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死の妄想

「時々、自分が死ぬ妄想をすることがあるんだ」

 僕の言葉に、向かいに座っていた従妹はさして顔色も変えず、スマホの画面を観たままだ。

「ふーん。例えば、どんな?」

「そうだなぁ。最初は道端で突然、知らない男に後ろから刺されて、財布とか取られて、犯人が走り去る背中を見つめながら事切れる、みたいな。そんで犯人は手がかりもなく、僕の死んだ事件が大々的にニュースになるような妄想だった」

「ほかには?」

「その次は、横断歩道を歩いていたら、信号無視した車に轢かれるんだけど、運転してたのが芸能人でワイドショーを騒がせたり、ベランダから身を乗り出して掃除してたら、うっかり足を滑らせてマンションの9階から転落したり、なんか、ありそうでなさそうな妄想、だよ」

 気付くと従妹はスマホではなく、僕の顔を見つめながら眉をひそめていた。

「……その妄想、いつしたの?」

「え?」

「だから、マンションから落ちるってやつ」

「あー、いつだろう?」

 妄想した時の日付なんて、そうそう覚えているものではない。

 さすがに記憶にはなかった。

「……じゃあ、ケイスケ叔父さんの死因知ってる?」

 ケイスケ叔父さん。

 僕の母と従妹の父の、お兄さんに当たる人で、今日はその人の葬儀が執り行われる。

 その待ち時間、こうして久しぶりにあった従妹と他愛なく話をしていたのだ。

「いや、知らない……。聞いてない、けど」

「マンションのベランダから落ちたの」

「マジで?」

「マジで」

「もしかして、掃除中に?」

 従妹はコクリと頷いた。

「あと、ちょっと前にタレントのYが轢き逃げした事件の被害者はうちのお母さんの従姉妹の旦那さんらしいし、数年前に亡くなった祖母ちゃんのお兄さんも強盗殺人に遭ってる」

「え、うそ……」

 知らなかった。

 いやいや、でも聞いたのに忘れてたんじゃないか?

 それでこんな妄想をしたとか?

 んー、でもこの妄想は何年も前からしているものだし、親類がそんな死に方してたのは絶対に初耳だ。

「偶然でも気持ち悪いし、その変な癖やめてよね」

「う、うん……」

 従妹に言われ、僕は確かに気持ち悪いし、妄想するのは辞めようと考えた。

 だが、葬儀が終わり、自宅に帰る道すがら、またうっかり妄想してしまった。

 乗り換える人間の多い今まさにいる駅で、混雑に紛れてホームに思い切り突き落とされ、そこに急行電車が走り込んできて──。

(……なんてな)

 そんなことを考えていたら、先ほど改札口で別れた従妹が、向かいのホームに立っているのが見えた。

 相変わらず、スマホをじっと見つめている。手を振ったら気付くだろうか?

 その時だった。

 向かいのホームに、電車の接近を告げるアナウンスが流れたタイミングで、彼女が誰かに突き飛ばされたように、その身体がポーンと宙に浮かんだのだ。

 気付いた時にはもう遅かった。

 僕の妄想は、現実の僕を殺さない。

 どうしたら、僕は……。

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