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世界樹の守護者、アル~追放から始まるほのぼの英雄譚~  作者: タツダノキイチ
第二章

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変わらない日常02

剣術の稽古の後は軽く休憩を挟んで勉強の時間になる。

僕とリリカちゃんはそれぞれ問題集を解いたり、図鑑の内容を写したりして、ライラちゃんはミュウさんから基礎の勉強を教わった。

そんなことをしているところに、ロロアさんがやってくる。

「お。今日も頑張ってるね。どれどれ、どんなことをしているのか見せてごらん」

というロロアさんに、まずは僕が、

「今日は古代エルフ語の勉強をしてました」

と言って、簡単な文章を繰り返し書いて覚えたノートを見せると、ロロアさんは驚いたような顔で、

「そいつはすごいね。頑張ればエルフの魔法も使えるようになるから、たくさん覚えるんだよ」

と言ってくれた。

そんなロロアさんに、ミュウさんが、

「今日アルちゃんはコツをつかんだんですよ。私の薙刀を振れるようになるのも時間の問題ですわ」

と今日の僕の成果を報告する。

するとまたロロアさんは驚いたような顔をして、

「そうかい。じゃあ、そろそろだね」

と意味深なことを言って、今度はリリカちゃんの方に視線を移した。

「リリカはどんな勉強をしているんだい?」

「はい。この間貸していただいた植物図鑑から知っているものを書き出してました」

「ほう。どれどれ……。おお、見事なものだね。なるほど、どれもこの辺りで良く見るものばっかりだ。それに効能と精製の方法も綺麗にまとめられている。うん。立派だよ」

「ありがとうございます。あ、そういえば、このヤックル草っていうのは、こっちのコルツ草とどうやって見分けるんですか? 図鑑には違いが分かりにくいとしか書いて無くって……」

「ああ。あれか。ヤックル草ってのは主に胃腸薬の味を調えるのに使うんだけど、生の状態だと独特の青臭い匂いがするんだ。一方コルツ草は匂いがあまりない。この二つは専門家でも見分けるのが大変だから、最初のうちは手を出さないことだね。特に野生のものには手を出さない方がいいよ。なにせコルツ草は口に入れると腹を下してしまう恐れがあるからね」

「はい。わかりました。手出ししないようにってメモしておきます」

「うん。それがいいよ」

と、かなり専門的な話をする二人を見て、単純にすごいなと感心する。

そして、

(僕も負けてられないや)

という思いを強くしながら、また教科書に目を戻し、書き取りの練習を再開した。

そんな充実した午後はあっと言う間に終わり、二人がそれぞれの家に戻っていく。

「また明日!」

「うん。また明日ね」

というやりとりはちょっと切ないけど、明日も楽しいことが待っているという希望を僕にくれた。

二人が屋敷の門をくぐりその姿が見えなくなるまで見送ると、気持ちを切り替えて屋敷の中に戻っていく。

すると、そこにサクラとデイジー、それにスミレがやって来た。

「みゃぁ!」(お勉強終わった? 遊ぼう!)

「きゅきゅっ!」(抱っこして!)

「わん!」(今日のご飯はハンバーグだと思うよ!)

というみんなと一緒にリビングに向かう。

そして、メルからジュースをもらい、しばらくの間みんなと戯れた。

そのうち、真っ赤な西日がリビングを染め始め、

「アル様。先にお風呂へどうぞ」

とメルが言ってくれたので、みんなと一緒にお風呂に向かう。

「今日はたくさん汗をかいたからしっかり洗わないとね」

「わっふ!」(私もごしごしして!)

「きゅぃ……」(私は浸かるだけでいいや)

「みぃ!」(私は優しく洗ってね!)

とそれぞれのお風呂プランを発表しあいながら、さっそくお風呂場に入り体を洗い始めた。

「ぬっはぁ……」

「わふぅ……」

「きゅぃ……」

「ふみゃぁ……」

といつものように盛大に息を漏らして湯船に浸かる。

(今日も一日楽しかったなぁ……)

と感慨にふけっていると、スミレが、

「わっふぅ……」(ハンバーグ、大盛りがいいなぁ……)

と呑気なことをつぶやいた。

そんなつぶやきにサクラとデイジーが、

「みゃぁ!」(私はチーズが入ったのが好き!)

