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カツカレーと今後の話02

みんなでお茶とお菓子を楽しみながら、これからのことを少しずつ決めていく。

「とりあえず、準備が整ったら普通に学問所に通って楽しく勉強してくれ。世界樹のことに関する勉強は朝か午後だな。最初は基本的な魔力の扱い方からにしよう。……ミュウ頼めるか?」

「ええ。かしこまりましたわ」

「ちなみにどうやって教えるつもりだ?」

「え? 普通に私の薙刀を持ち上げられるようになるところから始めようかと思っておりますが……?」

「おいおい。それは……」

「あら。たしかに時間はかかるかもしれませんけど、基礎体力をつけながら魔力操作の基礎を学ぶのはこれが一番でしてよ?」

「……。まぁ、それはそうだが……」

「うふふ。大丈夫ですわ。ちゃんとつきっきりで見てさしあげますから」

「うーん……。まぁ、それなら、心配いらんか。あとは、剣術だが、俺が毎日教えるというわけにはいかんからなぁ……」

「あら。ではそちらも基礎の基礎で良ければ私がついでにお教えしましょうか? それで、ある程度基礎が出来たら、ギルドでやっている剣術道場に通ってもらえばよいと思いますよ」

「ああ、そうだな。ミュウにはたくさん頼んでしまうが、よろしく頼む」

「いいえ。私もなんだか楽しみですから」

「ははは。あくまでも無理のない範囲で優しく教えてやってくれよ?」

「もちろん。可愛いアルちゃんに無理なんてさせませんわ」

というユリウスさんとミュウさんのわかるようでわからない会話が終わると、次はロロアさんが、

「じゃぁ、とりあえず、最初のうちはミュウに任せて、私たちは時々進捗を見守るって感じでいいかい?」

と確認するように全員に視線を向けた。

僕はよくわからないけど、みんながそれがいいというのだからそれがいいのだろうと思って「こくん」とうなずく。

しかし、メルはかなり不安そうな顔で、

「あ、あの……。本当に大丈夫なのでございましょうか……」

とユリウスさんやロロアさんの方に視線を向けた。

「なに。心配いらんさ。……そうだな、学問所の他に習い事をしていると思ってくれればいい」

「ああ。そうだね。私たちもせっかく世界樹が選んだアルにもしものことがあっちゃ困るし、それに、子供に無理をさせなきゃいけないほど切羽詰まった状況でもないからね」

と気軽な感じで言う二人の言葉に渋々ながらも納得したのか、メルが、

「わかりました。ただし、本当に無理はさせないでくださいましね?」

と念を押すようにお願いする。

その言葉にユリウスさん、ロロアさん、ミュウさんがしっかりとうなずいて、僕の今後の教育方針がきまった。

「じゃぁ、そういうことで今日はいったん解散かな?」

「そうだな。ああ、ガルボのやつにはなるべく早く帰ってくるよう各ギルドに通達を出しておこう」

「ああ。そうだね。まったく、あいつの放浪癖といったら、相変わらずだよ」

「ふっ。鉱石のあるところガルボありってな」

「うふふ。あの方らしいですわね」

「ああ、まったく困ったもんさ」

とユリウスさんたちが会話をして夕食が終わる。

僕はまだいろいろと知りたいことがあったけど、カツカレーでお腹いっぱいになったせいか、ちょっと眠くなってきてしまった。

「うふふ。寝る前にお風呂に入りましょうね」

と言ってくれるミュウさんに、少し恥ずかしさを覚えつつ、

「はい」

と答えていったん自分の部屋に戻る。

そこでメルにも手伝ってもらってお風呂の準備を整えると、僕はなんとも言えない幸せな気持ちでお風呂に向かった。

急いで服を脱いで体を洗い、大人が三人か四人は同時に浸かれそうな大きな湯船にゆっくりと体を浸す。

思わず、

「ふぅ……」

と息を吐くと、そこで全身の疲れが抜け、満腹の余韻が体全体に広がっていくような気がした。

(ああ、きっと今夜はぐっすり眠れるぞ……)

