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4.オタク、ギャル系女子の美声で特撮主題歌を歌う

 悠太の手を引いて教室に戻った翔輔は、室内に居たクラスメイトらからの奇異の視線に多少気まずい思いを抱きながらも、ひとまずは窓際近くの自席へと辿り着いた。


「あ、えっと、その……ふ……冬真……さん?」


 戸惑いがちに呼びかけてきた悠太。

 ここで漸く翔輔は、白くてほっそりした柔らかな手で悠太の手首を掴んだままであることに思い至った。


「あ、御免ごめん……急に引っ張ってきてしもて、迷惑やったかな……」


 はははと乾いた笑いを漏らしながら頭を掻いた翔輔。

 ちょっと強引過ぎたかも知れないと今更ながらに反省の念が湧いてきた。


「それで、えぇと……これから何が起きるんです?」

「第三次大戦だ」


 悠太からの問いかけに対し、ほとんど反射的にキリっとした顔でそう答えてしまった翔輔。

 大好きなハリウッドのB級アクション映画の台詞だった。翔輔の中では他を圧倒する名作ということになっており、劇中の台詞をほとんど諳んじることが出来る程に何度も何度も見ていた作品である。


「えーっと……」

「あ、ごめん。今のナシ……きょ、今日のところは一旦お開きにしとこか。また色々、お話させてぇな」


 誤魔化す様にけらけらと笑ってみせた翔輔。

 正直なところをいえば、悠太の様な大人しくてオタクな雰囲気丸出しな男子の方が、圧倒的に喋り易い。

 翔輔自身が同じく日陰に身を置く人生を歩んできていたから、陽キャなパリピ連中なんかよりも遥かに親近感を持つことが出来るのだ。

 が、流石に今、この場で延々と悠太だけを相手にしているのは拙いだろう。

 これまでに一華が仲良くしてきた女子連中からも変な目で見られる恐れがあるし、悠太に要らぬ気遣いをさせてしまう可能性もあった。


「えー、何ナニー? 何か珍しい絵面じゃん?」


 早速一華の友人女子がひとり、喰いついてきた。


「あれー? 冬真ってそんなに人脈広かったんだ?」


 今度は別の女子からも声がかかった。

 悠太は既に表情が凍り付いてぎこちない態度を取り始めていたが、それ以上に翔輔の方があわあわと取り乱して挙動不審になりつつあった。

 やっぱり、女子は怖い。

 否、今の自分も見た目はギャル系女子なのだから別段恐れる必要は無い筈なのだが、矢張り長年身に染みついた陰キャ根性は、そう簡単に抜け落ちるものではない。


「あー、いや、ははは……ちょっとね、話してみたら、案外エエひとやなぁって思うて……」

「ふーん、そうなんだー。で、何の話ィ?」


 陽キャ女子達は中々、解放してくれようとはしない。それ程にオタク男子とギャル系美少女の組み合わせが珍しかったのだろうか。

 だが、ここで上手い具合に五時限目の予鈴が鳴った。

 悠太はこのタイミングを逃さず、また今度と小声で囁きながら自席へと戻っていった。


(うぉー、あぶねー……超あぶねー……やっぱ女子って怖いわぁ)


 見た目超絶美少女な自分のことを棚に上げながら内心でドキドキしていた翔輔。

 取り敢えずこの場は難を逃れることが出来たが、これから先も毎度、似た様なシチュエーションでハラハラしなければならないのだろうか。


(流石に……ちょっと、心臓持たんわ……)


 目に見えてげっそりした表情を浮かべながら、午後の授業に臨んだ。

 そうして何とか六時限目までを終えて、登校初日を辛うじて乗り切ったのだが、最後にまだもうひとつ、大きな難関が待っていた。


「おーい冬真ー。この後、皆でカラオケ行かん?」


 一華の快気祝いということで、仲良しグループの男女がそんな提案を持ち掛けてきてくれた。

 友人らの気遣いを無下に断るのも申し訳無く、翔輔は死にそうな顔に無理矢理笑みを浮かべながら、必死の思いで承諾した。


(俺……生きて帰れるやろか……)


 今から死地へと赴く戦士の気分で、一華の友人達と駅前のカラオケ店へと向かった翔輔。

 道中、陽キャでパリピな男女から色々と話を振られまくったが、そのほとんどに対して上の空で応じてしまった。


(アカン……このひとら、何いうてんのかさっぱり分からん)


 正直いって、全く話題についていけなかった。

 一華の記憶を手繰れば多少翻訳は出来るのだが、陽キャ達の話すペースが余りにも早くて、脳内変換が追い付かない。

 オタクな話題であれば幾らでも対処出来るのだが、兎に角も土俵が違い過ぎた。

 やがて、カラオケ店に到着。

 この時点で翔輔は、腹を括っていた。もうなる様にしかならない。今更、ギャル系女子が好む様な楽曲なんぞに手が伸ばせる訳もない。


(丁度エエわ……ここで皆をドン引きさせて、向こうから距離置く様に仕掛けたろ……)


 ここが正念場だと覚悟を決めた翔輔は、仲良しの女子から選曲用のタブレットを渡されたところで、今まで一華が歌ったことも無いような曲を次々とエントリーしていった。

 そして数分後、個室内の雰囲気ががらりと一変した。

 翔輔=一華はマイク片手に、特撮番組の主題歌を思いっ切り熱唱し始めたのである。

 同室の友人達は皆、揃いも揃って唖然としていた。

 更に、翔輔が投入した爆弾はこれだけにはとどまらない。この後立て続けにアニメやゲームの主題歌や挿入曲を次々と歌い上げてゆくギャル系美少女。

 しかもその歌声は当然ながら一華の高いトーンだから、結構な破壊力があった様に思う。


「冬真……お前、趣味変わったなァ……」


 男子生徒のひとりが、驚きの中に微妙な喜色を交えて、そんな台詞を投げかけてきた。


「うん。入院中に色々見て、世界観変わった」


 陽キャであろうが、男子相手なら辛うじて普通に喋ることが出来る翔輔。

 そんな適当な台詞で、ひとまずこの場は誤魔化すことにした。

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