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海の味02

「いただきます」

の声を揃えてさっそくご飯の時間が始まる。

しかし、僕は「いったいどれからどうやって食べればいいんだろう?」と少し箸を迷わせてしまった。

「アルちゃん。このお刺身から食べてみるといいわよ。骨もないし、とっても美味しいですからね」

と言ってミュウさんが、綺麗なピンク色の四角いお肉を勧めてくる。

僕は一瞬、

(え? これって生だよね?)

と思って躊躇したが、ロロアさんが、

「むっ! やっぱりトロは最高だね!」

と言って美味しそうに食べているのを見て、自分でも口にしてみることにした。

「あ。ワサビは辛いからつけなくていいわよ。そのままお醤油をつけて食べてみてね」

と言ってくれるミュウさんの言葉に、

「えっと。ワサビ?」

と聞き返す。

「ああ。そうだったわね。えっと、そのお皿に端にちょこっと添えてあるの緑色のがワサビっていうの。とってもツンとして辛いから、大人向けなのよ。つけなくても美味しいからアルちゃんはそのまま食べてね」

と教えてくれるミュウさんにうなずいて、まずはロロアさんが「トロ」といったピンク色のお肉に箸を伸ばす。

そして、教わったように醤油を少しつけて、恐る恐る口の中に入れると、本当にトロっとした舌ざわりがあって、そのお肉は一瞬で口の中から無くなってしまった。

(や、柔らかい……。しかもなに? この甘さ。お肉とは全然違う味がする。それにこの香り。……なんの香りだろう? 嗅いだことのない香りだ……)

と思いながら驚きの表情を浮かべる僕に、ミュウさんが、

「うふふ。どう? それが海の味よ」

と微笑みながら声を掛けてくる。

それを聞いて僕は、

(そっか。これが海の味で海の香りなんだ……)

と思うと、目を閉じてまだ見たことがない海の光景を想像した。

「ははは。美味しかったみたいだね」

と声を掛けてくるロロアさんに、

「はい! すっごく甘くてトロトロしてて、海の香りがしました」

と答える。

するとガルボさんが、

「はっはっは。まさしくトロトロだからトロって名前になったんだしな!」

と言って豪快に笑った。

「うふふ。じゃぁ、次はこっちのアジフライを食べてみてね。タルタルソースをたっぷりつけるとおいしいわよ」

と言うミュウさんの勧めにしたがって、今度はカツのような揚げ物に手を伸ばす。

そのアジフライという食べ物はかなり大きかったけど、頑張って口を大きく開けてガブリとかみついた。

噛んだ瞬間サクッと音がする。

そして、僕の口の中でホロホロの身が解け、恐ろしいほど強烈なうま味があふれ出してきた。

(うわ……。すごい。これすごいよ!)

と、また感動して目を見開く。

「うふふ。どう?」

と微笑むミュウさんに、ただただ、「コクコク」と激しく首を縦に振って応える。

そんな僕にミュウさんは嬉しそうな顔を見せ、

「こっちの煮つけも美味しいから食べてみて。あ、骨には注意しないといけないから身は解してあげましょうね」

と言うと、さっそく煮つけという料理を取り分け始めてくれた。


やがて、

「ふぅ……」

と息を吐き、いっぱいになったお腹をさすりつつ天井を見上げる。

「ははは。いい食べっぷりだったじゃないか」

「おう。あれだけ気に入ってくれりゃぁ、持って来た甲斐があるってもんだ」

「うふふ。これでアルちゃんの好物がまたひとつ増えちゃったわね」

「ええ。良かったですね、アル様」

と言ってくれるみんなに、

「うん!」

と応えて笑顔を見せる。

「んみゃぁ……」(トロ、幸せー……)

「きゅきゅぅ……」(アジフライ……)

「わっふ!」(『ナカオチ』ガジガジ楽しい!)

