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新居と同居人03

意外と広い食堂に六人掛けくらいの小さな食卓が置いてある。

(なんだかちぐはぐな感じがするなぁ)

と思っている僕にロロアさんが、

「ああ。最初はもっと大きな食卓があったんだけどね。二人暮らしには大きすぎるからわざわざ小さいやつを作ってもらったんだよ」

と、まるで僕の考えを察したようにそう言ってくれた。

「そうなんですね。うちの食卓もあんな感じでした。……食事はいつもメルと二人っきりだったんで」

と少し寂しいような感じで苦笑いしながら答える。

そんな僕の前でロロアさんは突然膝をつくと、

「今日からはみんないっしょだよ」

と言って僕を抱きしめてくれた。

僕の胸元からも、

「みゃぁ」(いっしょに食べると美味しもんね)

というサクラの声が聞こえてくる。

僕は思わず涙ぐみながら、

「ありがとうございます……」

と言ってロロアさんの胸に顔を埋めてしまった。

「よしよし。きっと今日のご飯も美味しいぞ」

とロロアさんが少し照れたような感じを隠すように明るくそう言って席に着く。

するとしばらくしてメルとミュウさんがカートを押して食堂に入ってきた。

「みゃぁ!」(ケチャップ!)

とサクラが歓喜の声を上げる。

僕はその言葉の意味がわからなくて、

「けちゃっぷ?」

と聞くと、ミュウさんが、

「うふふ。我が家の名物ですよ。トマトは嫌いじゃないって聞いたんでたっぷり使いましたらからね」

と言ってくれた。

僕がまだよくわからないまま、

「トマトは大好きです……。えっと、そのケチャップというのはなんですか?」

と聞くと、今度はロロアさんが、

「ははは。私考案の魔法のソースのことさ。味は食べてみればわかるよ」

と少しドヤ顔でそう言った。

「うふふ。うちのお姫様は新しい料理を思いつく天才なんですよ。まったく、どこからどうやって思いつくのか今もって謎なんですけどね」

と微笑みながら配膳してくれるミュウさんの言葉を聞きつつその料理をみると、一つのお皿にパスタとお肉とオムレツが盛られていた。

(うわぁ。すごく赤い。ああ、でもすっごく美味しそうな匂いがする……)

と思った瞬間僕のお腹が「きゅるる」となる。

それを聞いたロロアさんが、「はっはっは」と笑い、

「ずいぶんお腹が空いているみたいだね。よし、さっそくいただこうじゃないか!」

と言って、「いただきます」の音頭をとった。

みんなが続けていただきますと言い食事が始まる。

僕はまず見事なまでにオレンジ色のパスタを口にすると、そのあまりの美味しさに目を見開いてしまった。

(甘い! でも、ちょっと酸っぱい。……なんだろう。絶対に食べたことがないはずなのにどこか懐かしい……。まるでこのクルニ村の風景を見た時みたいな感じだ)

と思って少し呆然としていると、それをみたロロアさんが、

「はっはっは。どうだい? 初めてのナポリタンの味は? 今日は歓迎の意味を込めてお子様ランチにしたからね。存分に楽しむといいよ」

と言ってくれた。

(なぽりたん? お子様……は、わかるとしてらんちってなに?)

と思いながらロロアさんを「?」という視線を送る。

すると、その横に座っていたミュウさんが、

「うふふ。料理のお名前なのよ。そのオレンジ色のパスタがナポリタンで、こっちの卵でお米を包んでいるのがオムライス。それから、そのお肉料理がハンバーグっていうの。で、その全部を一つのお皿に乗せて食べる料理をお子様ランチって呼んでるのよ。これもロロア様が考えたお料理で、今では村の名物になってるわね」

と、その謎の言葉の正体を教えてくれた。

「そうなんですね。えっと、おこめってなんですか?」

と、また出て来た謎の言葉について聞いてみる。

すると、今度はロロアさんが、

「ああ、そうだったね。米はエルフが好きな穀物で、ちょっと粘っこいのが特徴なんだ。このロンデール王国ではこの村を含む一部の村でしか作っていないし、知らないのも無理はないかな? まぁ、慣れれば美味しいものだから食べてみるといいよ」

と笑顔で教えてくれた。

「そうなんですね。さっそく食べてみます」

と言ってさっそくそのオムライスと呼ばれた料理にスプーンを伸ばす。

そして、その米なるものだと思われるこれまた見事にオレンジ色の粒々をじっくり観察すると、僕はそれを思い切って口にいれてみた。

(ん? もっちり? あ。甘い。たしかに粘っこいけど、この食感、楽しいかも)

と思ってもぐもぐする。

そんな様子を見ていたロロアさんが、

「どうだい?」

と少しドヤ顔で聞いてきた。

「はい。とっても面白い食感で食べてて楽しいです」

と素直に答える。

そんな僕にロロアさんはニッコリと笑って、

「よかった。たくさんおあがり」

と言ってくれた。

それから楽しい食事が続く。

僕は、

「みゃぁ!」(ケチャップ最高!)

