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世界樹の守護者、アル~追放から始まるほのぼの英雄譚~  作者: タツダノキイチ
第二章

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メイドの一日その2

ここクルニ村に来て二年。

私とアル様は信じられないほど幸せな日々を送っている。

思えばこのお屋敷での生活は驚くことばかりだった。

侯爵家ですら所持していない魔法鞄をまるで買い物かごのように普段使いしているし、台所には冷蔵庫という食品を冷やして保存できる大きな箱まであった。

「この冷蔵庫って便利ですよね。なんでもっと流行らないんでしょう?」

「あー。それはね。まず魔道具の核になる材料が特殊な魔石だから数が作れないの。それに作れるのもガルボを含めた何人かの優秀な職人だけだから、今のところ所持してるのは各国の王族とかだけらしいわ」

「……そ、そうなんですね」

「ええ。うちはその特殊な材料も自分たちで用意できるし、村にはガルボがいますからね」

「ガルボさんってすごい人だったんですね」

「ええ。あれで一応賢者ですもの」

「え!? 賢者様だったんですか?」

「うふふ。酒飲みでぐうたらだけど、腕は一流よ」

「……そ、そうなんですね」

というような会話で何度驚かされたことだろう。

お洗濯は手で回さなくても自動で回ってくれる洗濯機があるし、お風呂も薪を使わず沸かすことができる。

そんな生活にも慣れ、日々成長するアル様に合わせて服を仕立て直したり、ミュウさんから料理を教わったりする日々は、幸せ以外のなにものでもなかった。

アル様も学問所でお友達ができ、近頃では毎日そのお友達のリリカちゃんとライラちゃんをうちに呼んで、お稽古や勉強に励まれている。

あの頃とはまったく違うアル様のいきいきとした目を見ていると、

(本当にここに来られてよかった……)

と心の底からそう思えた。

ふと、私の人生がまだ灰色だった時のことを思い出す。

アル様とその母エルザ様が過酷な日々を送るようになったのはアル様に魔力が無いとわかった時からだった。

私たちは小さな離れに追いやられ、飼い殺しのような生活を送ることになる。

そんな生活の中でエルザ様が突然息を引き取られた時、私はこの世界が終わったんだと思った。

しかし、そんな私を救ってくれたのは、まだ言葉もはっきりおしゃべりになれないアル様の笑顔だったように思う。

(この子を泣かせてはいけない……)

その一念で私は前を向き、なんとかアル様を支えてこられた。

(思えばいろいろあったわね……。私たちに良くしてくれたみんな、元気かしら……)

と、日々細かいことで協力してくれた台所係のおじさんや子育ての悩みを聞いてくれたおばさんのことを思い出す。

そんなことを思っていると、玄関から、

「ただいま!」

というアル様の元気な声が聞こえてきた。

「おかえりなさいませ。すぐにお稽古ですか?」

「うん。ライラちゃんとリリカちゃんもすぐにくると思うよ」

「かしこまりました。休憩の時はクッキーをお出ししますね」

「うん。ありがとう!」

「いいえ。お稽古頑張ってくださいね」

「うん!」

と元気に返事をして嬉しそうに部屋に向かうアル様を見送り、さっそくおやつの準備に取り掛かる。

今日のおやつは、自信がある。

ミュウさんから教えてもらったカボチャの種が入ったクッキー。

クッキーのホロホロとした食感とカボチャの種の硬い食感が面白く、バターの香りもきいているからきっと喜んでもらえるだろう。

そんなことを思いながら、私は心を込めてクッキー生地を練っていった。

やがてお稽古が終わり、いったんおやつの時間になる。

この後はお勉強の時間だ。

基本的にはここもミュウさんが見てくれているが、時々ロロア様も勉強を見てくださることがある。

その日もロロア様がやって来て、

「アルはずいぶん先まで進んでいるようだね。だったら、古代エルフ語の魔法陣もやってみないかい? 覚えておくと何かと便利だよ」

と言って、新しい教科書をくださった。

「ありがとうございます。やってみます!」

と、まるで新しいおもちゃをもらったかのように喜ぶアル様を見て、私もなんだか嬉しい気持ちになり、

「アル様。よかったですね」

と言うとアル様は満面の笑みで、

「うん!」

と応えてくれた。

それからも稽古と勉強は毎日のように続き、ついにアル様が魔法を覚えられる。

魔法は三人同時に習い始めたが、一番先に使えるようになったのはリリカちゃんだったらしい。

いや、正確に言えば最初に適切に使えるようになったのがリリカちゃんだったということらしく、アル様とライラちゃんは威力が大きすぎて、それを調整するのにずいぶんと苦労したのだとか。

特にアル様は生活魔法である風の魔法を使おうとして突風を起こしてしまい、庭木を何本か折ってしまったほどだったそうだ。

それには驚いたが、ロロア様曰く、

「ああ。魔力の多い子にはよくある事だから心配ないよ」

とのことだったので、私は少しほっとしてみんと一緒に荒れた庭のお掃除をした。

それから、数日でアル様もライラちゃんもコツをつかみ、今ではお風呂上がりにペットのみんなを乾かしてあげるのはアル様の役目になっている。

私はどこか寂しいようなことを感じつつも、アル様の成長を喜び、その姿を見守った。

時は否応なく過ぎていく。

そして、常に日常は変化するものだ。

きっと私もアル様もこれから、いくつもの変化を迎えることだろう。

しかし、私は妙な確信を持って、

(きっと大丈夫よ)

と思うことが出来た。

それもきっとロロア様やミュウさん、それにこの村の優しい人たちがいてくれるおかげだろう。

(ここでならきっとアル様は幸せに過ごすことができる。私、きっとアル様に世界一幸せな人生を歩んでもらいますからね。……見ててください、エルザ様)

そんなことを心の中でつぶやいて、今日も良く晴れた空を見上げる。

空には小さな雲がのんびりと流れ、どこかから美しい鳥の声が聞こえてきた。

(長閑なものね……)

と微笑みながら、繕い物の続きに取り掛かる。

最近、ズボンがきつくなってきたというアル様のために新しいズボンを縫っているが、

(きっとこのズボンもそのうち入らなくなるんでしょね……)

と思うと、私の胸にしみじみとした幸福感があふれ出してきた。


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