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7.オタク、部活見学に臨む

 家電量販店で無事に液晶タブレットを購入した翔輔は、安祐美と連れ立ってお洒落なカフェへと出向きに、そのテラス席に腰を落ち着けた。

 もしかするとチャラい連中がナンパしてくるかもと警戒していたが、翔輔は黒いキャップに結い上げたロングヘア―を押し込み、更に黒いマスクでなるべく素顔を隠す様にした為、傍目から見れば清楚系美少女と黒ずくめのオタクファッションのカレシがデートしている様に見えただろう。


「ところで、さっき冬真さんが買ったのって液タブだよね? もしかしてイラスト描けたりするの?」

「えーっと、まぁ、そうですね、うん……」


 どうやって誤魔化そうかと考えた翔輔だったが、こんなイラストレーター御用達の機器を購入しておいて、全くの素人ですとは流石にいい辛い。

 ここはもう、或る程度の事実を交えて白状するしか無かった。


「わぁ、すごぉい……こんなこといったら冬真さんには失礼かも知れないけど、正直、かなり意外だったなぁ……冬真さんって結構、趣味の範囲が広いんだね」

「あー、はい、実はソーナンデス」


 翔輔は物凄く申し訳無い気分になってきた。

 まさか、本当は中身が真性オタクの陰キャですとは口が裂けてもいえない。否、いったところで絶対ただの頭おかしい奴だと思われるだけだろう。

 そんな翔輔=一華の前で、安祐美は無邪気に嬉しそうな笑みを浮かべている。

 この時、翔輔が感じた罪悪感は今までの人生の中で、最大級の破壊力を誇っていた。

 だが同時に、この背徳的で甘美な優越感は何とも抗い難い魅力に満ちている。一華として蘇った時には絶望しか無かった翔輔だったが、案外この二度目の人生も悪くないかも知れない。


「あ、そういえば冬真さん、知ってるかな……うちの学校、近々文芸部と漫研がひとつの部活に纏められるらしいんだけど……」


 安祐美が唐突に触れたその話題は、一華の記憶の中にも辛うじて残っていた。

 どうやら双方のクラブが部員減少による同好会への格下げを嫌って、部活統合に踏み切ったのだという。

 それ自体は別に不思議な話題でも無かったのだが、何故ここで安祐美がそんな話を翔輔に振ってきたのだろうか。

 そんな疑問を浮かべて小首を傾げていると、安祐美は意を決した様子で真っ直ぐな瞳を向けてきた。


「実はね、わたし、漫研文芸合同部に入ろうかなって思ってるんだけど……冬真さんはもう、部活とか決めちゃった?」


 思わず喉の奥で低く唸ってしまった翔輔。一華の声帯だから、声自体は多少高かったのだが。

 しかしこの流れは、もう何となく読めてきた。

 イラストを描く技術がある翔輔=一華を、彼女は勧誘しているのだ。

 翔輔は、ふくよかな巨乳を押さえつける様な形で腕を組み、青い空が広がる天を見上げた。

 全く興味が無い訳でも無かったが、ものぐさな自分が足繁く部活に通うことが出来るのだろうかという疑問が芽生えてしまったのである。


「お誘いは嬉しいんやけど、うち、そないにマメな方やないしなぁ……」

「あ、そんな毎日、部室に顔を出す必要は無いみたいだよ。こないだちらっと説明を聞いた限りじゃ、二週間に一回ぐらいしか顔を出さない先輩も居るみたいだし……」


 成程、と頷き返した翔輔。

 そこまで緩いのであれば、検討してみても良いかも知れない。


「ほんなら一回、見学行ってみようかな……」

「わぁ……だったら、一緒に行かない? 来週月曜なんか、どう?」


 そんな訳で、翔輔は安祐美と共に漫研文芸合同部の部室を訪れる運びとなった。


◆ ◇ ◆


 そして翌週月曜。

 翔輔は放課後になるまでは、なるべく陰キャなオタクの面を周囲に悟られない様にと必死に演技を続けながら一日を過ごした。

 相変わらず仲の良い女子らはべたべたとくっついてきて距離感を狂わせてくれたものの、男子の方はカラオケ店で発揮したオタク趣味が功を奏したのか、一部は若干離れた位置に引き下がる様になっていた。

 しかし逆に、近づいてくる者も居た。

 その代表格が、オタクな雰囲気満開の悠太だった。

 彼は翔輔=一華が休み時間中に少年漫画を読んでいる姿に目ざとく気付いた様子で、少しばかり嬉しそうな面持ちで、廊下などで声を交わす様になった。

 勿論翔輔も悠太との友誼を拒むつもりは無く、同じオタク同士としてリラックス気分で応対した。

 そんな姿を、周囲は驚きの眼差しで見つめてきている。余程に衝撃的だったのだろうか。


(まぁ……見た目だけなら今の俺、普通にイケイケのギャルやもんな……)


 別にオタクに優しいギャルを気取っている訳ではないのだが、真相を知らないクラスメイト達からすれば、その様に映っていたとしても不思議ではないだろう。


(けど、驚くのはまだまだこれからかも知れへんな)


 その極めつけとなる行動が、放課後に控えている。

 やがて六時限目授業が終了のチャイムを迎えると、生徒達は終業時ホームルームを経て自由な時間を得る。


「ねー冬真ー、今日はこの後、どうすんの?」

「あ……今日はこの後、部活見学に行くから」


 翔輔=一華が幾分ぎこちない仕草で応じると、問いかけてきた友人女子は目を丸くして驚いていた。

 ギャル系美少女が部活に精を出すなど、きっと彼女らの中ではあり得ない話だったのだろう。

 しかし、約束は約束だ。

 翔輔は通学鞄を抱えると、席まで迎えに来た安祐美と揃って教室を出た。


「へぇ~……あのふたりがねぇ……」

「なぁんか、すっごく意外……」


 教室を出る際、一華の友人女子らが驚きの声を漏らしていた。

 そんなに意外な話なのかと翔輔は内心で苦笑を禁じ得なかったが、しかしギャル系美少女として今後もオタク道を突き進んでゆくのであれば、このぐらいのことは普通にやってのけなければならない。

 かくして、翔輔と安祐美は部活棟一階の漫研文芸合同部というプレートが貼り出された一室を訪れた。


「たーのもー。部活見学に来ましたー」


 翔輔が引き違い戸をガラガラと開けて声をかけると、最初は嬉しそうな表情を一瞬だけ見せかけた先輩部員らが、その直後には驚愕に彩られた顔つきで全員、その場に凝り固まってしまった。


「あ……えっと……その、うちは漫研文芸合同部、なんだけど……部屋間違えたってことは、ないかな?」


 やたらふくよかな体型が特徴的な上級生男子が、おっかなびっくりの様子でふたりを出迎えた。


「はい、合ってまーす。うちら、漫研文芸合同部の部活見学をしたいでーす」


 翔輔は若干芝居がかった口調でいい切った。

 その傍らで安祐美が、小さくぺこりと会釈を送る。

 すると部室内に、感動と驚きと困惑が複雑に入り混じったどよめきが起こった。

 歓迎されていない訳ではないのだろうが、ここまで驚かれるものなのだろうか。

 翔輔は超絶美少女の顔に疑問の色を張り付かせて、思わず腕を組んでしまった。

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