と思いながら、軽く目を閉じる。

そして、なんだか普通のお湯よりも少しとろみがあるような感じのお湯をゆっくり味わうと、僕はほかほかになってお風呂から上がった。

いったん自分の部屋に戻ってメルに髪を乾かしてもらう。

メルは風魔法が使えるからふんわりとした風でいつも僕の髪を優しく乾かしてくれた。

「大丈夫ですか、アル様?」

と気づかわしげに聞いてくるメルに、僕はきっとさっきまでの話のことを聞かれているんだろうと思って、

「うん。みんな優しいしきっと大丈夫だよ」

と答える。

そんな僕にメルは微笑んで、

「アル様は本当に真面目でお強い方ですね」

と言ってくれた。

「そんなことないよ。だって、僕はメルがいなきゃどうなっていたかわからないもの」

と正直に思っていることを言うと、メルは少し頬を染めながらも、

「私はただ、自分にできることをやっているまでですよ」

と言ってはにかんだ。

「じゃぁ、僕と一緒だね」

と微笑みながらメルに視線を向ける。

そんな視線にメルは、きょとんとした顔をして僕を見つめ返してきた。

「だって、僕もそうだもん。僕は自分で出来ることはまだ少ないけど、それでも自分にできることは一生懸命やろうって決めてるんだ」

と言う僕に、メルがまた、

「アル様はやっぱり真面目で強いお方です」

と言って微笑む。

僕はそれに少し照れてしまいながらも、

「それを言うならメルも同じだよ。いつも僕のことを想ってくれているし、僕には出来ないことをいくつもやってくれるから、頼もしいなって思っているんだよ」

と正直に自分の気持ちを伝える。

すると、メルは突然僕をぎゅっと抱きしめて、

「これからもアル様はこのメルがお守りしますからね」

と言ってくれた。

僕も、

「うん。よろしくね」

と言ってメルにギュッと抱き着く。

メルの温かさが僕の体をまたじんわりと温めて、おふろでぽかぽかになったはずの体がよりいっそうぽかぽかになった。

「うふふ。さぁ、今日はいろいろあってお疲れでしょうから、ゆっくりおやすみくださいね」

と言ってくれるメルに、

「うん。ありがとう」

とお礼を言ってベッドに入る。

すると僕はあっと言う間に眠ってしまった。


◇大人の会話・メル視点◇

アル様が眠ったのを見て、リビングに向かう。

私がリビングに入ったのと同時に、

「どうだった?」

とロロア様が声を掛けてきた。

「おかげ様で、ぐっすりとお休みになりました」

「そうかい。それはよかった」

「はい。ありがとうございます」

「いやいや。それにしてもアルは大物だね。世界樹の話を聞いても慄いている様子はまるでなかった」

「はい。アル様は常に目の前のことに全力で向かわれる方ですから、きっと世界樹のこともお友達になったサクラのために一生懸命頑張ろうと心に決められたのでしょう」

と、かなり自慢げに答える私にロロア様が、

「酒は?」

と聞いてくる。

私は首を横に振り、

「残念ながら」

とだけ答えた。

「そうかい。じゃぁ、勝手にやらせてもらうよ」

と言ってロロア様がワインを開ける。

そしてそれを二つのグラスに注ぐと、私はお茶、ロロア様とミュウさんはワインという形で大人の時間が始まった。

「で。その世界樹の『お友達』というのは具体的にどのようなものなのでしょうか?」

「ああ。正確には守護者と言ってね、お察しの通り、今は私が務めているよ。まぁ、守護者といっても実際は見守っているっていう程度のものだけどね。守護者になると、離れていても世界樹の様子がなんとなくわかるんだ。ただし、あんまり離れているとわからなくなるから、程よい距離のこの村に拠点を置いて、こうして世界樹の精霊であるサクラと一緒に生活しているってわけさ」

「なるほど。それは大変重要なお役目なのですね」

「ん? まぁ、そうかもしれないね。私の場合は行きがかり上しょうがなくなったって感じだったけどね」

「……というと?」

「うん。メルはちょっと前に勇者が邪竜を倒したって話は知っているかい?」

「はい。まだ私が生まれる前のことですが、小さいころ教会で教えてもらいました」

「そうかい。実はその話には続きがあってね。その邪竜を倒したあと、力を落としていた世界樹が再び力を取り戻し始めたんだ。それを聖女だった私が関知してね。それで、邪竜討伐のあと、私を含めた当時の勇者パーティーの四人で世界樹を探しに行き、今に至るってわけさ」

「……ロロア様は聖女様でいらっしゃったのですか!?」

「ん? まぁ、そう呼ばれてたね。といってもあれだよ。絵本に書かれているような奇跡は起こせないからね。あれはまったくの作り話さ。実際は魔獣に流れる魔素を乱して魔獣を弱体化させたりする魔法が得意ってだけのいわば後方支援役だったからね」

「……それでも、庶民の私にとってはすごい話ですよ」

「ははは。そうかい? でも、それを言うならミュウやユリウスの方がもっとすごいよ。なにせ直接邪竜の首を落とした張本人だからね」

「え?」

「ああ。ユリウスが勇者で、ミュウは戦士だったのさ。あと一人今は留守にしてるけど、賢者もこの村にいるよ。さっきちょろっと話に出てきたろ? ガルボっていうドワーフのおっさんさ」

と何気なく言うロロア様の言葉に言葉を失う。

そしてそんな私にロロア様は、

「ははは。これは一応内緒の話だよ。あくまでもこの村で私たちは薬師のロロアとそのメイドのミュウ、そして、元冒険者でギルマスのユリウスに鍛冶屋のガルボで通ってるからね」

と少しイタズラっぽい表情でそう付け加えると、美味しそうにワインをごくごくと飲んだ。

「かしこまりました」

と頭を下げて席を立つ。

そんな私にミュウさんが、

「あまり肩肘張らなくて大丈夫よ。私たちはもう少し飲んでいるから、先にお風呂を使ってくださいね。うふふ。メルさんはアルちゃんを優しく見守ることだけ考えていればそれでいいのよ」

と微笑みながら言ってくれた。

「ありがとうございます」

と頭を下げてリビングを辞する。

私は、

(なんだかとんでもないことになってしまったわね……。私はアル様のためになにをして差し上げられるのかしら……)

と考えながら、部屋に戻っていった。


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