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奈落の月  作者: れのぺぱ
第二章 痴情の楽園
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第57話 困った時はてへぺろ☆ですよね②

【主な登場人物】

逢沖あいず 悠斗ゆうと 十七歳

本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡され、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。


七瀬ななせ 水月みずき 十七歳

人工魔眼持ちの少女。〝天理逆行〟を引き起こし、2070年の世界を再構築した。今は悠斗の家に居候中。


九条くじょう 莉奈りな 十七歳

悠斗の幼馴染。お金持ちのお嬢様だが割と庶民派で面倒見のいい性格。〝秘跡の魔眼〟の持ち主。


十文字じゅうもんじ かれん 自称二十歳

戒めの使徒。創世(そうせい)六位〝人間の創造主〟。悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と告げた人物。


きらきら輝夜かぐや 自称十四歳

戒めの使徒。創世一位〝光の創造主〟。恥ずかしがりやだが、戦うと結構強い…??


ルーナ(Luna)クレアーレ(Creare) 自称十九歳

戒めの使徒。創世四位〝天体の創造主〟。ラメドに所属し〝神の兵器〟を欲している。


◆シロマロ 二十二歳

ルーナの子分その一。がたいのいい男。


◆クロマロ 二十二歳

ルーナの子分その二。痩せ気味の男。


イリス(Iris)ベラルディ(Berardi) 五歳

預言の館に訪れた女の子。水月曰く、誘拐されるそうだが……?


◆千里眼 年齢不詳

ラメドに所属する人物。ルーナから危険視されている。

 

 かれん達が〝白の天使 ラピス・アルバ〟に遭遇していた頃、悠斗達はカフェのテラス席で喉を潤していた。誘拐犯がイリスを狙っているなら、人通りが多く開けた場所の方が安全だろうと考慮してのことだ。


 但し、痴情の楽園は時刻に合わせて日没後を再現している。辺りを照らすのはお店の照明や街灯のみ。至る所に暗闇が生じ、そのせいで油断はできない。


「あーあ、こんな事になるなら宿代、ケチったりするんじゃなかったなー」


 節約お嬢様が後悔を口にしながらアイスミルクティーのストローを咥えた。昔からだが、莉奈は財布の紐が固いのだ。


「まぁまぁ、結果的に無事だったし! お金もその分浮いたからいいんじゃない?」


「それはそうだけど」


 ちなみに、この旅の資金は半分以上が莉奈のポケットマネーで(まかな)われている。つまり無一文の水月や、申し訳程度のお金しか用意できなかった悠斗には、『もっといいホテルに泊まろう!』なんて口が裂けても言えるわけがない。


 そして今のやり取りを聞いていたイリスだが、どういう訳か水月をまじまじとを見つめて何か言いたそうにしている。


「どうしたの? イリス……?」


 視線に気付いた水月が首を(かし)げた。


「へんたいおねえちゃん、さっきとなんかちがう……‼」


 そういう事か、と悠斗はイリスの意図を察したが、水月の方はまだ気づいていないらしい。


 今の水月は妖しいローブもとんがり帽子も身に着けず、口調もいつも通りだ。つまり、イリスにとっての変態要素がなくなっている。


 仕方なく水月の耳元で「妖しい装備セット」と悠斗が耳打ちして助け舟を出す。


「あ──」


 一瞬固まると、目の前に再び〝預言者☆水月〟が降臨した。


「ふっふっふっ……よくぞ気づきましたね、イリス。そう──預言者とは世間を欺く仮の姿! そして──こっちのわたしこそが、本当のわたしなのです‼」


(本当のわたし普通か! 欺く必要どこにもないし!)


「そうだったんだ! ……そうなの? ……そうかも」


(ほら、イリスもなんか無理やり納得してる感が)


「故に、わたしは変態じゃないんだよ?」


「さらっと汚名挽回してきたな」


 一方──莉奈は何も言わず、横を向いて必死に笑いを堪えているようだ。幼馴染としての勘だが、莉奈も頭の中で悠斗と同じツッコミをしていた気がしてならない。


「さてイリス、本当のわたしは変態じゃないけど、預言の力は本物なの。だから、今からいう事をよ~く聞くんだよ?」


「わかった」


 カフェ自慢のケーキを頬張りながらイリスが頷く。


「預言の館でわたしが言ったこと憶えてる? 『とてつもないオーラを感じますねぇ』ってやつ」


「えっとね……おぼえてない」


「ありゃりゃ、まぁ……憶えてなくても大丈夫! そのオーラを視て判ったの。イリスは将来、偉大な人になります!」


「いだいって?」


「え? あー、それはね……超超超~すっごい人のことかな!」


「ほんと⁉ イリス、ちょうちょうちょうすごいの⁉」


「それはもう! だからね、わたし達で、イリスをおうちまで送ることにしたの」


 騙すようで心苦しいがイリスの為だ。これで誘拐される未来を回避できるといいのだが。


「……イリス、かえりたくない」


「あれ……?」


 雲行きが怪しくなってきた。帰りたくないなんてセリフ、大人の女性が言えばアレな意味に聞こえかねない。


 椅子から腰を上げた莉奈がイリスの横でしゃがみ、俯いたその顔を覗き込む。


「おうちで何かあったの?」


「……にいにがかえってこないの」


「にいにって、イリスのお兄さん?」


「うん、いんぼうをあばくっていってた」


「陰謀?」


「あしたイリスのたんじょうびなのに、ずっとかえってこないし……だから、みつかるまでかえらない」


 つまり天理逆行前の世界で──イリスはお兄さんを探しに出かけて誘拐され、そのまま行方不明になってしまったわけだ。


「お兄さんはいつ出ていったんだ?」


「けっこうまえ、にかげつぐらいまえだとおもう」


 約二ヵ月ものあいだ音信不通となれば、事件に巻き込まれている可能性もありうる。お兄さんの事について、水月が何か知っていたりしないだろうか。


「水月──」


 悠斗が目配せすると、水月は目を伏せて首を横に振った。


「ねぇイリス、お兄さんのことが心配なのは分かるけど、一回おうちに帰ろ? イリスまで帰ってこなかったら……きっと今頃、お父さんとお母さん心配してるよ?」


「やだ、ぜったいかえらないもん」


 水月が再び説得を試みるも、イリスは頑なに拒み続ける。だからといって無理に連れて帰ろうものなら、それこそ誘拐のように見えかねない。


 すると、莉奈が「ふう──」と息をつき、何かを決断したような面持ちで立ち上がった。


「しょうがないなー、こんな時こそ! あたしがお嬢様らしく力を発揮しないとね!」


 それを聞いて、イリスがポカンとしながら莉奈を見上げた。


「イリス、お兄さんを探すの、あたしが手伝ってあげる!」


「ほんとに⁉」


「まっかせなさい! 九条家のアレを使えばあっという間なんだから!」




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