とか、

「うん。これをこの世に生み出して正解だったね」

と言ってワイワイ食べ進めるみんなを見ながら、

(ああ、食事ってこんなに楽しいんだ……)

と嬉しい気持ちでナポリタンのお替りをもらった。


お腹いっぱいで部屋に戻る。

初めて入る部屋は今まで暮らしてきたあの屋敷の離れの部屋よりも少し狭かったけど、どこか温かい雰囲気だと思った。

(今日からここで暮らすんだなぁ……)

と思うとなんだか嬉しいような気持ちになる。

そんな僕の横でメルが、

「良いおうちに巡り会えてようございましたねぇ」

と優しく微笑みながら言ってくれた。

「うん!」

と心からの笑顔で答える。

メルはそんな僕の頭を優しく撫でてくれながら、

「これからが楽しみですね」

と言ってくれた。


その日の夜。

枕元にサクラがやって来たので一緒に寝る。

これまでは一人で寝ていたから、隣に友達がいると思うとなんだか嬉しい気持ちになってなかなか寝付けなかった。


翌朝。

窓から差し込む光を受け、少し眠たい目をこすって起きる。

僕の横ではサクラが大の字になって眠っていた。

そんな様子をおかしく思いながら、お腹の辺りを撫でてやる。

するとサクラはくすぐったそうに体を捻って、

「ふみぃ……」

と、なんだか寝言っぽい鳴き声を上げた。

「ははは。朝だよ」

と優しく声を掛ける。

しかし、サクラはまだ眠りたいというような感じで身をよじり、また、

「ふみぃ……」

と気だるそうな声を上げた。

「ははは。お寝坊さんだね」

と言っていると部屋の扉がノックされる。

「はーい」

と返事をするとメルが部屋に入ってきて、

「お食事の準備が整っております。朝のお仕度をすませてしまいましょう」

といつものように優しく言ってきてくれた。

「はーい」

とまた返事をすると、

「みぃ……」(ご飯……)

と言ってサクラも起きてくる。

「ははは。おはよう」

と挨拶をすると、サクラもまだ眠そうに目をこすりながら、

「みゃぁ……」(おはよう……)

と挨拶を返してくれた。

(ああ。こうやってメル以外に気軽な朝の挨拶をするなんて初めてだなぁ)

と感慨深く思ってサクラを撫でてやる。

そんな僕の手にサクラは「くしくし」と甘えるように頭を擦り付けてきた。

そんなサクラを微笑ましく思いながらもメルに促されて身支度を整える。

そして、メルと一緒に食堂に向かうと、そこには眠そうにあくびをしているロロアさんとその横でお茶を淹れているミュウさんがいた。

「おはよう。アル」

「おはよう。アルちゃん。早起きできて偉いわね」

と言ってくれる二人に、

「おはようございます」

と挨拶をする。

そんな僕に二人はそれぞれ微笑んでくれて、

「さぁ。今日も一日頑張ろうか」

「うふふ。いっぱい食べて元気に遊んでね」

と言ってくれた。

(ロロアさんはともかく、ミュウさんにはなんだか小さい子扱いされている気がするなぁ……)

と思いつつも、

「はい!」

と元気に答えて席に着く。

食卓に置かれたパンからは焼きたてのいい香りがしていた。

(ああ、あったかいなぁ……)

と、しみじみ思いながら、みんなで一緒に、

「いただきます」

と声を揃える。

みんな思い思いの食事に手を付けると、

「うん。いつもながら完璧な半熟具合だ」

「うふふ。それはようございました」

「こちらのパン、本当に美味しいですわね」

「みゃぁ!」(ミュウ天才!)

と楽しく会話をしながら食事が進んでいった。

(ああ、こんなにも楽しい一日の始まりがあるんだなぁ……)

と思って嬉しくなりながら、おっきな腸詰を口いっぱいに頬張る。

そのプリっとした食感と溢れ出してくる肉汁にたくさんの幸せを感じて僕は、

「うん。美味しい!」

と思わず子供のような感想を言うと、みんながそれに微笑んで、

「はっはっは。たくさん食べて大きくなれよ」

「ええ。子供は食べるのが仕事ですからね」

「アル様。良かったです」

「みぃ」(よかったね)

と言ってくれた。

そんな視線と言葉に僕は少し照れくささを感じつつ、

「えへへ」

と、はにかみ今度はパンを頬張る。

焼き立ての柔らかいパンはたっぷりのバターの味がして予想以上にとても美味しかった。

改めて、みんなの顔を見る。

みんな笑顔だ。

僕はその笑顔をなんだかとっても嬉しく思いながらまた食事に手を伸ばした。


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