第61話 男は黙って腕立て伏せですよね③
【主な登場人物】
◆逢沖 悠斗 十七歳
本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡され、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。
◆七瀬 水月 十七歳
人工魔眼持ちの少女。〝天理逆行〟を引き起こし、2070年の世界を再構築した。今は悠斗の家に居候中。
◆九条 莉奈 十七歳
悠斗の幼馴染。お金持ちのお嬢様だが割と庶民派で面倒見のいい性格。〝秘跡の魔眼〟の持ち主。
◆十文字 かれん 自称二十歳
戒めの使徒。創世六位〝人間の創造主〟。悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と告げた人物。
◆煌々 輝夜 自称十四歳
戒めの使徒。創世一位〝光の創造主〟。恥ずかしがりやだが、戦うと結構強い…??
◆ルーナ・クレアーレ 自称十九歳
戒めの使徒。創世四位〝天体の創造主〟。ラメドに所属し〝神の兵器〟を欲している。
◆シロマロ 二十二歳
ルーナの子分その一。がたいのいい男。
◆クロマロ 二十二歳
ルーナの子分その二。痩せ気味の男。
◆イリス・ベラルディ 五歳
預言の館に訪れた女の子。水月曰く、誘拐されるそうだが……?
◆レムス・ベラルディ 十五歳
行方の分からなくなったイリスの兄。
◆千里眼 年齢不詳
ラメドに所属する人物。ルーナから危険視されている。
「ほら、すぐに来てくれたでしょ?」
「ふ、元々は妾の考えじゃ、存分に崇めるがよいぞ? んん?」
「かぐやも──実は同じこと考えてたんだよ? ホ、ホントだよ──⁉」
思惑通り、と言わんばかりにドヤる女達。
そして──
「いや、分かってたよ? そんなのいるハズないって分かってたよ? でもさ……」
神殿に着いた悠斗達はその存在を確認するなり膝を突き、がくーんと頭を垂れてうなだれていた。
「一緒に写真撮りたかったのに……‼」
莉奈が手に持っているスマホを落とした。
「握手してもらいたかったのに……‼」
水月が手のひらをもきゅもきゅさせた。
「腕立て伏せしてから会いに来たのに……‼」
「悠斗くん、頭でも打った?」
「……お主、言うことが容赦ないのぅ……」
あまり馴染みのない声。前回ここに来た時に一度だけ聞いた気もするが、はっきりとは憶えていない。
近づいてくる足音の方へ視線を向けると、美しいブロンドの髪をなびかせながら颯爽と歩く女性が目に入った。
「そう落胆するでない……アレとて中々に珍しき存在であるぞ?」
「えっと、どちら様で……?」
「おお、うっかりしておったな」
悠斗の目の前で仁王立ちすると、そのブロンド美女が腕組みしながら自己紹介を始めた。
「妾の名はルーナ・クレアーレ、戒めの使徒が一人──天体の創造主じゃ‼」
「…………」
「──はて、反応が薄い。かれん! これはいったい……⁉」
急に話を振られたかれんだったが、特に困った様子は見せずその問いに答えた。
「え? ん~たぶん……この子達も色々あったからね~! それぐらいじゃ大して驚かないんじゃない?」
「な、なんと……⁉」
戒めの使徒を名乗るブロンド美女が衝撃を受け、よろけて崩れるように膝を突いた。
「妾は驚かれたかったんじゃ……‼ ただそれだけなんじゃ……‼」
「あ……え~っと、ルーナさん……?」
困った悠斗は助けを求め、とっさに目で水月に訴えかける。
(水月ごめん! 頼むなんかフォローして!)
