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世界樹の守護者、アル~追放から始まるほのぼの英雄譚~  作者: タツダノキイチ
第二章

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初めての森01

ガルボさんから剣をもらって三か月くらいが経つ。

剣を使って魔法を出すのにもずいぶん慣れてきた。

僕が魔法の威力の大きさを調整するのに苦労している一方でライラちゃんは易々とそれをこなしていく。

その姿を見て、少し嫉妬のような感情を覚えたけど、ミュウさんが、

「アルちゃんは魔力が大きいから制御するのが大変なのよ。大丈夫。焦らずじっくりやれば上手くできるようになりますからね」

と言ってくれたので、落ち着いて稽古に励むことができた。

剣術の方も順調で、ミュウさんにもユリウスさんにも褒められたし、最近ではライラちゃんに勝つことの方が多くなってきている。

ライラちゃんはそのことを悔しく思っているらしく、稽古の度に、

「もう一回! もう一回勝負して!」

と何度も勝負を挑んでくるようになった。

僕もライラちゃんと試合をするのは楽しいから、ついつい何回も受けてしまう。

そんな僕たちをリリカちゃんはいつも優しい目で見守ってくれているが、時々、

「私も運動が得意だったらよかったのになぁ……」

と、こぼすこともあった。

その度に僕やライラちゃんが、

「リリカちゃんはリリカちゃんの得意なことで頑張ればいいんだよ」

「そうそう。リリカお勉強得意じゃん! 私はそっちの方が羨ましいよ」

と言って慰めていたおかげで、最近ではリリカちゃんも、

「そうだね。私頑張ってお勉強して将来はロロアさんみたいな立派な薬師さんになるんだ」

と将来の夢を語ってくれるようにっている。

そんなある日。

僕たちがいつもの様に稽古の後の勉強会を開いていると、そこにユリウスさんとロロアさんがやってきた。

「お。今日も頑張ってるな」

「あ! ユリウスのおっちゃんだ。こんにちは!」

「ははは。こんにちは。ライラは勉強も頑張ってるか?」

「うん!」

「そうか、それは偉いな。冒険者にも最低限の教養は必要だからきちんと勉強するんだぞ」

「うん! わかった!」

とライラちゃんと話しているユリウスさんに、

「ユリウスさん、こんにちは。今日はどうしたんですか?」

と訊ねる。

するとユリウスさんはニコリと笑って、僕の頭をぐりぐりと撫でながら、

「アル。近いうちに森にお散歩に行ってみないか?」

とちょっと意外なことを言ってきた。

「お散歩、ですか?」

「ああ。なんていうか冒険ごっこって言った方がいいかな? 森の浅い所にある広場みたいなところに行って、キャンプをするんだ。もちろんお泊りもするぞ」

「え? なにそれ! 私も行きたい!」

「ははは。そうかじゃあライラも一緒に行こう」

「やった! ねぇ、リリカも一緒に行こう?」

「え? 私も?」

「うん。きっと楽しいよ!」

「……それって危なくないのかな?」

「ああ。それなら大丈夫だ。俺とロロアとミュウが一緒だからな。滅多なことにはならないぞ」

「……うん、じゃぁ……」

「やった! ねぇ、アルはもちろん行くでしょ?」

「うん。みんなでお泊りなんて初めてだから、楽しそう!」

「うん。きっと楽しいよ!」

という流れでみんなでキャンプに行くことが決まる。

僕は初めてのキャンプという言葉にワクワクして、その日はなんとなく勉強が手につかなくなってしまった。

その日の晩、一緒に晩ご飯を食べていくというユリウスさんからメルに、

「明後日からアルを一日キャンプに連れて行こうと思うんだが、いいか?」

と確認を取ってもらう。

メルはちょっと心配そうな顔をしたが、ユリウスさんやロロアさん、それにミュウさんも一緒だということで、なんとかキャンプに行くことを許してくれた。

「楽しみだなぁ」

とワクワクで言う僕に、メルが、

「大人の言うことをちゃんと聞いて安全に楽しんできてくださいね」

と少し困ったような笑顔で注意を促してくる。

僕はそんな心配性のメルに、

「うん。わかってるよ」

と、にこやかに答えてみせた。

翌日、学問所でグスタフ先生にみんなでキャンプに行くことを伝え、休みの許可をもらう。

グスタフ先生も、

「ギルマスが一緒なら滅多なことにはならんだろうが、大人の言うことをちゃんと聞いて安全に楽しんでこいよ」

とメルと同じようなことを言ってきた。


そして翌日の朝。

準備を整えて玄関の前で待っていると、そこにユリウスさんが荷馬車を操ってやってきた。

荷台を見ると、そこにリリカちゃんとライラちゃんが乗っている。

「おはよう」

「「おはよう!」」

と挨拶を交わして僕もさっそく荷馬車に乗り込むと、メルが、

