第4話 誰か知らないけど裁いときますね①
【登場人物紹介】
◆逢沖 悠斗 17歳
本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡されたところから、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。妄想力には自信がある。
◆七瀬 水月 17歳
素性不明の少女。公園で一人泣いていたところを悠斗に助けられた。
◆九条 莉奈 17歳
悠斗の幼馴染。大企業社長の娘でお金持ちのお嬢様だが飾る事がなく、割と庶民派。
◆十文字 かれん
???
「えーと……二人とも知り合い?」
悠斗が首を動かして水月とヤブ医者を何度も交互に見た。
「私は十文字かれん。眼科でヤブ医者をしているお姉さんだ」
かれんはわざとらしくそう言って、悠斗にジト目を向けた。
「ところで、全員あの黒いのが見えたのか?」
そう訊きながら、かれんが莉奈に近づいて顔を覗き込んだ。
「君、名前は?」
「九条……莉奈です。あたしたち全員あれが見えましたけど……」
「そうか、なら丁度いい。まずは水月、君が置かれている状況を教えてあげよう。この坂を上った先に私の屋敷があるからついてきなさい」
悠斗達は言われるままにかれんの後を追った。
莉奈の家に続く坂道の途中、木々に囲まれた細い石畳の脇道を通ると、大きな平屋で和風のお屋敷が見えてきた。
まるで江戸時代の頃からそこにあるような威厳のある佇まいをしている。
中に上がると外観通り、扉は全て横開きの障子や襖で、襖には日本の古典的な作風で様々な花や鳥が描かれていた。電気が通っていないのか、照明は行灯による僅かな灯りだけだったが、不思議と安心感がある。
かれんは皆を畳の敷かれた部屋に案内し、四人分の座布団を敷くと行儀よく正座した。
つられて悠斗達もかれんの向かいに並んで正座する。
「さて、渋ってもしょうがないから始めようか」
一呼吸置いて、かれんが話し始めた。
「今が二一〇〇年だと言ったら、信じられるかな?」
「いや……さすがに信じられないだろ……」
悠斗と莉奈は顔を見合わせたが、水月は少し違った。
「わたし、さっき悠斗に訊いたの。『今何年?』って……そしたら二〇七〇年だって。だからわたしは――過去にタイムトラベルしたのかと思ってた。わたしは二一〇〇年の高校生、七瀬水月だから」
思わぬ告白に悠斗と莉奈は言葉を失った。
水月が話を続ける。
「でも目の前に記憶のままのかれんさんが現れて、今が二一〇〇年ってどういう事なの? わたし……過去に来たわけじゃないの⁉」
混乱する水月をなだめる様に、かれんがゆっくりと言葉を返す。
「すまないね、混乱させてしまった。タイムトラベルではないんだよ……それは絶対に実現しない。何故ならタイムトラベルを時間で捉えているから」
「時間……?」
悠斗が身を乗り出して耳を傾けた。
「過去から現在、未来へと流れているのは〝時間〟ではなく〝物質の動き〟なんだ。時間というのは〝いつ〟を表す指標でしかないんだよ」
そこでかれんは言葉を止め、皆の理解が追いつくのを待った。
「万物は常に変化し続け未来へ進む──それは絶対であり、天が定めた理に等しい。今この世界で起きている現象に名を付けるなら、〝天理逆行〟とでもいうべきか。物質的に世界が辿ってきた道を、粒子レベルで逆に辿らせる事で〝いつ〟の意味での二一〇〇年のまま、物質的な二〇七〇年の世界が〝再構築〟されたんだ」
「世界が再構築……?」
莉奈も必死に理解しようとしているようだ。