「きゅきゅっ!」(目玉焼きのせが最高だよ!)

と呑気に続く。

僕はそんなみんなを微笑ましく思いながら、

「僕はソースたっぷりがいいな。だって、ご飯によく合うからたくさん食べられるもん!」

と自分の好みを紹介した。

「わっふ」(みんな食いしん坊さんだね!)

「きゅきゅっ!」(あはは。そうだね。おかしいね!)

「ふみぃ……」(仕方ないわよ、だってミュウのお料理ってすっごく美味しいんだもの)

「あはは。そうだね。きっと僕たちが食いしん坊になったのはミュウさんのせいだね」

と言って笑い合う。

そして、体がほかほかになってきたのを確認して僕たちはお風呂から上がった。

いつものようにメルにも手伝ってもらってみんなを乾かし、食堂に向かう。

その日の晩ご飯はスミレの予想通りハンバーグでサクラの希望通り、中にチーズがたっぷり入ったタイプのものだった。

「きゅきゅっ!」(次は目玉焼きものせてね!)

と要求するデイジーの言葉にみんなで笑い、楽しい食事が始まる。

「お替わりもありますからね」

「はーい」

「わん!」(お替わり!)

「あらあら。スミレちゃんは相変わらずね」

と楽しく食事を進めていると、不意にロロアさんが、

「そうそう。アル、そろそろ君の剣を作ろうと思っているからね。楽しみにしているといいよ」

と言ってくれた。

「僕の剣、ですか?」

と思わず聞き返した僕に、ロロアさんが、

「ああ。あの薙刀の癖が掴めるようになったんだったら頃合いだろう。明日にでもガルボに発注しておくから、楽しみにしておくといいよ」

と微笑みながら言ってくれる。

僕は楽しみに思う反面、

(そっか、いよいよ戦う準備を始めなきゃいけないんだな……)

という緊張感を抱いた。

「みぃ……」(アル、大丈夫?)

と心配そうに聞いてくるサクラを、

「うん。大丈夫だよ」

と少し強がって優しく撫でてあげる。

サクラは、

「ふみぃ……」

と気持ちよさそうな声を上げたが、続けて、

「にゃぁ!」(大丈夫。みんながついてるよ!)

と心強い言葉をくれた。

そんな言葉にハッとしつつ、

「そうだね。みんなが一緒なら大丈夫だよね」

と笑顔で応える。

「うふふ。アルちゃんなら大丈夫ですよ。これまで通り、ゆっくり自分のものにしていけばいいんですからね」

「ああ。妙に気張る必要はないからね。安心していいよ」

と言ってくれる二人に、

「ありがとうございます」

とお礼を言うと、ミュウさんがニコニコと微笑みながら、僕の頭を撫でてくれた。

子供扱いされているようで、ちょっと恥ずかしくて照れてしまったのを隠すようにハンバーグにかじりつく。

そんな平和な光景にみんなもまた笑顔になってその日の夕食も楽しく終わっていった。

部屋に戻り、軽く日記をつけて、布団に入る。

いつものようにみんなも僕の横に来て、サクラはすぐに丸くなって寝てしまった。

ちょっと甘えてくるデイジーを軽く撫でて宥めてあげる。

スミレは、あくびをしているから満腹でずいぶん眠たくなっているのだろう。

そんなことを思いながら、今日一日を振り返り、

(楽しかったなぁ……)

と月並みな感想を抱いた。

そして、

(きっと明日も楽しくなるぞ)

と、またいつものように前向きなことを考える。

これから僕の人生がどうなっていくのかはわからない。

でも、学問所にも家にもいつも支えてくれるお友達がいて、それを見守ってくれる大人の人たちがいる。

そのことがどんなに恵まれたことなのか、僕にはよく理解できた。

(幸せだな)

と感じる一方で、

(この環境に甘えず、頑張らなくっちゃいけないな)

という思いも湧いてくる。

僕はそんなちょっと興奮したような感情を鎮めるように、小さく、

「ふぅ……」

と息を吐いた。

「きゅぃ……」

となんだか幸せそうに鳴き、とろんとした目で僕に甘えてくるデイジーを軽く撫でて寝かしつけてやる。

そして、僕ももう一度気持ちを整えるように息を吐くと、楽しかった今日という日に別れを告げ、また新しい明日という日を迎えるため、夢の世界へと旅立っていった。


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