表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/62

お留守番01

ガルボさんと稽古の約束をしたから、待たせちゃいけないと思っていつもより急いで学問所から帰る。

リリカちゃんとライラちゃんは少しつまらなさそうにしていたけど、ちゃんと、

「今度いっぱい遊ぼうね」

と約束して別れた。

家に帰るとすぐに荷物を置いて裏庭に向かう。

するとそこにはガルボさんがすでに来ていて、

「おう。さっそくだが、準備運動をしな」

と言ってきた。

「はい」

と答えてすぐにいつもの準備運動をする。

それが終わると、ガルボさんは練習用の盾を持ち出してきて、

「俺は守りに徹するから好きに打ち込んで来い。遠慮はいらんからな」

と言って盾を構えた。

これまでとあまりにも違う稽古に、戸惑いつつも、

「はい!」

と応えて木剣を構える。

そして、今の自分に出来る限りのことをして、なんとかガルボさんの盾をかいくぐるように動いた。

当然、全部かわされてしまう。

まるで、壁を相手にしているようだと感じた。

(当たり前だよね……)

と思う気持ちと、

(悔しい)

と思う気持ちの両方が湧き上がってくる。

そんな僕にガルボさんは、

「ほれ。どうした。もう終わりか?」

と少し挑発するような言葉を掛けてきた。

その言葉に、

「まだです!」

と叫ぶように答えて再びガルボさんに打ち込んでいく。

今度もかわされてしまったが、僕の中ではさっきよりも、悔しいという気持ちが大きくなっていたように思った。

「ははは。だんだんいい目になってきたな。その調子でどんどん打ち込んでこい」

「はい!」

と言ってさらに打ち込みを続ける。

そして、僕の息が上がり、そろそろ体力の限界だろうという所で、

「よし、よくわかった。今日はここまでにしよう」

とガルボさんが言ってくれた。

その瞬間、僕は全身の力が抜けたような感じがして、思わずその場に座り込んでしまう。

そんな僕にガルボさんが手拭と水筒を持ってきてくれて、

「ちゃんと稽古してる剣筋だったぞ。このままミュウに基礎をみっちり教えてもらえ」

と言って僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でてくれた。

僕はこれまでやってきたことが認められたことが嬉しくて、

「はい。頑張ります!」

と笑顔で応える。

するとガルボさんは「はっはっは」と豪快に笑って、より強く僕の頭をかき回すように撫でてくれた。


それから、そろそろ自宅に戻るというガルボさんをみんなと一緒に見送る。

別れ際、ガルボさんは、

「ちょうどいいやつを作ってやるからな」

と、また僕の頭を撫でながら言ってくれたが、僕にはなんのことかよくわからなかった。


それからいつものようにみんなで楽しくご飯を食べる。

その日はいつもより激しい稽古をしたからか、たくさんご飯をお替りさせてもらった。


翌朝。

いつものようにすっきりした気持ちで目覚める。

しかし、いつもと違って僕の枕元にはみんながいなかった。

(あれ? 僕、寝坊しちゃった? みんな先にご飯にいっちゃったのかな?)

と思って急いで着替えて食堂に向かう。

いつものように、

「おはよう」

と声を掛けて食堂に入ると、そこにはみんながいたけど、いつもとはちょっと雰囲気が違っているような感じがした。

「えっと……」

と戸惑う僕にミュウさんが、

「うふふ。おはよう。大丈夫よ」

と声を掛けてきて、いつもみたいに優しく頭を撫でてくれる。

僕は、

(え? 大丈夫ってどういうこと?)

と思いながら、ちょっと不安げにミュウさんを見ると、ミュウさんは、僕の前にかがんで僕に目線を合わせながら、

「あのね。私たちちょっとお出かけすることになりそうなの。だから、その間お留守番をお願いできる?」

と訊ねてきた。

「え?」

と、さらに戸惑う僕に、今度はロロアさんが、

「なに。ちょっと森に出掛けてくるだけさ。ユリウスやガルボも一緒だからなんの心配もないよ」

と言って微笑みかけてきてくれる。

僕はその笑顔を見て、

(きっとなにか大事なことなんだろうな……)

と察しつつ、

「はい。わかりました!」

と真剣な目でそう返事をした。

「うふふ。アルちゃんは偉いわね」

と言ってまた頭を撫でてくれるミュウさんの手を少しくすぐったく思いつつ、今度はみんなに目を向ける。

すると、みんなも、

「みぃ」(大丈夫だよ)

「きゅきゅっ」(うん。アルなら平気)

「わっふ」(すぐ戻ってくるからね)

と僕に言ってきた。

(そっか。みんなも行くんだ……)

と寂しく思いながら、みんなのそばに寄る。

そして、みんなを撫でてあげながら、

「うん。ちゃんとお留守番してるから、頑張ってきてね」

と声を掛けた。


それからその日を含めて三日。

表面的にはいつも通りだけど、どこか不安な日々を過ごす。

そして、ついにみんなが森に行く日がやって来た。

いつもとは違ってしっかりと防具を着け、武器を持ったロロアさんとミュウさんを玄関先で見送る。

「気を付けてね」

と言ってサクラ、デイジー、スミレと順に抱き合うと最後はみんなで一塊になるように抱きしめ合って別れの挨拶を交わした。

「じゃぁ、いってくるよ」

とロロアさんがあえて軽い感じで言ってくる。

ミュウさんは僕をしっかり抱きしめて、

「大丈夫、大丈夫」

とおまじないを唱えるように僕の背中をぽんぽんと叩いてくれた。

「うん。平気だよ」

と、なるべく明るい声で返事をする。

そんな僕にミュウさんはいつものように、「うふふ」と優しく笑って頭をぽんぽんと撫でてくれた。

「じゃぁ、あとは頼んだわね」

とミュウさんがメルに声を掛けて、こちらも軽い抱擁を交わす。

そして、名残惜しいような雰囲気を引きずりながらも、ロロアさんの肩にサクラが乗り、ミュウさんの肩にデイジーが乗ると、

「わっふ」

と言うスミレの声を合図にみんなは僕たちに背を向けた。


僕の肩にメルの手が置かれる。

僕はその手に無言で手を重ねると、朝日に照らされて門を出ていくみんなの姿が見えなくなるまでその姿を見つめ続けた。


みんなを見送ったあと、寂しい気持ちで学問所に向かう。

出掛ける時、

「きっと大丈夫ですよ」

と言ってくれたメルに、

「うん。平気だよ」

と笑って答えたが、僕の足取りはいつもよりかなり重たかった。


教室の前で深呼吸をしてから、いつも通り、

「おはよう」

と声を掛けて教室に入る。

ライラちゃんはいつもみたいに、

「おはよう!」

と言ってくれたが、リリカちゃんは、

「……どうしたの?」

と聞いてきた。

そんなリリカちゃんに苦笑い交じりで、みんなが家を空けているということを告げる。

すると、リリカちゃんは心配そうな顔をして、

「じゃぁ、今日、アル君のおうちに遊びにいってもいい?」

と意外なことを言ってきてくれた。

「え? うん、たぶん大丈夫だけど……」

と少しきょとんとしながら答える。

するとライラちゃんも、

「じゃぁ、あたしも行く!」

と言って手を挙げ、なんとなく今日はうちで二人と一緒に遊ぶことになった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