第43話 ピッチピチのスベッスベなんだからね③
【主な登場人物】
◆逢沖 悠斗 十七歳
本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡され、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。
◆七瀬 水月 十七歳
人工魔眼持ちの少女。〝天理逆行〟を引き起こし、2070年の世界を再構築した。今は悠斗の家に居候中。
◆九条 莉奈 十七歳
悠斗の幼馴染。お金持ちのお嬢様だが割と庶民派で面倒見のいい性格。〝秘跡の魔眼〟の持ち主。
◆十文字 かれん 自称二十歳
戒めの使徒。創世六位〝人間の創造主〟。悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と告げた人物。
◆煌々 輝夜 自称十四歳
戒めの使徒。創世一位〝光の創造主〟。恥ずかしがりやだが、戦うと結構強い…??
◆ルーナ・クレアーレ 創世四位〝天体の創造主〟
〝神の兵器〟を欲しているようだが、その目的は一体……?
◆シロマロ 二十二歳
ルーナの子分その一。がたいのいい男。
◆クロマロ 二十二歳
ルーナの子分その二。痩せ気味の男。
◆千里眼 年齢不詳
ラメドに所属する人物。ルーナから危険視されている。
千里眼から見逃してもらう為に十億──
「……いやいやフードのおっさん、高校生の懐事情なめるなよ? こっちはラノベ買ったらメシ抜きになる覚悟で生きてるんですけど⁉ そもそも捕まらずに逃げればいいだけの話だし」
あまりの金額に現実味を感じられないせいか、悠斗には相手を煽る余裕がまだ残っていた。しかし千里眼は至って本気のようで、表情は見えなくとも苛立っているのが伝わってくる。
「お前は逃げない」
「……何でだよ」
「お前は仲間を見殺しにできない。そして俺は〝千里眼〟だ」
千里眼の──他人の事であっても完全に言い切ってしまうその言いぐさに、悠斗はどういう訳か強制力を感じ始めていた。
確かに元から逃げる選択肢はなかったのかもしれない。それでも他人から逃げ道を塞がれるというのは、中々精神的に堪えるものがある。
悠斗が言い返せずに黙ってしまったことを『まずい』と感じたのか、すかさず莉奈が話の間を繋いだ。
「ねぇちょっと待って、それって悠斗の魔眼に十億の価値があるってこと?」
「違う。俺の機嫌をとるのに必要な金──それが十億だ」
「あんたねぇ……‼ まぁいいわ、とりあえず今はそういう事にしておきましょう」
そう言いつつも、莉奈は言葉の真意を測ろうとして疑いの目を向けているようだった。
「早く決めろ、逢沖悠斗。只の二択だ」
「ユート! こんなの相手にしちゃダメだよ⁉ 早く助けに行かなきゃ……!」
「──ああ、そうだな……」
水月の声によって停止していた悠斗の思考が再び動き出した。千里眼を警戒しつつ一歩踏み出そうとしたその時────
「オウオウ千里眼よォ! 俺達を無視すんじゃねぇぞバカヤロウ!」
「ギャハハハ! そのフードひっぺがして裸エプロンにしてやらァ!」
今度は自分たちの番だと言わんばかりにシロマロとクロマロが騒ぎ始めた。
「ねぇ、あそこに捕まってる金髪の人が……あんた達の言うルーナ様なの?」
「おうよ! ルーナ様を解放しやがれぃバカヤロウ!」
「このエプロン着てみてぇかァ⁉ アアァん⁉」
クロマロはどうしても千里眼を裸エプロン姿にしたいらしい。
「ダメだ。あいつはおそらく裏切っている」
「ギャハハハ! ルーナ様が裏切るワケねぇんだよォ!」
「拷問すればいずれ分かるだろう」
「オウオウオウオウちょいちょいちょいちょい、てめぇ本気で言ってやがるのかァ⁉」
シロマロが千里眼の胸ぐらに掴みかかった。
「お前達は弱い。それが原因だ」
「あァ⁉」
「〝守護天使〟を相手に何を遊んでいる? ルーナを解放したければアレを倒せ」
「ギャハハハハ! 何言ってやがるてめェ、あんなもん人間が適うワケねぇぞ⁉」
「知っている。バカは名前だけにしろ……お前達に元々期待などしていない」
それを聞いて、シロマロが胸ぐらを掴んでいる手を離した。
「────オウオウクロマロ……バカな俺達ならどんだけ嗤いやがってもしょうがねぇけどよォ……‼」
「ギャハハハ! わかってらぁシロマロ……ルーナ様がくれた名前を嗤いやがる奴ァ……」
「「許すワケにいかねェよなァ‼」」
ものすごい剣幕で叫ぶと、二人は柵と逆方向へ一目散に走り出した。
「お主ら落ち着くのじゃ‼ 挑発に乗るでない‼ ──死んでしまうぞ‼」
ルーナが必死に呼び掛けるが、振り返ることなく走り去っていく。
その背中を見つめる悠斗が拳を握りしめた。
「なぁおっさん……もしかしてハナから解放する気なんてないんだろ?」
「当然だ。俺に得のない事はしない」
「……分かった、じゃあ金は用意する」
「そうしろ。やはり自分の身がかわいいか」
「違う、おれは見逃さなくていい。金も用意する。だから代わりに全員解放しろ」
「お前に何の得がある? 何か企んでいるなら止めておけ」
「得することならあるだろ……‼」
「何だ」
悠斗が千里眼を睨みつけた。
「この手でお前を‼ ぶっ飛ばせる‼」