第8話 宿題なので黒歴史作ってきますね②
【登場人物紹介】
◆逢沖 悠斗 17歳
本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡されたところから、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。妄想力には自信がある。
◆七瀬 水月 17歳
人工魔眼を持つ少女。2100年に起きた出来事で無意識に魔眼を使い、2070年の世界を再構築した。その後、公園で一人泣いていたところを悠斗に助けられ、今は悠斗の家に居候中。
◆九条 莉奈 17歳
悠斗の幼馴染。大企業社長の娘でお金持ちのお嬢様だが飾る事がなく、割と庶民派。面倒見のいい性格で、悠斗と水月をいつも気にかけている。魔眼持ちのようだが……?
◆十文字 かれん 自称20歳
眼科で悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と告げた人物。魔眼の使い方に詳しく、他にもまだ明かしていない素性があるようだ。
◆煌々 輝夜 自称14歳
かれんの屋敷に同居している女の子。恥ずかしがりやだが、戦うと結構強い。かれんと同じくまだ謎が多い人物。
◆ナムタル
黒いモヤモヤを引き連れた男。何が目的なのかは不明。
「かれん先生のぉ~っ、秒でわかる魔眼講座~っ‼」
「ぉお~っ‼」
一人だけズバ抜けてハイテンションなかれんに合わせて、輝夜が手をパチパチさせている。
そんな二人を尻目に、悠斗達は思う。
(何この状況……っ‼)
昨夜、ナムタルを退けてから一夜明け、かれんと輝夜は魔眼の使い方を伝授すべく悠斗の家を訪れていた。一階のリビングに集まり、教壇に立つような振る舞いをするかれんを囲んで皆が座っている。
「魔眼と量子論、実はある言葉で繋がっています──それはぁ~っ『厨二』‼ みんな『シュレーディンガーのネコ』って知ってるかな~?」
「あれでしょ? 毒ガスでネコが生きてるかどうかみたいな話」
莉奈がそう答えると、待ってましたとばかりにかれんが話を続ける。
「ふっふ~ん‼ 聞いた事はあるけど、それが何なのか知らない人もいるだろうから簡単に説明するね~! これはぁ、量子論の『ある解釈』の問題点を指摘するために、シュレーディンガーさんが考えたすっご~い『思考実験』なんだよ~!」
「思考実験?」
莉奈が首をかしげる。
「そう‼ 実際にネコちゃんで実験したりしてないから安心してね~! その実験の内容を詳しく説明すると長くなるからぁ、九十九パーセントすっとばしちゃうと、『その解釈だと結果が原因を導く事になるからおかしいよ⁉』って言いたかったんだね~!」
一呼吸置いて、かれんは皆の反応を確認する。
「原因があって結果が導かれるのが普通でしょ? 順序が逆になっている──つまり『因果の逆転』っていう厨二の子が喜びそうなワードに結び付くんだね!」
「因果の逆転──なんかかっこいいぞ!」
悠斗が食いついてきた。
「そしてぇ~‼ 厨二とシュレーディンガーさんがバトりながら発展してきた量子論はついに! 悠斗によって魔眼開発までたどり着くのでしたぁ~‼」
「マジか‼」
「──厨二悠斗」
「ユートは厨二」
「えぇ⁉ こんなのテンション上がるでしょ‼ 上がらない⁉」
「──ちなみに量子論っていうのは、原子とか電子、光子、重力子っていうちぃ~っちゃいミクロな世界の理論なんだけど、〝魔力子〟もそういうのの一つなんだよ~」
悠斗は「ふむふむ……」と頷きながら話を聴いている。
「魔力子が発見されたのは二〇八七年! 魔眼は観測装置って話したの憶えてる? 魔力子は観測される事で、みんなが魔法として空想していた事を実現できるの‼ だから〝魔力子〟っていう名前が付けられたんだね~!」
「て事は〝魔眼〟って呼び方もファンタジーが由来なのか……?」
「鋭いね悠斗くん! まぁ君が魔眼を開発してそう名付けたんだから、当然なんだけど……」
「やっぱり厨二悠斗」
「ユートは厨二の中の厨二」
「か、かぐやは厨二の悠斗さんも好き、だよ……っ!」
「輝夜ちゃんフォローになってない……」
悠斗は〝キング・オブ・ザ・厨二〟の称号を手に入れた。
「悠斗は人工的に魔眼を創っちゃったけどぉ、歴史に名を残す偉人達は自覚がないだけで、天然の魔眼持ちだったりするんだ~! みんなここまでは大丈夫かなぁ~?」
「────」
莉奈が少し考え込んで水月に尋ねる。
「何とか……ねぇ、水月は人工魔眼を持ってるけど魔眼の使い方は知ってるの?」
「ううん、使い方ははっきり知らない。わたしが魔眼を移植してもらったのも、魔眼で魔力子を操る研究段階で、実験の被験者がなかなか見つからなかったらしくて。それで視力を失ったわたしが選ばれただけだから……」
「なんか未来のおれ……マッドサイエンティストみたいになってるな」
「だいじょーぶ! 悠斗はそんな悪い子になったりしてないから!」
「ならいいんだけど……」
「で‼ 肝心の魔眼の使い方なんだけど、魔眼で観測された魔力子は観測した人の脳波に反応します! だからぁ、頭の中でこうしたいってイメージすると、魔力子がそれを実現してくれるんだよ~!」
「そんだけでいいの⁉」
「ふっふっふ……甘いね悠斗くん、そんなに簡単じゃないよぉ~! コツは、はっきりしたイメージを持つ事、それと、イメージを実現できるって信じる事!」
「それって悠斗の得意分野じゃない? いつも言ってるでしょ、『妄想こそが未来を創るんだー』って」
「わたしもそれ聞いた! ユートいっつもそんな事言ってるの?」
「おれの妄想力なめるなよ? 魔眼ぐらい秒で使いこなしてやるからな⁉」
「悠斗さん、そんなにすごい人だったんだ……かぐやもいっぱい応援……するからね!」
「よしよし~っ、ちなみにイメージをはっきりさせるには、言葉に出すのがとっても有効なんだ~! だからぁ、技名、考えておきましょー‼ 輝夜ちゃんみたいに呪文唱えるのもオススメだよ~?」
(……はっず‼)
三人の心が一致して同じように顔を赤くした。
かれんは面白そうにその様子を眺め、悠斗は叫ぶ。
「黒歴史作ってこいみたいな宿題出すのやめて────っ‼」