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世界樹の守護者、アル~追放から始まるほのぼの英雄譚~  作者: タツダノキイチ
第一章

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すき焼きと松茸ご飯

お風呂から上がり、メルにも手伝ってもらってみんなの体を乾かす。

いつもよりももふもふになったみんなを連れてリビングに向かうと、

「ご飯までもう少し時間があるから、ゆっくりくつろいていてくださいね」

と言われたので、ソファに座ってみんなのもふもふを堪能させてもらった。

ふかふかになったスミレをワシャワシャ撫で、さらさらのサクラを優しく撫でてあげる。

デイジーは僕の肩でそのスベスベの毛並みを頬に押し当ててきてくれた。

「ははは。すっかり仲良しじゃな」

と笑うガルボさんに、

「うん。みんな優しくてもふもふだから大好きなんです」

と答えると、それを聞いていたユリウスさんが微笑ましげに目を細め、

「これからも仲良くな」

と少し意味深なことをいってくる。

僕は、

(きっと世界樹とかそういう関係の意味を込めてってことなんだろうな)

と思いながらも、元気に、

「はい!」

と答えた。

そんな僕に続いてスミレが、

「わん!」(アルなら大丈夫だよ!)

と言い、サクラも続いて、

「にゃぁ」(うん。アルはきっといいお友達になってくれるよ)

と言ってくれる。

二人の言葉が嬉しくてまたみんなをもふもふしていると、ロロアさんがニッコリと微笑んで、

「ゆっくりでいいからね」

と優しい言葉を掛けてくれた。

(きっと、僕にはやるべきことがあって、大変なこともあるんだろうなぁ……。でも、みんなが一緒ならきっと大丈夫だよね?)

と思いながら、また元気に、

「はい!」

と答える。

そんな僕を見てみんなは嬉しそうに微笑み、

「アルなら大丈夫さ」

「ああ。間違いねぇ」

「ははは。期待しているよ」

と言ってくれた。

やがて台所の方から良い匂いが漂ってくる。

「なんだろう。知らない匂い……」

と不思議そうに鼻をクンクンするとスミレが、

「わっふ」(松茸だよ)

とその香りの元のことを教えてくれた。

僕はまた知らない食べ物だと思って、

「マツタケ?」

と聞くと、ユリウスさんが、

「ああ。松の根元に生える茸だから松茸っていうんだ。いい香りだろ?」

と、その松茸なるものことを説明してくれる。

僕はいろんな茸の形を想像しながらも、ミュウさんが作ってくれる料理に間違いはないだろうと思って、

「はい。とっても、なんていうか上品でいい香りですね。楽しみです!」

といつもみたいに元気に応えた。

「ははは。アルはなかなかいい鼻を持っているじゃないか。まぁ、松茸ってのは香りを楽しむ茸だから味はそこまで濃くないが、それはそれで美味いからよく味わって食うんだぞ」

「はい」

と話してワクワクしていると、メルがリビングにやって来て、

「そろそろお食事ですから食堂にどうぞ」

と言ってきてくれる。

「さて。今夜は肉と茸三昧だぞ!」

「ああ。盆と正月って感じだな」

「ん? なんだそのボントショウガツってのは?」

「ははは。すまん。なんでもない。気にしないでくれ」

「まったく。ユリウスは時々わけのわからんことを言うなぁ……」

「ははは。すまん、すまん」

と話しながらウキウキとして食堂に向かう三人に僕たちもウキウキした足取りでついていった。

食堂にどちらかと言えば平べったい形の鉄鍋とコンロが二つ置いてある。

そして、その横には綺麗に薄く切られたお肉や野菜が並べられていたので、僕が、

(あ! これってもしかしてしゃぶしゃぶ? やった! あれ好きなんだよね)

と思っていると、ミュウさんがニッコリと微笑みながら、

「今夜はすき焼きですよ」

と教えてくれた。

(えー、しゃぶしゃぶじゃないのか……。でも、すきやきっていうのはわからないけど、ミュウさんの料理に間違いはないから、きっと美味しいんだろなぁ……)

と思いちょっとだけがっかりしながら自分の席に着く。

するとそんな僕を見たミュウさんが、

「アルちゃん、すき焼きは始めてだったわよね?」

と聞いてきた。

「はい。初めてです」

「じゃあ、ちょっとびっくりするかもしれないけど、これは焼いたり煮込んだりしたお肉とお野菜を生卵に付けて食べるお料理鍋料理なの。生卵は平気そう?」

「うーん……。初めてですけど、温泉卵は好きだし、たぶん大丈夫だと思います」

「そう。苦手だったらすぐに言ってね」

「はい!」

と答えて、さっそく溶いた生卵が入った小鉢をもらう。

「じゃあ、最初はアルちゃんのお肉を焼くわね」

と言ってさっそくミュウさんが鍋に白い脂身を溶かし始めると、途端にいい香りが立ち上ってきた。

(うっわぁ……。すっごく甘くていい匂い。これはたまんないや!)

