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世界樹の守護者、アル~追放から始まるほのぼの英雄譚~  作者: タツダノキイチ
第二章

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初めての魔法

学問所から戻り、その日もライラちゃんと一緒に剣術の稽古に熱中する。

最近では、ミュウさんの薙刀を軽くだけど振れるようになったし、ライラちゃんとの打ち合いもずいぶん形になるようになってきた。

「いい調子ね。二人とも剣筋がだんだん良くなってきているわ。そろそろ魔法を使う練習を始めてもいいかもしれないわね」

というミュウさんの言葉にライラちゃんが、

「魔法!? 私も魔法使えるの?」

と少し大袈裟に喜びの声を上げた。

「ええ。ライラちゃんはアルちゃんほど魔力が多いわけじゃないけど、使い方がとっても上手だから、きっと向いているわよ」

「ほんと!?」

「ええ。でも、これまでより練習がきつくなるけど平気?」

「うん! 平気だよ!」

「うふふ。じゃあ、次からは魔法の使い方も稽古しましょうね」

「やった!」

と喜ぶライラちゃんを微笑ましく思いつつふと裏庭の端で本を読んでいるリリカちゃんに目をやると、リリカちゃんがちょっと寂しそうな目でこちらを見ているのが見えた。

慌てたように視線を逸らすリリカちゃんを見て、

(もしかして、リリカちゃんも魔法に興味あるのかな?)

と思い、

「ねぇ。ミュウさん。魔法ってリリカちゃんにも教えてあげられますか? 生活魔法とかなら大丈夫ですよね?」

と訊ねてみた。

「うーん。そうね。そのうち学問所でも魔法の基礎を習うと思うけど、ちょっと早めに初めてもいいかもしれないわね」

というミュウさんの言葉を聞いて、さっそくリリカちゃんの方に駆け寄る。

「あのね。リリカちゃんも一緒に魔法のお稽古しよう? 生活魔法使ってみたいでしょ?」

「えっと、でも……」

「大丈夫だよ。みんな一緒に習うから怖くないよ」

「……うん」

「よし。決まりだね。明日からはリリカちゃんも一緒に魔法のお稽古だよ」

「うん!」

という感じで、ちょっと強引にリリカちゃんも魔法の稽古に参加することを決めると、その日はみんなそれぞれに笑顔で稽古を終えた。

晩ご飯を食べながら、ミュウさんとロロアさんに、

「二人はどんな魔法を使うんですか?」

と軽く質問する。

その質問にはミュウさんが、

「私は主に風魔法よ。薙刀に魔力をのせて放つ感じね。で、ロロア様は聖魔法を使うの。これは選ばれた人じゃないと使えないものだから、アルちゃんには向いてないかな? でも、アルちゃんはすっごく大きな魔力を持っているから、他の魔法はいっぱい使えるようになると思うわよ」

と答えてくれた。

「魔法ってたくさん種類があるんですね」

「ええ。例えば私は風魔法以外にも水魔法が得意だし、ガルボは火魔法と土魔法を使えるわ。ユリウスは身体強化系に特化してるわね。他にも防御魔法に光や影を操る光魔法、水魔法の発展形の氷魔法なんていうものあるし、珍しいところだと使役魔法っていって動物と意思疎通できるようになる魔法なんていうのもあるのよ」

「へぇ。その使役魔法って面白そうですね」

「うふふ。使役魔法は主に畜産の現場で使われているけど、動物の意志がなんとなくわかる程度だから、サクラたちとお話するようにはいかないみたいよ」

「そっかぁ……。もっとたくさんの動物といっぱいお話できたら楽しいかもって思ったのになぁ……」

「うふふ。アルちゃんらしい考えね。他にもロロア様がやっているように魔力の流れを読んで体の悪い場所を見つける魔法なんていうのもあるから、魔法の道は奥が深いのよ」

「そうなんですね。僕、頑張っていろんな魔法が使えるようになります!」

「うふふ。頑張ってね」

と話していると、僕の中でどんどん魔法への興味が湧いてきて、なんだかウキウキした気分になった。

その日もみんなと一緒に布団に入り、

「ねぇ。魔法が使えるようになったらどんなことしてみようか?」

「みゃぁ!」(お外でお肉焼いて!)

「きゅきゅっ!」(私は高い所の果物を落としてもらいたいかな?)

「わっふ」(お風呂の後、ふかふかにするのやって!)

「あはは。そうだね。それは全部してみよう。他にも、水を凍らせて冷たいジュースを飲んだり、冷めたご飯をほかほかに戻したりするのもしてみたいな」

「にゃぁ!」(それいいかも!)

