表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

新居と同居人01

ロロアさんも乗せて荷馬車で移動する。

のんびりと進む荷馬車から見る風景はどこまでも穏やかで、初めてなのにどこか懐かしいと思えるような風景だった。

「ははは。のんびりした村だろ?」

と聞いてくるロロアさんに、

「はい。でも、どこか懐かしい感じもします」

と正直な感想を伝える。

するとロロアさんは、

「はっはっは!」

とおかしそうに笑って、僕の頭を撫でながら、

「なかなかいい感性をもっているね」

と、褒めるような言葉をいってくれた。

「ありがとうございます」

と素直に返しておく。

そんな僕にロロアさんは優しい表情で微笑みかけると、

「詳しい事情は知らないが、しばらくの間ゆっくりしていくといいよ」

と言ってくれた。

きっといろいろ察してくれているんだろう。

僕はなんとなくそんなことを思いながら、

「ありがとうございます」

と、苦笑いで応えた。

そんな話をしているうちに屋敷が見えてくる。

その屋敷は村長さんの家よりも大きく、元役場というよりも貴族が静養に使う田舎の別邸という感じの建物だった。

(へぇ……。けっこう広いんだな……)

と思いながら門をくぐる。

玄関前にはちゃんと馬車止めがあって、そこで馬車を止めると、

「ああ。ちょっと待っていてくれ。今手伝いのメイドを呼んでくるからね」

と言ってロロアさんは先に家の中に入っていってしまった。

とりあえず、小さな荷物を下ろしながらロロアさんを待つ。

すると、

「やぁやぁ。待たせたね」

と言ってロロアさんがメイド服を着たエルフの女性を連れて戻ってきた。

「初めまして。ミュウです。よろしくお願いしますね」

と優しい声で挨拶をしてくれるメイドさんに、

「こちらこそ初めまして。僕がアルフレッドで、こっちのメイドがメルです」

と挨拶を返した。

そんな僕を見て、ミュウさんが、

「あら。ちゃんとご挨拶ができて偉いですねぇ」

と言い、僕の頭を撫でてくる。

僕は、それをなんとも恥ずかしく思いながら、

「あ、あの……」

とほんの少しの抗議の声を上げた。

「うふふ」

とミュウさんが微笑む。

その笑顔はどこまでも温かく、メルとはまた違った優しさがあるように見えた。

(……嬉しいけど恥ずかしいなぁ)

と思っているところへ、

「みぃ!」

と猫の声が聞こえてくる。

見ると足元に白くて本当に小さい子猫がちょこんと座っていた。

「あ。猫ちゃん!」

と思わず小さな子供のような声を出して、しゃがみ込む。

僕は間近で猫を見るのは初めてだったけど、そのあまりの可愛さに一瞬で心を開いてしまった。

「みゃぁ」

と鳴く子猫に、

「初めまして。アルだよ」

と挨拶をする。

すると猫はもう一度、

「みゃぁ」

と、まるで「よろしくね」と言っているような感じで鳴いた。

「あはは。ちゃんとご挨拶できて偉いね」

と言って子猫の頭を指先で軽く撫でてやる。

生まれて初めて撫でた子猫の頭はすべすべでふんわりとしていて、まるでお日様のように温かかった。

(うわぁ……。気持ちいいなぁ)

と思っている僕の横にロロアさんがやって来て、

「ほう。サクラに気に入られるなんてすごいねぇ」

と感心したような顔で言ってくる。

その言葉を聞いた僕が、

(ん? 猫に気に入られるってそんなにすごいことなの?)

と疑問に思いながらロロアさんを見上げると、ロロアさんはなぜか苦笑いをして、

「この子はすごく気まぐれで人見知りなんだ。だから最初から撫でられるのもすごいことだし、自分から挨拶にくるなんてほぼ奇跡だよ」

と、先ほど「すごい」と言った意味を教えてくれた。

「そうなんですね」

と感心しながら、僕に頭をこすりつけてくる子猫ことサクラの頭をこちょこちょと撫でてやる。

するとサクラが、

「みぃ」

と少し甘えたような声を出して、僕を前脚で「てしてし」と叩いてきた。

その仕草を見て、僕はサクラが僕に何かを要求しているように感じ、

「どうしたの?」

と聞き返す。

そんな僕にサクラはまた、

「みぃ」

と鳴いて頭を擦り付けてきた。

(えっと。どうしたらいいんだろう?)

