第6話 誰か知らないけど裁いときますね③
【登場人物紹介】
◆逢沖 悠斗 17歳
本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡されたところから、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。妄想力には自信がある。
◆七瀬 水月 17歳
人工魔眼を持つ少女。2100年に起きた出来事で無意識に魔眼を使い、2070年の世界を再構築した。その後、公園で一人泣いていたところを悠斗に助けられ、今は悠斗の家に居候中。
◆九条 莉奈 17歳
悠斗の幼馴染。大企業社長の娘でお金持ちのお嬢様だが飾る事がなく、割と庶民派。面倒見のいい性格で、悠斗と水月をいつも気にかけている。魔眼持ちのようだが……?
◆十文字 かれん 自称20歳
眼科で悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と告げた人物。魔眼の使い方に詳しく、他にもまだ明かしていない素性があるようだ。
◆煌々 輝夜 自称14歳
かれんの屋敷に同居している女の子。恥ずかしがりやだが、戦うと結構強い。かれんと同じくまだ謎が多い人物。
「みんなお待たせ」
「どお? ゆっくりできた?」
お風呂を済ませた水月に莉奈が尋ねた。
「うん! すっごく綺麗なお風呂だったよ」
「そうなの? あたしも使わせてもらえばよかったかな──と、それはひとまず置いといて」
気を遣うような口調で莉奈が話を始める。
「あのね、一つ悠斗と相談した事があるんだけど……」
「相談?」
「あたしもしばらく悠斗の家に泊まろうかと思うの。その方が水月のフォローもしやすいし。悠斗はオーケーしたけど……もし水月が抵抗あるなら他の方法考えようかなって」
「ううん、莉奈が一緒にいてくれたら嬉しい。わたしはそれでいいよ」
「よかった――でね、お節介かとは思ったんだけど、実は水月に似合いそうな服買ってきて……」
「──わたしに?」
「うん。でもよく考えたらさ、これ着て外出るとその……普通の人には服だけ浮いてるみたいに見えちゃうなって」
「あ、そっか……」
「ごめんね、なんか余計な事しちゃって」
「ううん、そんなことない。ありがとう莉奈、大好き」
水月のまっすぐな感謝の気持ちに、基本ツンな莉奈が顔を赤くした。
「よし、じゃあ帰ろうか」
悠斗達は屋敷の前でかれんに挨拶をして屋敷を後にする。
「輝夜ちゃーん! みんなをよろしくね~!」
「う……うん! かぐやに任せて!」
かれんに頼られた輝夜が嬉しそうに意気込み、悠斗達を先導して歩き出した。
屋敷を出てからは特に危ない事もなく、悠斗と水月が出会った公園の前まで辿り着いた。悠斗がその時の事を思い出しながら歩いていると、急に輝夜が立ち止まる。
「どうしたんだ? 輝夜ちゃん」
「わ、わからないの……この先からね〝死〟の気配が……あ、歩いてくるの……」
輝夜に引っ張られて公園の物陰に身を隠し、道路の方を伺っているとそれは現れた。
「な、なに? かぐや、あんなの見た事ない……」
「見るのは初めてなのか?」
「うん、何? あれ……」
そこに現れたのは、先日悠斗達を襲った黒いモヤモヤだった。
「あの黒いモヤモヤ――四体もいるの⁉ それに……」
莉奈の言葉の続きは、言わなくとも皆に伝わった。
黒いモヤモヤを引き連れるようにして、一人の男がゆっくりと、気だるそうに歩いている。
奴らに気付かれないよう背中を向けて息を殺す。
その男は、少し長めの黒い髪で、男性用の執事服をアレンジしたような服を着ていた。目つきは死んでおり、肌は血が通っていないような青白さだ。
「あぁ……女王様も無茶いうぜぇ……この数の中から見つけて連れ戻してこいなんてぇ……あんだけ入ってきたんだ……もういいじゃねぇかぁ……」
動作と同じく話し方も気だるそうで、言葉を引きずるようにゆっくりと、重たい声で何かを言っていた。近付いてくるにつれ、男の纏う〝死〟の気配によって首を絞められているような息苦しさを感じる。
ようやく公園を通り過ぎ、なんとかやり過ごしたかと気を抜いた瞬間────
「あぁ……そこに隠れてる奴ら……持って帰れるなら殺ってこい」
「――‼」
「ちょっと! あのモヤモヤこっち来る‼」
水月と莉奈は抱き合って体を震わせていた。
悠斗が皆を守る方法を必死に模索する。
──と、その時。
「かぐやに任せて!」
「え⁉ ちょっ……大丈夫なのか⁉」
悠斗が止める間も無く、輝夜が黒いモヤモヤの前に飛び出した。
どこから出したのか、いつの間にか白いワンピースの上に黒いコートを羽織っている。
「裁きの光に告げる――あの者を見極めよ」
輝夜が右手を上に掲げながら唱えると、天上に現れた光が、まるで雷のように鋭く黒いモヤモヤを貫いた。
「やはり悪しき者のようですね」
光に貫かれた黒いモヤモヤは霧散し消えていく。
悠斗達は皆、開いた口が塞がらなかった。
(やっぱ魔法少女じゃん……っ⁉ てかこの子も性格変わりすぎだし……今変な事言ったら絶対おれも裁かれる‼)
黒いモヤモヤ四体を全て消し去ると、輝夜は次の狙いを男に定めた。
「裁きの光よ――闇を斬り裂く刃となれ」
輝夜が剣を持っているかの如く腕を振るうと、その動きに合わせて十メートル以上離れている男の元に光の刃が現れた。
だが男はその攻撃を全て躱し、相変わらず死んだような目のまま反撃する様子を見せない。
「しぶといですね……しかし相手は油断しています。今のうちにこれを――」
輝夜がコートの胸ポケットから何かを取り出した。
それを見た悠斗が期待の眼差しを向ける。
「もしかしてパワーアップアイテムか⁉」
「いえ、お腹が空いたので……おやつのマシュマロを」
(この子まじめに戦ってるの⁉)
油断しているのは果たしてどちらなのか。
(かれんさん助けて……‼)
◇
屋敷に残っていたかれんは今、輝夜による裁きの気配を感じて不安に駆られていた。
その気配が一度ぐらいなら別段心配する必要もないのだが、今回はどうもおかしい。あの輝夜がこうも裁きを連発するなど、今までなかったことだ。
実はかれんにとっても、黒いモヤモヤを見たのは昨日が初めてである。明確な悪意を感じて斬ってみると軽く倒せたので、何かあっても輝夜一人で対処できると判断していたのだが────
「何か……予想外の出来事でもあったのか?」
その不安を取り除くべく、かれんは屋敷を出て悠斗達のもとへ向かった。