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世界樹の守護者、アル~追放から始まるほのぼの英雄譚~  作者: タツダノキイチ
第二章

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39/88

世界樹へ04

やがて日が暮れ、夕飯のいい香りがしてくる。

「お肉が焼けたわよ」

というミュウさんの呼びかけに、みんなで、

「はーい」

「みゃぁ!」

「きゅきゅっ!」

「わっふ!」

と元気に返事をすると、僕たちは連れ立ってみんなのところに駆けていった。

「今日はマシロのために持って来た特上のお肉でステーキよ。じゃんじゃん焼くからどんどん食べてね」

「やった!」

「みゃぁ!」(ステーキ大好き!)

「きゅきゅっ!」(特上って特上!?)

「わっふ!」(やったね! 私お替り予約!)

「うふふ。ミュウの料理は久しぶりだから楽しみだわ」

「あらあら。お替わりもたくさんあるからゆっくり食べてね」

「はーい」

「みゃぁ!」

「きゅきゅっ!」

「わっふ!」

と、みんなで元気に返事をしてさっそくお肉をもらう。

ミュウさんが特上と言うだけあって、そのお肉は口に入れた瞬間溶けてなくなってしまったのではないかと思われるほど柔らかく、上品で華やかな香りのする脂がなんとも言えないほど美味しかった。

「んみゃぁ!」(おいしい!)

「きゅぃ……」(とろけるぅ……)

「わっふ!」(すごい! すごいよ、お母さん!)

「ええ。すごいわね。やっぱり人間の作る料理は最高だわ」

「はっはっは。何度も言うが、マシロもたまに村に遊びにくるといい。きっと村で大人気になるぞ?」

「ほんと、そうしたいところなんだけど、今はまだちょっと忙しいのよねぇ……」

「ということは淀みが定期的に?」

「ええ。今のところ大物は出ていないからそっちに頼むほどのことでもないけど、世界樹もため息を吐いていたわ」

「そうなんだね。忙しい時は遠慮なく言ってくれ、すぐ手伝いに入ろう」

「ええ。ありがとう。でもみんなはアルのことをしっかり見てあげて欲しいって世界樹も言っていたわ」

「そうなんですね……。なんだか僕、ご迷惑をおかけしてますか?」

「ううん。そんなことないわよ。アルはしっかり今の自分にできることをやってちょうだい。そうすれば、きっと将来は立派な勇者になれるでしょうからね」

「……はい」

「どうしたの? 不安?」

「……はい。その、勇者っていうのが、イマイチまだピンときてなくって……」

「そうね。まだ魔獣も見たことがないのに、いきなり勇者って言われても戸惑っちゃうわよね。でも、大丈夫よ。これからみんながアルのことを支えてくれますからね。もちろん私も支えるわよ」

「ありがとうございます」

「うふふ。そう。ゆっくりでいいの。無理に頑張らないで。あなたは世界樹に選ばれたんだもの。きっと自分の手で自分の運命を切り拓く力をもっているはずよ。だから焦らずじっくり成長していきなさい」

「みゃぁ!」(アルなら大丈夫だよ!)

「きゅきゅっ!」(うん。アルはいい子だもん!)

「わっふ!」(私も頑張るからアルも一緒に頑張ろうね!)

「うん。ありがとう!」

と最後は僕のこれからをみんなが励ましてくれるという展開になりつつ、食事は楽しく進んでいく。

ユリウスさんもガルボさんも、

「……すごい。これはワインだっただろうな」

「ああ。酒がねぇのが拷問に感じるくらいの美味さだぜ」

と言っていたから、きっとミュウさんは本当に特別なお肉を用意してくれたんだろう。

そんなみんなの明るさに僕の心もいつのまにか楽しさを取り戻し、お腹いっぱいになるまでその特上のお肉を堪能することができた。


満腹になってお茶を飲みながらみんなとまったりとした時間を過ごす。

そんな僕にユリウスさんが、

「明日からは魔獣がいる地域に入るぞ。でも、アルはマシロに乗っていればいいだけだからなにも心配しなくていい。とりあえず、魔獣って存在がどんなものか見学しておいてくれ」

と明日からのことを伝えてきた。

(魔獣……)

と一瞬で緊張感に包まれた僕に、マシロさんが、

「大丈夫よ。それこそ竜が出てきたって守ってみせるわ」

と微笑んでくれる。

僕はなんだか少しだけ安心して、

「はい。よろしくお願いします」

と少し困ったような笑顔で感謝の気持ちを伝えた。


翌朝。

「さぁ、乗って。大丈夫よ。毛は引っ張っても痛くないから遠慮なくつかんでね」

と言ってくれるマシロさんに恐る恐る乗らせてもらう。

始めて触ったマシロさんの体は本当に毛がふわふわのもこもこでまるで雲の上に乗っているかのような心地よさを感じた。

「うわぁ……」

と、ただただ感嘆の声を上げ、見慣れない高い視線にきょろきょろと辺りを見回す。

僕の隣ではサクラとデイジーも、

「みゃぁ!」(ふわふわ!)