「ハンカチは持ちましたか? 水筒のお水はこまめに飲んでくださいね。あと、くれぐれも一人で行動しないようにしないといけませんよ」

と心配そうな顔で注意をしてきた。

「うん。大丈夫だよ」

と答えて微笑んで見せる。

そんな僕をメルはぎゅっと抱きしめて、

「無事、帰ってきてくださいね」

と少し涙声でそう重ねて言ってきた。

「もう……。メルったら心配しすぎだよ。みんな一緒だから大丈夫だよ」

と言ってメルの背中をポンポンと叩いてあげる。

それで、メルは少し安心したのか、やっと僕から離れてユリウスさんやロロアさんに向かって、

「よろしくお願いしますね」

と再度確認するようにそう言った。

「ああ。任せてくれ」

というユリウスさんに続いて、

「みゃぁ!」

「きゅきゅっ!」

「わっふ!」

とみんなも「任せて!」と言うようなことを言う。

その声はメルには通じていなかったかもしれないけど、メルはにっこりと微笑んで、

「みんなも気を付けてね」

と言い順番にみんなの頭を撫でてくれた。

「じゃあ、出発だ」

というユリウスさんの掛け声で馬車が動き始める。

メルは僕たちが見えなくなるまでずっと手を振っていてくれた。

「そう言えばアルはメルと離れるのは初めてだったね。平気かい?」

「はい。みんながいるから平気です」

「ははは。じゃあ、そういう意味でも初めての冒険だな」

「はい。なんだかドキドキします」

「うふふ。緊張しなくても大丈夫よ。辛くなったらすぐに言ってね」

「はい。ありがとうございます」

と会話しながら森に向かうあぜ道をガタゴトと揺れる荷馬車に揺られる。

そんな荷馬車の揺れでこの村に来るまでの旅のことを思い出し、

(同じ荷馬車に乗るのでもこんなに気持ちが違うんだな……)

と妙に感慨深いような思いになった。


やがて、森の入り口近くにある農家さんの家に到着しそこで荷馬車を降りる。

その家はよく冒険者さんの荷馬車を預かってくれているらしく、ユリウスさんも、

「じゃあ、いつも通りよろしくな」

と慣れた感じで後のことをお願いしていた。

森というともっと鬱蒼とした感じを想像していたが、意外にも明るい道を進んでいく。

ユリウスさん曰く、この辺りは林業をする人なんかも頻繁に通るから、ちゃんと道が整備されているんだそうだ。

そんな整った道をみんなでワイワイと話しながら歩いていくと、目的の広場のようなところにはすぐに到着した。

「さて。近くに小さな泉があるからそこで手を洗ったらまずは昼食にしよう。テントの設営とかはその後だな」

というユリウスさんの号令でまずは手を洗いに行く。

始めてみる泉の水は普段使っている井戸の水よりも冷たくて、キラキラと透き通って見えた。

「綺麗だね」

「うん。とっても冷たくてきもちいいね」

「きっと飲んでも美味しいよ」

と話しながら手を洗い、広場に戻る。

そして、広げられた敷物の上に座ってさっそくミュウさんが用意してくれたお弁当にみんなで手を付けた。

「このたまごサンド美味しい!」

「うふふ。よかった。たくさんあるからゆっくり食べてね」

「ライラちゃん。こっちのから揚げも美味しいよ」

「あ! ミュウさんのから揚げだ! やったー!」

「ははは。慌てなくても誰も取らないからゆっくり食べろよ」

「はーい」

「ははは。どうだい。外で食べると一味違うだろ?」

「はい。なんだかいつもよりとっても美味しい気がします」

「うふふ。それはきっと気持ちが楽しいからね。お食事はどこで誰とどんな気持ちで食べるかによって味が違ってくるものだから、このお弁当がいつもより美味しいって感じるのはアルちゃんが今とっても楽しいと思っているからかもしれないわね」

「そうですね。みんなとこうやってお外でご飯を食べるなんて初めてだから、とってもウキウキして楽しいです」

「ははは。そいつはよかった。それだけで連れてきた甲斐があるってもんだ」

「うん。ユリウスのおっちゃん、ありがとう」

「ありがとうございます」

そんな楽しい会話をしながら食べるお弁当は本当に美味しくて僕はついつい食べ過ぎてしまった。

満腹になったお腹をさすりながら、敷物の上にごろりと転がる。

普段ならお行儀が悪くてできないことだけど、今日はなんだか特別なような気がして思いっきり手足を伸ばしてごろりと横になった。

そんな僕の横にサクラとデイジーも寄って来て丸くなる。

そんな僕に構わずスミレとライラちゃんが追いかけっこを始め、リリカちゃんは側に生えている草を見ながらロロアさんとなにやら草の種類について話をし始めていた。

(なんだか幸せだなぁ……)

と思いながら空を眺める。

空はいつもと変わらないはずなのに、今日はなんだかずいぶんと青くて広いように感じられた。


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