「きゅきゅっ!」(アルってば、やっぱり食いしん坊さんだね!)

「えー。みんなには言われたくないよ……」

「わっふ!」(あはは! みんな食いしん坊さんだもんね)

「うん!」

と楽しく話しながら眠くなるのを待つ。

しかし、その日はウキウキした気分が強くてなかなか眠くなってくれなかった。


翌朝。

少し寝不足気味の体をなんとか起こして朝の支度を整える。

少し眠そうな顔をしていたからメルに心配されてしまったけど、

「魔法のことを考えてたらちょっと寝不足になっちゃっただけだよ」

と言うと、メルはニッコリ笑って、

「楽しみができてよかったですね」

と言ってくれた。

いつものようにモリモリご飯を食べて、元気に学問所に向かう。

学問所でリリカちゃんとライラちゃんも、「昨日はわくわくして上手く眠れなかった」というようなことを話していたので、

「あはは。同じだね」

と言ってみんなで笑い合った。

いつものようにグスタフ先生の号令で授業が始まる。

そしてその日は下の子たちのお絵描きを手伝ってあげたり、みんなで外遊びをしたりして楽しく授業を終えた。

いつものように、

「じゃあね」

「うん。またあとでね」

と挨拶をして家路を急ぐ。

家が近づくごとに僕のワクワクは大きくなり、最終的には全速力で走って家の門をくぐった。

「ただいま!」

と息を切らしながら言う僕に、メルが、

「何かあったんですか!?」

と心配そうな顔で聞いてくる。

僕はそれに苦笑いを返すと、

「魔法のお稽古が楽しみで走って帰ってきちゃっただけだよ」

と言い、メルを安心させてあげた。

「まぁ……。とりあえず、お水をお持ちしますね」

と安心したような笑顔で言ってくれるメルにお礼を言って部屋に向かう。

そして、急いで着替えを済ませ、メルが汲んできてくれた冷たい水を一気に飲み干すと、僕は元気に裏庭に出ていった。

いつものように掃き掃除をしながらみんなが来るのを待つ。

するとそこにミュウさんとロロアさんがやってきた。

「やぁ。いつも真面目で感心、感心」

と言いつつ、僕の頭を撫でてくるロロアさんに、ちょっと照れながら、

「今日はどうしたんですか?」

と普段稽古に関与しないロロアさんがここにやってきた理由を訊ねる。

するとロロアさんは僕の目の前に二十センチくらいの木の棒の先に綺麗な青色の石が付いたものを差し出してきた。

「練習用のワンドだよ。これを使うと魔法を出しやすくなるんだ。見た目は質素だけど、性能はそこそこ良くしてあるからね。存分に使ってくれたまえ」

「ありがとうございます!」

「ははは。今日はせっかくだから私も稽古を見てあげよう。リリカとライラももうすぐ来るんだろう?」

「はい。今日はみんな楽しみにしてたから、すぐにくると思いますよ」

「そうかい、そうかい。いやぁ、なんだか自分の小さい頃のことを思い出すねぇ」

「小さい頃ですか?」

「ああ。もう何百年も昔のことだけど、私も初めて魔法を習うって決まった時はドキドキ、ワクワクしたものさ。まぁ、そこで聖魔法の素養があるのがわかってそこから結構な猛特訓が始まってしまったんだけどね……。ふっ。今ではそれもいい思い出さ」

「……ロロアさんは何百年も生きてるんですね……」

「おいおい。感心するのはそこかい?」

「あ。すいません。女性に年齢の話を……」

「はっはっは。アルはおませさんだなぁ」

と最後は豪快に笑って僕の頭をグシグシと撫でるロロアさんにちょっとだけ照れながらも僕はもらったばかりの小さなワンドに目を向ける。

それは質素な見た目だったけど、

(これがあれば魔法が使えるんだ……)

と思うと、僕にはそれがなんだかものすごく大切な宝物のように見えた。

「お。来たようだね」

というロロアさんの言葉でハッとして裏庭の入り口の方を見る。

そこには僕と同じように息を切らしたリリカちゃんとライラちゃんがいた。


「「こんにちは!」」

「はい。二人ともこんにちは」

「今日はロロア先生も一緒なんですか?」

「ああ。みんなに練習用のワンドを作ってあげたからそれをあげるついでにね」

「やった! よろしくお願いします!」

「ははは。こちらこそよろしく。さぁ、さっそく準備運動から始めてみようじゃないか。ああ、私はリリカを見るから、ミュウはアルとライラを見てあげてくれ」

「かしこまりました」

とそれぞれの担当が決まったところで、準備運動を始める。

始めてやるリリカちゃんに動きを教えてあげながら、軽く手足の筋肉を伸ばしていった。

「さて、今日はまず魔法を使った時の感覚を疑似的に体験してみよう。なに、心配はいらないよ。みんなの体を通して私たちが魔法を出すだけだからね。でも、自分の体の中で魔力が動く感じとか魔法を出した瞬間の独特な感じを体感できるから、その感覚を覚え込むんだ。そうすれば習得がより早くなるからね」