と、みんなもそれぞれにお気に入りを見つけたようで、満足そうに床に寝そべっていた。

そんな僕たちに、

「お魚はまだまだありますからね。しばらくはお魚祭りですよ」

とミュウさんが素敵な言葉を掛けてくれる。

僕が思わず、

「やったー!」

と小さな子みたいな歓声を上げると、みんなも続いて、

「みぃ!」

「きゅきゅっ!」

「わん!」

と喜びの声を上げた。


その日もゆっくりお風呂に入って幸せな気持ちで床に就く。

みんなのもふもふを感じながら目を閉じると、僕はあっと言う間に眠ってしまった。


翌朝。

いつも通り、すっきりとした気分で目覚め、食堂に向かう。

するとそこには、

「うぅ……」

と唸って食卓に突っ伏しているロロアさんとそれを見て、

「がはは。酒で俺に挑もうなんざ百年早いわい」

と笑っているガルボさんがいた。

「……おはようございます」

と少し遠慮がちに声を掛ける。

その挨拶にガルボさんは、

「おう。おはようさん!」

と豪快に挨拶を返してきてくれたが、ロロアさんは、

「ああ、おはよう……」

と食卓に突っ伏したまま、力無い感じで挨拶を返してきた。

「えっと、ロロアさんは大丈夫なんですか?」

「はっはっは。ただの二日酔いだ。心配いらんさ」

と豪快に笑い飛ばすガルボさんを見て、

(二日酔いってなんだろう?)

と思いつつロロアさんを心配そうに見ながら席に着く。

そこへミュウさんがやって来て、

「はい。お薬ですよ」

とロロアさんの前になにか緑色をした液体が入ったコップを置いた。

「……うぅ……」

とロロアさんがまた唸ってミュウさんに恨めしそうな目を向ける。

そんなロロアさんの視線にミュウさんは苦笑いすると、

「苦くてもちゃんと飲んでくださいね。ていうか、自分で作ったお薬なんですから、誰にも文句は言えませんよ」

と言い残してさっさと台所の方に下がっていってしまった。

「くっ……」

とロロアさんがどこか悔しそうな顔をして、その緑色の液体を一気に飲み干す。

そして、いかにもまずそうに、

「うげぇ……」

というような顔をした。

「あの。二日酔いってなんですか?」

とガルボさんに聞く。

するとガルボさんは「はっはっは」と豪快に笑って、

「ああ。二日酔いってのは酒を飲み過ぎた翌日に頭痛とか吐き気とかが起きちまうやつのことだな。まぁ、病気と言えば病気かもしれんが、元をたどれば自業自得ってやつだから、心配するようなことじゃないってことよ」

と二日酔いというものを僕に教えてくれた。

それを聞いた僕はなんとも言えない苦笑いで、

「そうなんですね……。ロロアさん、お大事に」

と声を掛ける。

すると、ロロアさんもなんとも言えない情けない顔で、

「あはは……」

と力なく笑った。


やがて始まった朝食の席にも魚が並ぶ。

僕たちは普通に照り焼きやカルパッチョという謎な名前の料理を美味しく食べたけど、ロロアさんはおみそ汁だけ食べて、

「次の課題は二日酔いの薬を美味しくすることだね……」

と言いながらふらふらと自室に戻っていった。

(いや、そもそも飲み過ぎなければいいんじゃ……)

と心の中でツッコミを入れつつ、朝食を終え、僕もいったん部屋に戻ろうとする。

そこへガルボさんが、

「学問所から帰ってきたら稽古だったな? 今日は俺が見てやるよ」

と言ってきてくれた。

「え?」

と驚く僕に、ミュウさんが、

「大丈夫ですよ。こう見えてこの人もそれなりに強いですし、きっと癖をみたいんだと思いますよ」

と言葉を添えてくれる。

僕はよくわからない部分もあったけど、

「はい! よろしくお願いします」

とガルボさんに頭を下げた。

「おう。とりあえず学問所に行ってきな」

と言ってくれるガルボさんにもう一度軽く頭を下げて部屋に戻る。

そして、いつものように鞄を背負って部屋を出ると、玄関で、

「いってきます!」

と元気に挨拶をし、みんなに見送られながら、学問所へと駆けていった。


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