウさんに、

「いえ、大丈夫です」

と答えてはみたものの、僕の目の前で気持ちよさそうに寝ているサクラとデイジーを見ていると本当にうとうとしだして、ついには意識をやんわりと手放してしまった。

「アルちゃん。着いたわよ」

という声に起こされて見てみると、すっかり辺りは夕日に染まっている。

「ごめんなさい。寝ちゃってました……」

と少し申し訳なさそうに言う僕にミュウさんは、

「うふふ。マシロの背中はもふもふで温かいものね」

と言うと、まるで子供にするみたいに僕の頭を軽く撫で、

「晩ご飯はハンバーグですからね」

と言ってくれた。

(なんだか、本当に子ども扱いされてるなぁ……)

と恥ずかしく思いつつも、

「ありがとうございます」

とお礼を言ってマシロさんから降りる。

そして、みんなと少し戯れたあと、相変わらず外で作ったとは思えないほど美味しいハンバーグ定食をお腹いっぱい食べ、幸せな気持ちで眠りに就いた。


翌朝。

なにやら物騒な雰囲気で目を覚ます。

(なんだろう?)

と少し慌てて体を起こすと、そこには武器を手に陣形を組むみんなの姿があった。

(え? なに?)

と慌てる僕にマシロさんが、

「おはよう。大丈夫よ」

と声を掛けてきてくれる。

僕がマシロさんの方に疑問の目を向けると、マシロさんは、

「ゴブリンですって。少し多いみたいだけど、大丈夫よ。ここでみんなの様子を見学していましょう」

と落ち着いた声でそう言ってくれた。

やがて、周囲からワラワラとゴブリンが姿を現す。

先日見たゴブリンよりも少し大きく、数もかなり多いように見えた。

(……なんか、すごいことになってるかも。本当に大丈夫なのかな?)

と思って緊張しつつ腰に下げている剣に手を伸ばす。

そんな僕の心配をよそに、ユリウスさんは、

「よっしゃ。ようやく俺の出番だな」

と少し嬉しそうな声でそう言うと、比喩ではなく本当に目にもとまらぬ速さでゴブリンの群れに向かって突っ込んでいった。

黒い影が走り抜けたと思った次の瞬間ゴブリンが斬られていく。

ミュウさんやガルボさんは僕らの守りを固めてくれていてほとんど動いていない。

僕は呆気にとられながら、ものすごい速さで動き回るユリウスさんらしき影を目で追った。

やがて、辺りに動くものがなくなり、ユリウスさんも動きを止める。

そしてユリウスさんはいつも通り、少し飄々とした感じで僕のところにやってくると、

「どうだった? これが俺の戦い方だ。ガルボと違ってちゃんと避けたから返り血も付いてないんだぞ」

と少し自慢げに胸を張りつつ、そんな言葉を掛けてきた。

「すごかったです。……って言ってもほとんど見えませんでしたけど」

「そうか。一応少しゆっくりやったつもりだったんだが……。まぁ、あれがいわゆる身体強化ってやつだな」

「身体強化?」

「ああ。魔力を全身に巡らせて体の力を何倍にも高める魔法の一種だ」

「すごいですね……」

「ああ。使い手は少ないがいないわけじゃない。アルにもそのうち教えてやるよ」

「ありがとうございます」

と会話をしているところに、

「朝ごはんはパンでいいかしら?」

とミュウさんが声を掛けてくる。

僕はいつも通り元気に、

「はい!」

と返事をすると、まだ眠っているサクラとデイジーを起こし、甘えてくるスミレと一緒に朝食の席へと向かっていった。


そんな楽しい冒険が六日目に入ったところで、急に周りの空気が変わる。

(あれ? なんだろう……? なんていうか、急に清々しい感じになったっていうか……)

と思いながら辺りをきょろきょろ見回していると、ロロアさんが、

「気付いたかい? ここからは世界樹の領域だよ」

と雰囲気が変わった理由を教えてくれた。

「ここからは魔獣の心配はないからね。少し歩くかい?」

「あ、はい。そうですね。少しは自分の足で歩きます」

と言葉を交わしてマシロさんから降りる。

まだマシロさんの上でお昼寝をしていたいと言うサクラとデイジーをそのままに元気いっぱいのスミレと一緒に歩く森は爽やかな緑に囲まれ、本当にそれまでの森とは全く別の所に来たという感じがした。

「どうだい世界樹の森は?」

「はい。すっごく爽やかでさっきまでとは別の所に来たみたいです」

「ははは。そうだね。これも世界樹が魔素を整えてくれているおかげさ。だからここいらでとれる果物は他のところのより全然美味しいんだよ」

「そうなんですね。ちょっと食べてみたいです」

「ああ。帰りにちょっと摘んで帰ろう。きっとメルも喜んでくれるよ」

「はい!」

と明るく会話を交わしながら進むこと数時間。

遠くに大きなピンク色が見えてくる。

「あれが世界樹だよ」

と言われて見ると、たしかにそれは満開の花びらに包まれた大きな一本の木だった。

「うわぁ……」

という感嘆の声しか出てこない。

そんな僕にロロアさんが、

「さぁ。行こうか」

と笑顔で声を掛け、僕たちは世界樹へ向かい、ウキウキとした感じで歩を進めていった。

やがて、世界樹に辿り着き、改めてその美しさに声を失う。

はらはらと舞う花びらは地面につくとまるで雪のようにふわっと消えてなくなり、よりいっそう幻想的な雰囲気を醸し出していた。

「不思議ですね……」

「ああ。この世界の謎のひとつさ。さぁ、挨拶をしてごらん」

「あ、はい……」

「幹にそっと触れてみるといいよ」

「わかりました」

と促されて世界樹の幹にそっと手を触れる。

すると僕の中から魔力が抜け、それと同時に温かい、まるでサクラと初めて会った時に感じたような優しい魔力が僕の体の中に流れ込んできた。

サクラと会った時と同じようにピンク色の優しい光に包まれる。

(うわぁ……。温かいなぁ……)

と、その優しさに身を委ねるようにして全身の力を抜くと、僕の心の中に、

「お久しぶりですね」

と、いつか夢の中で聞いたあの女の人の声が聞こえてきた。

「お久しぶりです」

と心の中で返す。

そんな僕の心の中には、また優しい魔力が広がって、まるで世界樹の嬉しい気持ちが伝わってくるようだと感じた。

「会えてうれしいわ」

「僕もです」

「うふふ。ちゃんと成長しているようね」

「はい。みんなのおかげです」

「そう。よかった。これからも歩みを止めないでね。ゆっくりでいいですからね」

「はい。みんなと一緒にがんばります」

と、にこやかに挨拶を交わす。

そんな僕の答えに満足したのか、世界樹は、

「では、力を授けますね。ゆっくり、体の力を抜いて、私の力を受け入れなさい」

と言ってきた。

言われた通り、少し深呼吸をして体の力を抜く。

すると、世界樹のものと思われる膨大な魔力が僕の体の中に流れ込んできた。

(すごい……。ああ、でも全然嫌な感じはしないや……)

と思いながらなされるがままにその力を受け入れていく。

そしてどのくらい経っただろうか。

その力の奔流が収まると、僕の体の中に今まで感じたことのないような力が溢れているのがはっきりと感じられた。


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