第50話 お誕生日なので扉ブチ破りますね①
【主な登場人物】
◆逢沖 悠斗 十七歳
本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡され、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。
◆七瀬 水月 十七歳
人工魔眼持ちの少女。〝天理逆行〟を引き起こし、2070年の世界を再構築した。今は悠斗の家に居候中。
◆九条 莉奈 十七歳
悠斗の幼馴染。お金持ちのお嬢様だが割と庶民派で面倒見のいい性格。〝秘跡の魔眼〟の持ち主。
◆十文字 かれん 自称二十歳
戒めの使徒。創世六位〝人間の創造主〟。悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と告げた人物。
◆煌々 輝夜 自称十四歳
戒めの使徒。創世一位〝光の創造主〟。恥ずかしがりやだが、戦うと結構強い…??
◆ルーナ・クレアーレ 自称十九歳
戒めの使徒。創世四位〝天体の創造主〟。ラメドに所属し〝神の兵器〟を欲している。
◆シロマロ 二十二歳
ルーナの子分その一。がたいのいい男。
◆クロマロ 二十二歳
ルーナの子分その二。痩せ気味の男。
◆イリス・ベラルディ 五歳
預言の館に訪れた女の子。水月曰く、誘拐されるそうだが……?
◆千里眼 年齢不詳
ラメドに所属する人物。ルーナから危険視されている。
ドアの向こう側に今、誘拐犯がいるかもしれない。
部屋の空気が一瞬で張り詰めるのを感じた。
悠斗は息を殺し、身振りだけで後ろの二人に合図を送る。
その意図を読み取った二人が、イリスの手を引いて部屋の奥に身を潜めた。
「はい」
悠斗が苛立たしげな声音で返事をする。
少しでも威嚇になればという思惑だったが、あまり期待はしない方がいいだろう。
「ルームサービスです」
人のよさそうな男の声がした。しかしそんなもの、呼んだ覚えはない。
余りにもありふれていて、使い古された受け答え。
ドアの覗き穴から確認できるのは相手の髪だけだ。
悠斗はチェーンロックに手を伸ばし、音を立てないよう慎重にそれを取り付けた。
「お届け物がございます」
どうにかしてドアを開けさせたいらしい。
悠斗達の勘違い、という線もまだ捨てきれないのだが。
「ドアの前に置いてもらえれば、後で受け取ります。今は少し立て込んでいるので」
「それが……ご依頼主からは必ず手渡しするようにと言付かっておりまして……」
来訪者の声は少し困惑気味だ。
(それが事実なら、可能性があるのはかれんさんか? でも……動けるようになっていたとして、こんな回りくどい事する理由なんて……)
考えていても答えは見つからない。
悠斗が後ろに視線を向けると、水月と莉奈がゆっくり頷いた。
チェーンロックがしっかり掛かっていることを確認する。
ドアノブを握った手に力を入れて、ほんの数センチだけドアを開けた──その刹那。
──ドンッ‼
それはまるで、ホラー映画のように。
隙間から突然現れた手がドアを掴み、チェーンを壊す勢いでドアを引いた。
「手間かけさせやがって……‼」
悠斗がどれだけ力を入れてもドアは閉まらない。
「くっそ! やっぱハズレかよぉぉおお‼」
部屋の奥からイリスの声が聞こえる。
「へんたいにいにどおしたの? こまってる?」
「えっと……これはアレなの! イリスのお誕生日が楽しみ過ぎて、一日早く来ちゃった人を追い返してるの!」
「イリスだいにんき!」
未だに変態扱いだが、『にいに』が付いただけマシというものだ。
「おい急げ! ブチ破るぞ!」
誘拐犯(仮)はもう一人いるらしい。
「大人気だね! 扉ブチ破ってまでお祝いしたいんだってー」
(水月の話に合わせるならアレだ、おれ今イリスのガチファンと戦ってるフリを……って、んな余裕全然ねぇ!)
「よし、ブチ切れ」
「へ?」
ドアの隙間から大型の工具が見え隠れしている。
「やばいやばい! チェーン切る気か⁉」
これはもう完全にどうかしている。
誘拐犯(仮)だろうが何だろうが、こちらから仕掛けて皆を守らなければ。
「……動け、永久魔導機関」
その言葉を、悠斗は呟くように口にした。
呼吸を整え、姿の見えない敵を睨みつける。
「いい加減にしやがれェええええ‼」
手加減はしない。
悠斗の体当たりでブチ破られたドアが、男二人を巻き込んで吹き飛んだ。
「みんな今のうちに!」
「やるじゃん悠斗!」
「ユートかっこい~」
「どへんたい!」
通りざまに褒められて満更でもない悠斗。もちろん、最後のやつも褒め言葉だ。
まぁ、将来イリスが使い方を間違えないようにだけ教えておくとしよう。
この場を抜けた皆が非常階段の方へと走っていく。
それを確認した悠斗が誘拐犯(仮)に注意を戻した。一人はドアの下敷きになって気を失っているようだが、もう一人はふらつきながらも意識がある。
悠斗がその男の胸ぐらを掴んだ。
「お前ら何が目的だ?」
「てめぇ今何しやがった……」
「質問に答えろ!」
「大人をナメんじゃねぇクソガキが‼」
頭に血が上った男の頭突きが悠斗の額に直撃した。
額から流れるこの血は────
「……ナメてるのはそっちだろ?」
「……なん、で……」
己の頭突きに耐えられなかった男が通路に倒れ込んだ。
「おれの仲間に手ェ出したら‼ お前ら全員ぶっ飛ばす‼」