「きゅきゅっ!」(高くて気持ちいい!)

と喜びの声を上げ、

「よし。準備が整ったらさっそくいこうか」

というユリウスさんの号令で僕たちは世界樹を目指し出発した。

僕はただ移り行く森の風景をみながらみんなとじゃれ合っているだけで、どんどんマシロさんが森の中を進んでいく。

(すごいな、マシロさん。全然ぶれないし、乗ってて眠くなっちゃうくらい快適だよ……)

と思いながら時々みんなに声を掛けられつつ進んでいると、先頭を進んでいたガルボさんが、急に足を止め、スッと右手を上げた。

すぐにマシロさんも足を止めたが、僕に、

「大丈夫よ。よく見ておいてね」

と言ってくる。

僕が、「もしかして……」と言いかけると、その瞬間ユリウスさんが無言で刀を抜いた。

真っ黒い刀身にすごい魔力がまとわりついている。

(すごい。これがユリウスさんの力なんだ……)

と感心していると、そんなユリウスさんをミュウさんが手で制し、

「私に恰好つけさせてください」

と言いながら背負っていた薙刀をスッと構えた。

「……わかった。好きに暴れてくれ」

とユリウスさんが苦笑いで刀を納める。

すると、僕たちの周りからワラワラと人型でいかにも醜悪な形相をした魔獣たちが現れた。

「あれがゴブリンだ。たいした相手じゃないがとにかく群れてくる。手数が必要になるから厄介だが、慣れればたいしたことなくなるぞ」

というユリウスさんの説明は一応耳に入ってきたが、僕の心はそれどころじゃない。

(なにあれ! 気持ち悪い。え? もしかしてミュウさんが一人で戦うの? ……ミュウさんが強いのは知ってるけど……)

と思いながらドキドキしている僕をよそ目にミュウさんが動く。

その動きは普段の稽古では見られないほど速く、僕は目で追うのがやっとだった。

流れるような薙刀さばきで次々にゴブリンが斬られていく。

その様子に僕は嫌悪感を隠しきれなかったが、ユリウスさんが、

「よく見ておけ。これが将来対峙することになる魔獣という存在だ」

と言ったので、なんとか頑張って目を逸らすことなくその戦いを見続けた。

ものの五分ほどで戦闘が終わる。

「ふぅ……。どうだった?」

「あの……。正直、怖かったです……」

「そうね。魔獣は恐ろしいわ。でも、慣れれば平気よ。大丈夫、そのために毎日お稽古頑張ってるんだから、アルちゃんならきっと上手く対処できるようになるわ」

と言うミュウさんに僕は顔を青ざめさせながらもなんとか、

「……がんばります」

と伝えることが出来た。

そんな初めての魔獣と遭遇した地点で、

「休憩にしよう。ミュウお茶を淹れてくれるかい?」

とロロアさんが気さくに声を掛ける。

しかしミュウさんは、ちょっとムッとしたような顔で、

「もう。アルちゃんが気味悪がってじゃないですか。少し移動してからにしますよ」

とロロアさんの意見に珍しく反対した。

「あはは。それなら任せてくれ。なに、私も少し恰好つけたいんだ」

と言ってロロアさんが背中に背負っていた豪奢な杖を手に取る。

そして、軽く目を閉じると、いつものうように落ち着いた声で、

「デイナ」

と、つぶやいた。

びっくりするくらい綺麗な魔力の波が青白い光になって広がっていく。

僕はいったい何が起きたんだろう? と思って辺りを見回したが、辺りに目立った変化はない。

本当に何だろうと思ってきょとんとしていると、ロロアさんがちょっと得意げな顔で、

「どうだい?」

と聞いてきた。

「えっと……」

と困ったような笑顔で問い返す僕にロロアさんは、

「よく見てごらん。ゴブリンの死骸が消えているだろ?」

と苦笑いで言ってくる。

そう言われてよく見てみれば、たしかに先ほどまであった醜悪なゴブリンの死骸はきれいさっぱり無くなっていた。

「これが聖女の力さ。どうだい? 驚いたろう」

と、また得意げに言うロロアさんに、

「はい。すごいです!」

と感動を伝える。

すると、ロロアさんは得意げに胸を張り、その横でミュウさんがさらにムッとしたような顔になった。

「もう……。せっかく私がいい所を見せたっていうのに……」

と拗ねたようにいうミュウさんにロロアさんに、

「はっはっは。すまん、すまん。気を取り直してお茶にしようじゃないか」

と笑いながら慰めるように声を掛ける。

そのやり取りはいつものリビングで行われているものとさして変わらず、僕はなんだか安心して、

「ぷっ」

と噴き出してしまった。


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