わんちゃんと新生活03
「ただいま!」
と声を掛けて玄関をくぐる。
その声に奥から、
「みぃ!」
「きゅきゅっ!」
「わん!」
という声が返ってきて、みんなが僕に飛びついてきた。
「あはは。ただいま」
「みゃぁ」
「きゅきゅっ」
「わっふ」
と言いつつじゃれ合いながら、リビングに向かう。
そしてその日は晩ご飯の時間まで僕が描いた絵を見てもらったりしてみんなで楽しくおしゃべりしながら、ゆっくりとした午後の時間を過ごした。
夕飯時。
「学問所はどうだった?」
と聞くロロアさんに、
「はい。とっても楽しかったです」
と答えて、またお絵描きをしたことやお友達ができたことを話す。
そんな僕の話をみんなニコニコしながら聞いてくれたから、その日の晩ご飯もとってもとっても美味しく感じて、僕はついつい食べ過ぎてしまった。
食後。
ロロアさんとミュウさんが、
「リリカというのはたしかジャック村長の娘じゃなかったかい? あと、ライラはイチカの娘だったね」
「ええ。リリカちゃんは本が大好きな大人しい性格の子で、ライラちゃんは逆にとっても活発な子ですわ」
「ははは。そうか。リリカはなんとなくわかるが、ライラという子は母親とはまったく逆みたいだね」
「ええ。あのおっとりしたイチカさんの娘とは思えないくらい活発で、どちらかといえばやんちゃな子みたいですね」
と楽しそうに話をしている。
そんな話を聞いて、僕が、
(ジャック村長はわかるけど、イチカさんって誰だろう?)
と思っていると、横からメルが、
「あの図書館の司書さんがイチカさんとおっしゃるのだそうですよ」
と教えてくれた。
「え?」
と思わず驚く。
僕が会ったあの司書のお姉さんは、とっても優しくて穏やかな感じだったから、今日会ったライラちゃんとは全く似ても似つかないと思ってしまった。
そんな僕に、
「ははは。そうだよな。驚くよな」
とロロアさんがおかしそうに同意を求めてくる。
そんな問いかけに僕がなんと言っていいかわからず、
「あはは……」
と苦笑いを浮かべていると、ミュウさんがおかしそうに、
「うふふ」
と笑って何も言わず僕の頭を優しく撫でてきてくれた。
そんな和やかな会話を楽しんでからお風呂を済ませ、部屋に戻る。
部屋にはみんなも集まって来ていて、やや眠そうにベッドの上でくつろいでいた。
僕はそんなみんなを少し撫でてあげながら、
「ちょっと待っててね」
と声を掛け、机に向かう。
そして、いつもの小さな日記帳を取り出すと、今日あった出来事を思い出し、楽しい気持ちになりながら、簡単な日記をつけていった。
やがていつものようにみんなと一緒に眠り、翌朝。
「いってきます!」
と元気に声を掛けて家を出ていく。
(うふふ。今日はどんなお勉強をするのかな? 楽しみだな)
と思いながら初めて一人で歩くあぜ道はいつもよりも広く、輝いて見えた。
学問所に着き、さっそく教室に入る。
先に来ていたリリカちゃんに、
「おはよう」
と元気に挨拶をすると、リリカちゃんはちょっと恥ずかしそうに微笑みながら、
「おはよう」
と返してくれた。
そこへ、
「おっはよー!」
という大きな声がしてライラちゃんがやってくる。
僕もリリカちゃんも微笑みながら、
「おはよう」
と明るく返すと、やがてグスタフ先生がやって来て今日も楽しい授業が始まった。
お昼。
「算数むずかしいよ……」
「うふふ。ライラは算数苦手だもんね」
「そうなの? でも、半分以上正解出来てたから、次はもっとできるようになるよ」
と会話をしながら楽しくお弁当を食べる。
そして、また教室を出る時、
「また明日!」
と元気に挨拶をして僕は家に帰っていった。
(やっぱり楽しいな)
と思いながら、家の玄関をくぐる。
「ただいま!」
と声を掛けると、みんなと一緒にミュウさんもやって来て、
「おかえりなさい。今日も楽しかったみたいね」
とニッコリ笑いながら僕を出迎えてくれた。
「うん。とっても楽しかったよ!」
と答える僕にミュウさんがまたニッコリ微笑んで、
「よかったわね。じゃぁ、荷物を置いたら午後は剣のお稽古にしましょうか」
と言ってくれた。
「うん! すぐに準備するね」
と答えて急いで部屋に戻る。