と思って食い入るように鍋を見つめていると、ミュウさんが、

「うふふ。一番美しい部分のお肉だから柔らかくて美味しいわよ」

と言いながら、薄いお肉を鍋の中に入れた。

「ジュッ!」といい音がして先ほどとは違ういい匂いが漂ってくる。

そこにミュウさんは何のためらいもなく、砂糖と醤油をたっぷりかけた。

そのタレを煮からめるようにさっとお肉を焼いて、卵が入った器の中に入れてくれる。

「さぁ、どうぞ」

と言ってくれるミュウさんに、

「いただきます」

と言ってさっそく生卵が絡まったお肉を口に入れると、トロっとした舌ざわりを感じた後、得も言われぬ美味しさが僕の口の中を駆け抜けていった。

(柔らかい! 甘い! トロトロ卵がとっても美味しい!)

と思って目を見開き、ミュウさんを見つめる。

そんな僕を見たミュウさんは、本当に嬉しそうに微笑んで、

「まだまだお肉はたくさんありますからね」

と言ってきてくれた。

「ありがとうございます!」

と元気にお礼を言って、ご飯が入ったお茶碗を持つ。

もう、僕の口はお米を求めてしょうがないような状態になっていた。

少し慌ててご飯をかき込む。

すると、今度はまた別のいい匂いが僕の鼻を駆け抜けていった。

(いい香り……。これが松茸か……)

と感心しながら、目を閉じ、少し顔を上に向ける。

お肉の重厚なうま味とあっさりして上品に香る松茸の香りが僕の口の中で合わさり、じわっと僕の心を幸せで満たしていってくれた。

「ははは。気に入ったようだね」

というロロアさんの言葉でふと我に返り、

「はい! とっても美味しいです!」

と元気に答える。

「お替わりもあるから、たんとお上がり」

と言ってくれるロロアさんに「ありがとうございます」ときちんとお礼を言ってまたミュウさんが焼いてくれたお肉を口に運んだ。

そこからは、みんな思い思いにお肉と野菜を鍋に入れていく。

最初、すき焼きはお肉を焼いて食べていくものだと思ったけど、後半は普通のお鍋のように煮込んで食べていくことに少し驚いた。

(一つの料理で二通りの楽しみ方があるんだなぁ……)

と感心しながら、美味しくお肉と野菜をいただく。

そして、

「最後におうどんもあるから、ちょっとだけお腹を空けておいてね」

というミュウさんの言葉にまた驚きながら、いつもよりモリモリとご飯を食べ進めていった。

幸せいっぱいで食事を終える。

食後に淹れてもらったお茶を飲みながら、ユリウスさんたちからほんの少しだけ冒険の話を聞いた。

「ゴブリンは数が多いだけだし、オークはデカいだけだな。コカトリスは毒があるから防御魔法が使えないと大変だが、やりようはいくらでもある。まぁ、他にも魔獣の種類は山ほどあるが、それぞれに必ず弱点や攻略法ってのは存在してるから、無理せずこつこつやっていけばそのうち慣れるさ」

というユリウスさんの話を聞いて、

(そうか。僕はそういう恐ろしい魔獣と将来戦うことになるのか……)

と思うと、なんだか恐ろしいような気持ちになる。

そして、少し落ち込んだような気持ちになっている僕にサクラが、

「にゃぁ」(大丈夫よ。みんながついてるわ)

と言って頬ずりをしてきてくれた。

そのふわふわでスベスベの毛並みを撫でて心を落ち着かせる。

そんな僕に大人のみんなはいつまでも優しい目を注いでくれていた。


その日の夜。

みんなと一緒に布団に入る。

ふわふわとしたみんなの温もりを感じていると、さっきまであった不安はすっかり消えて、すき焼きと松茸ご飯が美味しかったという思い出だけが頭に浮かんできた。

(また食べたいなぁ……)

と思いながら目を閉じる。

そして、僕はみんなのもふもふに包まれぽかぽかするお腹を抱えてゆっくりと眠りに就いた。


翌朝。

「いってきます!」

と元気に家を出て学問所に向かう。

(やっぱりみんなで食べると朝ごはんが美味しいな……。ミュウさん、今日はどんなお弁当を作ってくれたんだろう? お昼が楽しみだなぁ)

と考えている自分に、

(あはは。僕、昨日から食べ物のことばっかり考えてるや)

とちょっと呆れながらニコニコと笑ってあぜ道を駆けていく。

途中であった村のおじさんに、

「おはようございます」

と元気に挨拶をすると、なんだかとても晴れ晴れとした気持ちになった。

眩しい朝日に照らされてキラキラと輝く道を進み学問所の門をくぐる。

いつも通り、

「おはよう!」

と元気に挨拶をすると、みんなからも、元気に、

「おはよう!」

という声が返ってきた。

やがてグスタフ先生がやってきて、

「よーし。今日も元気に勉強を始めるぞ」

と言って授業が始まる。

そんな普通の光景に、僕は、

(これでやっといつもに戻ったんだな……)

という思いでじんわりと胸が熱くなってくるのを感じた。

いつもの小さな教室に、みんなの笑顔。

隣にはリリカちゃんとライラちゃんがいて、いつもみたいに笑ってくれている。

僕はその当たり前の光景をとことん幸せだと感じながら、今日も楽しく教科書のページを開いた。


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