「「「はい!」」」

「ははは。いい返事だ。じゃあ、まずはアルからやってみようか。ミュウ頼んだよ」

「かしこまりました。ではアルちゃんこっちへどうぞ」

「はい……」

「大丈夫。緊張しないで。ちゃんと支えてますからね」

と言ってミュウさんが僕の後に立ち、抱きしめるようにして僕の手を取る。

「いい? 私の魔力が流れてくるのを素直に感じてね。怖がらなくても大丈夫だから、素直に力を受け入れるのよ」

と優しく言ってくれるミュウさんにしっかりうなずいて見せると、ミュウさんもコクリとうなずいて、

「いくわよ」

と号令をかけ、さっそく僕に魔力を流し込んできた。

じんわりと温かい魔力が流れてきて、僕の手元にそれが集まっていく。

すると、杖がゆったりと光り、ミュウさんが、

「クット」

と、つぶやいた瞬間、僕の中からふわっと魔力が抜け、目の前の庭木がザワザワと音を立ててしなやかに揺れた。

「今のはわかる?」

と問われて少しハッとし、

「はい。古代エルフ語で風の意味ですよね。だから、今使ったのは風魔法ですか?」

と答える。

すると、ミュウさんはニコッと笑い、僕の頭を軽く撫でながら、

「そう。よく勉強してて偉いわね。今はわかりやすいように呪文を使ったけど、慣れれば必要なくなるわ。魔法は想像力が重要なの。だから、最初はわかりやすいように呪文を使うけど、それを何回も繰り返し練習すれば、そのうち呪文無しでも魔法が出せるようになりますからね。さぁ、もう一度やってみましょう」

と言ってくれた。

「はい!」

と元気に返事をして、もう一度同じことを繰り返す。

今度はさっきよりもはっきりと魔力の流れを感じ、魔法を放つ瞬間の感覚を味わうことができた。

「じゃあ、交代。次はライラちゃんね」

「はい!」

「うふふ。肩の力を抜いて。そう。楽にね」

「はい!」

「じゃあ、いくわよ」

「はい!」

「クット」

「ぬわっ!」

「うふふ。わかった?」

「うん。すごかった!」

「そう。よかったわ。じゃあ、もう一回ね」

「はい!」

というやり取りを見て、改めて、

(魔法って不思議だなぁ……)

という感想を持つ。

(ぱっと見は何も無い所からいきなり風が出てくるんだもん。いったいどういう仕組みになんだろう?)

と思っていると、後ろからロロアさんが、

「ははは。いつ見ても魔法ってのは不思議なものだね。まったく、この原理が解明されれば世紀の大発見だろうね」

と言ってきた。

それを聞いた僕が、

「そっか……。ロロアさんでもわからないことがあるんですね」

と、つぶやくとロロアさんは「あはは!」と少し豪快に笑い、

「世の中謎だらけさ!」

と、さもおかしそうにそう言った。

そんなやり取りのあと、リリカちゃんも魔法体験を済ませる。

そして、その後は、僕とライラちゃんはいつもの魔力操作の練習をし、リリカちゃんはロロアさんに習って魔力操作の基本を稽古していった。

集中してみっちり稽古をしたおかげで疲れた体をミュウさんが用意してくれたおやつで癒す。

「これ、美味しい! なんていうお菓子?」

「フィナンシェっていうのよ」

「そうなんだ! これすっごい好きかも!」

と嬉しそうにフィナンシェというお菓子を頬張るライラちゃんを微笑ましく思いながら僕も甘くてしっとりした食感に舌鼓を打つ。

すると、そこにサクラとデイジー、スミレもやって来てその場がちょっとしたお茶会のような雰囲気になった。

「ははは。今日は疲れたろうから、この後の勉強は休みにしてこのままお茶会にしよう」

というロロアさんの提案に、ライラちゃんが、

「やった!」

と喜びの声を上げる。

僕はそんなライラちゃんを少し困ったような笑顔で見つめるが、本心ではライラちゃんと同じく喜びの声を上げていた。

麗らかな風が吹く陽だまりにみんなの笑顔がはじける。

僕は改めて、この家に来られたことを喜び、心の底からみんなに感謝した。


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