と戸惑う僕に、横からロロアさんが、

「ははは。きっと抱っこをせがんでいるんだよ」

と教えてくれる。

「え? 抱っこしてもいいんですか?」

と驚いて聞くと、ロロアさんは、

「ああ。サクラが望んでいるようだからね」

と微笑みながらそう言ってくれた。

「じゃ、じゃぁ……」

と言って恐る恐るサクラに手を伸ばす。

掌全体で触れるサクラの毛並みは思ったよりも「もふもふ」していて、そのふんわりとした温もりにはなんとも言えない癒しを感じた。

「うわぁ……」

と思わず感嘆の声を上げながらサクラを抱く。

サクラも気持ちいいのか、僕の腕の中で、

「みぃ……」

と、さらに甘えたような声で鳴きくるんと丸くなってしまった。

「うわぁ。かわいいなぁ……」

と思わず口に出しながらまたサクラをこちょこちょと撫でる。

僕は生まれて初めての動物を撫でるという体験にほんのりとした幸せを感じ、思わず目を閉じてしまった。

サクラの温もりが胸いっぱいに伝わってくる。

そして、その温もりはやがて僕の体全体を包み込むように広がっていった。

(ぽかぽかで気持ちいいなぁ……)

と思っていると、やがてそのぽかぽかがどんどん熱くなってくる。

(え? なに?)

と思って目を開けて見ると、そこには僕の腕の中で薄桃色の光に包まれたサクラがいた。

(え? なに? ……ていうか、僕も?)

と、その薄桃色の光は僕からも発せられていることに気が付く。

「あ、アル様!?」

と言ってメルが慌てた様子で僕を抱きしめてきたが、不思議と嫌な感じがしなかった僕は、

「え? ああ、大丈夫だよ」

とメルに微笑んで見せた。

「い、いえ、しかし……」

と少し泣きそうになっているメルの頭を軽くぽんぽんと撫でてあげる。

「大丈夫。怖くないよ」

と、まるでこれまでと立場が逆転してしまったようにそう声を掛けると、メルが驚いたような顔で僕を見つめてきた。

「ははは……。まさか、こうなるとはね……」

とロロアさんが苦笑いというよりも引きつったような笑顔を浮かべている。

ミュウさんに至ってはびっくりして固まっているようだ。

その状況を見て僕は、

(そりゃ、そうだよね。いきなり人と猫が光りだしたらそういう表情になっちゃうよね)

と意外にも冷静に心のなかでツッコミを入れた。

やがて、光が収まる。

(いったい何だったんだろう……)

と思っている僕の体をペタペタと触りながら、メルが、

「大丈夫ですか? どこか痛いところはありませんか?」

と心配そうに聞いてきた。

「うん。大丈夫だよ」

とニッコリ微笑んでそう答えると、メルは少しほっとしたように息を吐き、

「なんだかわかりませんが、荷物のほうはやっておきますので、アル様は先に横になってくださいませ」

と言ってきた。

「え? 本当に大丈夫だよ?」

と言うがメルは、

「いえ。何があるかわかりませんので、どうぞ横になってくださいませ」

と言ってくる。

こういう時のメルは絶対に諦めてくれないと知っているから僕は、

「うん。わかった。じゃぁ、ゆっくりさせてもらうね」

と言うと、後ろにいたミュウさんに、

「すみませんが、そういうことなので先にお部屋に案内してもらえませんか?」

と聞いて苦笑いを浮かべて見せた。

「はい。もちろんです」

と言ってミュウさんが僕の手を取ってくれる。

僕は、

(え? 手なんてつながなくてもちゃんとついていけるよ?)

と、また妙に子ども扱いされていることに戸惑いながら、ミュウさんに手を引かれて屋敷の中へと入っていった。

「とりあえずこちらの客間にどうぞ。今、ジュースを持ってきますから、ちゃんと寝ててね」

と言ってミュウさんが僕をベッドに案内してくれる。

「はい。わかりました」

と答えて横になると、サクラも僕の枕元で、

「みゃぁ」

と鳴き丸くなった。

「あはは。サクラも寝るのかい?」

と声を掛けてサクラを軽く撫でてやる。

するとサクラは早くも、

「くわぁ……」

とあくびをしてスヤスヤと眠り始めてしまった。

「うふふ。サクラは相変わらずですね」

と言ってミュウさんが部屋を出ていく。

すると僕も妙に眠さを感じて目を閉じると、あっと言う間に眠りに落ちてしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