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6.オタク、人生の転機を悟る

 最初に足を運んだ先は、量販系衣料品店だった。

 が、周囲からの視線が微妙に痛々しい。

 誰が見てもキラキラしたギャル系美少女が、メンズコーナーをうろうろしながら、物凄く地味なトップスとボトムスを買い物かごに放り込んでいる姿というのは、少々奇異に見えたかも知れない。


(う……そらぁやっぱり変な目で見られるか……)


 もともと翔輔は、黒系のコーディネートが好みだった。

 以前クラスメイトから、全身黒過ぎだと笑われたこともあった。しかし、好きなものは仕方が無い。

 どうせ一華のクラスメイトらにはオタク女子として認知されたのだから、今更服装選びで頭を悩ませる必要も無いだろう。

 という訳で翔輔は、黒いメンズTシャツ、黒いパーカー、黒いチノパン、黒いキャップと徹底してダークに統一した一式を揃えた。


「あ、着て帰るんで値札切って貰えます?」


 翔輔が一華の美少女フェイスでにこやかに申し入れると、店員は幾分驚いた様子だったが、それでも何もいわずに希望通りにしてくれた。

 かくして翔輔=一華は全身黒ずくめのオタクファッションにコーディネートチェンジを果たした。

 但しその白い美肌は相変わらずな為、際立つ程の美貌とほっそりとした指先、色彩豊かなネイルなどが却って目立ってしまっている。

 足元もお洒落なショートブーツのままだから、違和感が半端無かった。


(まぁ、エエか……オタクにファッションセンスなんか求められても困るし……)


 そんなこんなで変装用のメンズファッションはひと通り揃えた。

 次は家電量販店で液晶タブレットを物色する予定だったが、或る店舗の看板にふと目が留まった。

 大手のアニメグッズショップだった。

 一華のセクシーなギャル系コーディネートのままであったなら間違い無く躊躇したであろうが、今の翔輔=一華はオタク趣味の全身黒ずくめ衣装だ。

 今なら突撃しても違和感はない筈だと勝手に決めつけて、翔輔は何の迷いもなく件の店舗へと足を踏み入れていった。


(お、新刊出てるやんか)


 コミックスコーナーで足を止め、お気に入りの少年漫画やライトノベルに次々と手を伸ばしてゆく。

 予算にはまだまだ余裕があるから、少しばかり爆買いしても問題は無いだろう。


(おー、大漁大漁……今日は吉日やわぁ)


 ほくほく顔でレジへと向かおうとした翔輔。そこで、不意に背後からか細い声が飛んできた。


「えっと……あの、もしかして……冬真さん?」


 余り馴染みのない少女の声だった。

 振り向くと、黒髪をポニーテールに纏めた眼鏡っ子がそこに居た。大人しめな色合いのワンピース姿で、可愛らしい面に驚きの色を張り付けている。

 確か、一華のクラスメイトの坂上安祐美(さかがみあゆみ)という少女だった様に思う。


「あー、えーっと、坂上さん?」

「あ、はい。坂上です」


 翔輔に応じながら、安祐美は全身黒ずくめ姿のギャル系美少女の姿をまじまじと眺めてから、次いで翔輔が手にしている買い物かごの中身をちらりと覗き見た。


「そのぅ、何っていうか、意外だね……冬真さんって、いつもこういうお店に来てたんだっけ?」

「あー、ははは、何っつぅかそのぅ、今日がデビューっちゅうかね~」


 相変わらず同年代の女子相手となると、挙動不審になってしまうギャル系美少女。

 安祐美は物凄く不思議そうな面持ちで焦った表情の翔輔=一華の顔を、きょとんと見つめている。が、そんな表情もほんの束の間で、安祐美はすぐに穏やかな笑顔を浮かべて歓迎の意を示した。


「へぇ、そうなんだ……ここ、品揃えが凄く充実してるから、わたしもよく来るんだぁ……冬真さんはお目当てのもの、見つかった?」

「え? あぁ、うん。読みたいなぁ思うてた新刊はばっちりゲット出来ました」


 何故か敬語が出てきてしまう翔輔。

 一華の友人らは馴れ馴れしく接してくるからこちらも普通にため口で対処しようと思うが、安祐美には何となく、そんな対応が許されない様な空気感を覚えてしまった。

 対する安祐美は、微妙に嬉しそうな顔つきで急にもじもじし始めた。

 もしかすると、ギャル系美少女が黒ずくめのオタクファッションで少年漫画やライトノベルを買い漁っている姿に、何か違和感を覚えたのだろうか。

 ところが次に安祐美の口から発せられた言葉は、翔輔の予想の斜め上を行っていた。


「あのね……その、もし冬真さんさえ良かったら……もうちょっと、お話したい、かな……」

「え……俺とかいな?」


 思わず素が出てしまった翔輔。その後、慌てて、


「あー、じゃなくって、うちとお話したいの?」


 と再度いい直したものの、動揺は未だに続いている。

 これに対して安祐美は物凄く恥ずかしそうな面持ちながら、小さく頷き返してきた。

 その余りの可愛さに、翔輔は心臓が撃ち抜かれた様な衝撃を覚えた。

 こんな清楚で愛らしい娘さんにお誘いされたとあれば、やるべきことはひとつだろう。


「ふっ……お嬢さん、こんな僕で良ければ、是非エスコートさせて下さい」

「あはは……何だか冬真さんって、面白いひとだね」


 ころころと可笑しそうに笑う安祐美に、翔輔は立て続けに心臓を射抜かれる気分だった。

 今までの翔輔ならば、こんな可憐な少女と言葉を交わすなど、まず無理筋だっただろう。しかし今は自身も超絶美少女なのだから、これはワンチャンありかも知れない。


(エエで、エエで……俺にも遂に、春が来たんとちゃうか……?)


 一華の美貌という最強の武器を手に入れたことで、人生の風向きが変わってきたのかも知れない。外見的な部分では完全に他力本願だったが、しかしこのチャンスを逃す手は無いだろう。

 とはいえ、今まで異性とのデートなど経験したことが無い翔輔。ここは一華の記憶を頼りに、女子が喜びそうなお店情報を脳内検索するしか無いだろう。


「あ、でもちょっとその前に、行きたいお店があるんやけど、先そっち行ってもエエかな」

「うん、全然オッケーだよ」


 かくしてふたりの美少女は、並び立って家電量販店へと足を延ばすこととなった。

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