見つめ合うことほんの一瞬──悠斗の意図をすぐさま察したのか、水月の目がカッっと見開いた。
(──通じたか⁉)
しかし、どういう訳か水月は頬を赤らめ、プイっと後ろを向いてしまう。
(ナニをどう読み取っちゃった⁉)
選択を誤ったらしい。こういう時、頼りになるのはお互いをよく知る幼馴染の方だ。
そう思って反対側を向くと、莉奈とはすぐに目が合った。そして幼馴染だからこそ、莉奈が目で語る言葉を悠斗はすぐに理解してしまった。
『ちょっとアンタ、早く何とかしなさいよ!』
間違いなく莉奈の目はこう語っている。やはり、いざという時に頼りになるのは自分自身ということか。
「ま、まさか……ルーナ・クレアーレって、あの⁉」
そのセリフにルーナがピクっと反応した。
「戒めの使徒で天体の創造主っていう……あの⁉」
もう一押し。
「いやーまさか本人に会えるなんて思ってなかったから、理解が追いつかなかったなぁー」
「──‼ そうであろうそうであろう‼」
笑顔を取り戻したルーナが勢いよく立ち上がった。
「──っといかん、それよりもお主らに頼みたい事があるんじゃ!」
「頼み? それでおれ達呼ばれたんすか?」
「左様、まずあの白いの──ラメドでは〝白の天使 ラピス・アルバ〟と呼んでおるんじゃが、その後ろの壁が崩れたところ……見えるかの?」
言われて目を凝らすと、血を流している二人の男を確認することができた。
「あれってまさか……シロとクロか⁉」
「あたし達とバカやってる場合じゃない! 早く……何で助けに行かないの⁉」
「……そうじゃな、妾は一体、何をやっておるんじゃろうか……」
シロマロとクロマロの方を見てルーナが拳を握りしめた。
「あ……あのね、違うの、これには訳があって……」
何も言わないルーナを見かねたのか、輝夜が事情を説明してくれた。
「かぐや達──戒めの使徒はね、見えない何かに弾かれて中に入れなかったの……‼」
「私もさっき知らないで入ろうとしたらぁ、バチッってなって尻もちついちゃったんだ~」
「でもシロクロさん達みたいにね、人間は入れるみたいだから、それで……悠斗さん達を呼んだの」
「わかった。わたし、助けに行く!」
まだはっきり頼まれたわけではない。それなのに、一切の迷いなく水月は自ら声を上げた。
「ちょっ……水月、簡単に引き受け過ぎよ! シロとクロが倒れてるのだって、どう見てもあのラピス何とかってやつの仕業じゃない!」
「ああ、それにルーナさん、ラメドで何してたんだよ……? 場合によっちゃ自業自得だ。おれだってシロとクロは助けたい。だけど……そんな簡単に水月を危険な目に合わせるわけにいかないだろ」
「ユート……」
「お主らの言う通りじゃ、しっかりケジメを付けねば先には進めぬ」
「え……⁉」
悠斗にそんなつもりはなかったのだが、ルーナは額を地面に付けて土下座し、指先をピシッと揃えた。
「申し訳なかった。お主らを連れてくるよう指示したのは妾じゃ。今の状況も全て己の甘さが招いた結果。それでも──恥を忍んで、お主らを頼らせてもらいたい」
「ルーナさん! そこまでしなくていいから頭上げて……!」
「いいや、まだ上げぬ。妾がラメドにおったのは戒めの使徒としてラメドを監視するためじゃった。しかし、だからといってお主らを危険な目に合わせていい理由にはならん。それでも……シロマロとクロマロは、妾にとって大切な家族なんじゃ……‼ 不甲斐ない妾の代わりに、あの二人を助けてやってはくれんじゃろうか……‼」
その言葉からはルーナの必死な想いが伝わってきた。悠斗と莉奈が答えるまで、ルーナが頭を上げることはないだろう。
「まったく……、誰かを助けるのに理由が必要だなんて、あたしもどうかしてたわ」
「ルーナさんごめん、おれ達が助けてくる!」
「よーし! じゃあわたし達で作戦会議しよ!」
「お主ら……‼ ありがとう──礼を言う」
迷う事のなかった水月と、心に芯の通ったルーナ。
結果はどうであれ、意思の強い女性はそれだけで美しいのだ。