「結果だけ見れば、皆のイメージするタイムトラベルのようだが、全くの別物だよ。すなわち〝いつ〟の意味で二〇七〇年に生まれていなかった生命は、世界の物質的な再構築に必要な粒子となって消え、〝いつ〟の二一〇〇年で既に死んでいる生命は蘇る。死んでいない者は若返る事になるね」
「じゃあ……わたしとかれんさんは何でそのままの姿なの? どうして天理逆行なんて事になってるの?」
水月が当然の疑問を口にした。
「悠斗と莉奈はまだ聞いていないだろうが……水月は人工魔眼の持ち主なんだ。この子はは事故で両目を失明していてね、私が魔眼の移植手術をしたんだよ」
「人工魔眼って、二一〇〇年にはそんなのがあるのか……」
「どうして〝天理逆行〟が起きたのかは――水月、天に現れた、あの光景を覚えているかな?」
「まさかあれって……夢じゃなかったの……?」
「そう、あれは現実に起きた事だ。その灼熱の大地によって世界が滅びそうになった時、君が無意識に魔眼を使って〝天理逆行〟を引き起こしたんだよ」
「わたしが⁉」
「再構築されたのは三〇年前の世界だ。水月の体も世界再構築に必要な粒子となって消えている。しかし魔眼は持ち主が消えてしまわないよう〝魔力子〟でできた体を与えた」
「〝まりょくし〟って……もうあたし話に付いていけなくなってきたんだけど……」
莉奈はもう半ば理解するのを諦めかけていた。
「今は、そういうものがある、とだけ思ってくれればいい。その〝魔力子〟はね、観測装置である魔眼を通してしか視えないんだよ」
「そっか……‼ だからわたし、存在してないみたいに誰にも相手にされなかったんだ……」
「ちょっと待って、じゃあ水月が見えるおれ達って……⁉」
「天然の魔眼持ちだね。私のはちょっと違うんだが……悠斗にはそう言っただろう?『魔眼覚醒しそうだ』って。莉奈にも見えるのは予想外だったが」
「ヤブ医者じゃなかったのか……」
「診察中、悠斗は私の体に夢中だったからねぇ……実にからかい甲斐があったよ?」
ヤブ医者呼ばわりされた仕返しのつもりなのか、かれんが少し意地悪な笑みを見せた。
「悠斗ぉ~‼」
そして莉奈と水月からも痛い視線を向けられる。
「ところでこの〝天理逆行〟、悠斗には思い当たる事があるんじゃないかな?」
話を戻してかれんが訊いた。
「ああ……おれが思い付きで書き始めた論文の内容と同じだ」
「そう、君はその論文を後に正式発表し、その数年後に人工魔眼の開発に成功した」
「おれが……?」
悠斗が信じられないといった風に驚いていると、水月が会話を引き継いだ。
「わたしね、その論文読んでみたの。魔眼を開発してもう一度わたしに視力をくれた人が書いたものだったから。題名は『時間で捉えるタイムトラベルからの脱却』、著者は『逢沖悠斗』だった」
「水月がその論文を読んでいたから――あの時、無意識に〝天理逆行〟を引き起こしたんだろう。君達は世界を一度救ったんだ……誇っていい。私にはどうにもできなかった」
そう言われても悠斗には未だ実感が湧かない。
「ただ、あれは……」
かれんが言葉を濁して考え込む。
「あの灼熱の大地からは〝魔力子〟の痕跡があった。つまり人為的に引き起こされた天災だったんだよ。なら同じ事がまた起きるかもしれない」
「そんな……またあんなのが起きるの⁉」
「分からないが……今日はここまでにしよう。〝魔力子〟の事や私が何者なのかは次の機会に話す。気持ちが落ち着いたらまたおいで」
悠斗達は正座したまま黙って頭を整理する。
かれんが「お茶だけでもご馳走しようか」と部屋を後にした。
第4話まで読んで頂き、本当にありがとうございます!
この第4話、理解しづらい内容が多くなってしまいましたが、次回からはシリアス時々コメディだったり、コメディ多めだったりで進んでゆきます。
もしこれからも読んで頂けたら、とても嬉しいです。
改めて、ありがとうございました!