そして、鞄を置き、動きやすい服に着替えると、僕は木剣を持って裏庭に向かった。
「お待たせしました」
「うふふ。じゃぁ、さっそく準備運動から始めましょう」
「はい!」
と言ってさっそく体を伸ばし始める。
ミュウさんが言うには、しっかり体を温めてから稽古をしないとケガをしてしまったりするそうだ。
僕は、ミュウさんに言われた準備運動をしっかりして体の調子を確かめると、さっそく、
「準備出来ました」
とミュウさんに報告してその日の稽古を始めた。
「じゃぁ、いつも通り魔力制御の練習からね」
と言うミュウさんと向かい合わせになって両手をつなぎ、いつものように魔力を循環させる感覚を覚える。
そして、それが終わるとまたミュウさんの薙刀を持たせてもらった。
(くっ……)
と思いながらもできるだけ手を離さず、薙刀に触れ続ける。
しかし、十秒くらいで僕はいつも通り、息を切らしてへたりこんでしまった。
「はぁ……はぁ……」
と肩で息をする僕にミュウさんが手拭いと水筒を渡してくれる。
僕は汗を拭き、ごくごく水を飲んで、
「ぷはぁ……」
と息を吐いた。
「最初に比べるとずいぶん上達してるわよ」
と言ってくれるミュウさんに、
「ありがとうございます」
とお礼を言って、一休みする間、ミュウさんから型のお手本を見せてもらう。
ミュウさんの薙刀さばきはいつ見ても綺麗で、戦っているというよりも踊っているように見えた。
(きれいだな……)
と感心しながら見ていると、
「うふふ。じゃぁ、息も整ったみたいだから、次は剣のお稽古ね」
と言ってくるミュウさんに、元気よく、
「はい!」
と返事をして、そこからは剣の稽古に入る。
僕はまだ基本的な木剣の握り方とか簡単な構えしか教えてもらえていない。
でも、自分が出来ないことを一つずつ覚えていくということが楽しくて、僕は一生懸命木剣を振った。
そして、そろそろ限界かな? と思ったところでミュウさんが、
「じゃぁ、今日はここまでにしましょう」
と声を掛けてきてくれる。
僕はそれに、
「はい。ありがとうございました」
と、きちんとお礼を言うと、その日の稽古を切り上げて、自分の部屋に向かった。
この頃、僕の生活は、学問所、お弁当、お稽古、晩ご飯、そしてお風呂という感じで続いている。
今の僕にとってはそれが凄く楽しい。
(ああ、これが充実してるって感覚なんだろうな……)
と思いながら汗で汚れた服を着替え、いつものように今日の出来事を日記に書いていると、扉の向こうから、
「みゃぁ!」(ご飯だよ!)
というサクラの声が聞こえてきた。
「うん。わかったー」
と声を掛け返して、部屋を出る。
そして、急いで食堂に向かうと、そこにはいつも通り、出来立てほかほかのご飯が並んでいた。
「うわぁ。今日も美味しそう!」
と目を輝かせていう僕に、ロロアさんが、
「ははは。今日も元気にたくさん体を動かせたみたいだね」
と笑顔で声を掛けてきてくれる。
「うん。今日もお腹ペコペコ!」
と僕も笑顔で答えると、料理を運んできてくれたメルが、
「うふふ。今日はアル様が大好きなナポリタンですよ」
と笑顔で嬉しいことを言ってくれた。
「やったぁ!」
と思わずはしゃぎながら返事をする。
そんな僕にみんなが笑顔を向けてくれて、今日も楽しい晩ご飯が始まった。
楽しいお話をしながら、みんなの笑顔に囲まれて美味しいご飯を食べる。
そんな毎日を僕は心の底から大切なものだと感じるようになってきていた。
(あのままあの屋敷で過ごしていたら、きっとこんな幸せはなかったんだろうな……。僕、この村に来られて本当によかった)
と心の中で感謝しながら、大好きなナポリタンを頬張る。
甘いケチャップの味と香りが僕のお腹も心を今日もいっぱいにしてくれた。
それから、お風呂に入って、いつものようにメルに髪の毛を乾かしてもらってからベッドに横になる。
(ああ、今日も一日楽しかったな……。明日はどんな一日になるんだろう?)
とワクワクして、みんなのもふもふを感じながらゆっくりと目を閉じる。
するとあっと言う間に眠気がやってきた。
(こんな日がずっと続けばいいのに……)
と心から願う。
そして、
(きっとずっと続くよね……)
と微笑みながら、僕はゆっくりと意識を手放していった。