第39話 お嬢様だからってナメないでよね②
【主な登場人物】
◆逢沖 悠斗 十七歳
本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡され、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。
◆七瀬 水月 十七歳
人工魔眼持ちの少女。〝天理逆行〟を引き起こし、2070年の世界を再構築した。今は悠斗の家に居候中。
◆九条 莉奈 十七歳
悠斗の幼馴染。お金持ちのお嬢様だが割と庶民派で面倒見のいい性格。〝秘跡の魔眼〟の持ち主。
◆十文字 かれん 自称二十歳
戒めの使徒。創世六位〝人間の創造主〟。悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と告げた人物。
◆煌々 輝夜 自称十四歳
戒めの使徒。創世一位〝光の創造主〟。恥ずかしがりやだが、戦うと結構強い…??
◆ルーナ・クレアーレ 創世四位〝天体の創造主〟
〝神の兵器〟を欲しているようだが、その目的は一体……?
◆シロマロ 二十二歳
ルーナの子分その一。がたいのいい男。
◆クロマロ 二十二歳
ルーナの子分その二。痩せ気味の男。
「ギャハハハ! シロマロ聞いたかァ⁉ 魔眼だってよぉ‼」
「兄ちゃんオマエ……社会的にイタい奴だったのか……」
「ちょ、お前にだけは言われたくないんだけど⁉」
ガチでヘコみそうになるのを何とか堪え、悠斗は目を閉じて妄想に全力を注いだ。
(あの時を思い出せ……今のおれなら絶対にできる!)
想い描いた妄想を現実にすべく、意識を極限まで研ぎ澄ます。
想像力の全てを注いだ妄想──それは細部まで鮮明に造り込まれ、悠斗の脳裏へと焼き付けられた。
「妄想よ──現実となれぃ‼」
語尾にシロマロの影響を残したまま悠斗がカッと目を見開いた。
果たして妄想は現実となるか。
その瞳に映ったのは一糸纏わぬ──
シロマロとクロマロだった。
「オェっ吐きそう……」
「ユート……‼ あれだけ期待させといてコレなの……⁉」
「あんのバカ悠斗ぉ~‼ 全裸の変態追いかけるあたしの身にもなれってのよ‼」
軽蔑の視線を向けられはしたが、この状況を打開できるならそれでいい──そう納得しようとしたものの、すぐに悠斗は世界の広さを思い知る事になる。
「ヒャッホォォォォウ‼ よく分からねェが身も心も軽くなった気がしやがるゥ!」
「ギャハハハハ! 体中で風を感じるゼ! 俺たち風になってらァ!」
「そんなバカな……なんて気持ちよさそうに走るんだよコイツら……‼」
「ユート! 感心してる場合じゃ……コイツら気付いてないだけじゃないの⁉」
当然だが、全力全裸変態疾走男の出現に周囲は大騒ぎしている。
「いい加減止まってよバカー‼ 服着てないんだってば‼」
人々の視線に耐えられなくなったようで、水月がクロマロをポカポカ叩き始めた。
「服だァ?」
ようやく水月の声が届き、クロマロが視線を下へ向けた。
「──‼ ヤベェぞシロマロ! 俺たち服着てくんの忘れてるぜェ‼」
「なにィ⁉ そういや今日……あー、服着た記憶ねェな」
勘違いの仕方があまりにも気の毒だが致し方ない。これでようやくアレを隠す為に手を離すはずだ。
「……」
「……」
「──隠せよッ‼」
気付いた上で走り続けられては、もはや手の打ちようがない。
「オウオウ兄ちゃんよォ! 見られて困るモンなんざ何もねェぞバカヤロウ!」
「お前らが困らなくても見た方が困るんだよ!」
「ギャハハハハ! 知らねのかァ⁉ こういうのは太陽の光で都合よく隠れるもんなんだゼぇ⁉」
「ここ地下だからな⁉」
「早く隠してってばーっ‼ 葉っぱ! 葉っぱとかでいいから!」
「オウオウねーちゃん! 葉っぱごときで隠せる俺じゃねェぞ⁉」
葉っぱでは変態感が拭えない気もするが、この際隠せるなら何でもいいだろうと悠斗はツッコミを堪える。
「水月任せろ! もう一度こいつらに服を着せる!」
「できるの⁉」
悠斗が目を閉じて再び妄想を始める。
(早くしないとこっちの心にダメージが……‼ 布一枚とか、何か簡単でいいから前だけでも隠せば……)
「よし──これだ‼」
ほんの数秒だけの妄想で再び瞼を開けた。
「ァア? この布どっから飛んできやがったんだバカヤロウ!」
シロマロの声を聴いて悠斗は成功を確信する──しかしそれは致命傷と引き換えの成功だったようだ。
「ギャハハハハ! これァ男の憧れ──裸エプロンじゃねえか‼」
フリフリのフリルが付いた、か・わ・い・い・エプロン姿の二人を見て、悠斗は心に深いキズを負った。
「ぐぉっほァ‼ おれは何てことを……」
「ユートこんな趣味してたんだ……」
「あんのバカ悠斗……‼ 後で絶っ対しばいてやるんだから‼」
人混みを避けながらではあったが、莉奈はもう数メートルのところまで追いついている。
しかし油断はできない。
「見えたぜシロマロ! 早いとこ乗り込んでルーナ様にお届けだァ‼」
「おうよ! ルーナ様大喜びしやがるぜェ‼」
「アイツらルーナって言った⁉ どういう事なの……⁉」
エレベーターの扉は既に開いている。このまま逃げ切られてしまうのではと悠斗が危惧し始めた時、莉奈が突然走るのをやめてロザリオを取り出した。
「人もいなくなってきたしいいよね……」
手繰ったロザリオを胸に当て、天に向けてまっすぐ右手をかざす。
「いい加減止まりなさいよ! 無原罪懐胎・黒戒──」
呪文に応えて顕現したのは数十本にも及ぶ漆黒の槍。それがエレベーター前の上空で矛先を下に向けた。
「神殺槍・インベル‼」
「「ギャアああああああああ‼」」
莉奈が右手を振り下ろすと同時に〝神殺槍〟が地面へと降り注ぎ、シロマロとクロマロは目が飛び出る程の叫び声を上げた。
「クロちゃん諦めちゃダメ! ストップストップ!」
「シロ止まれええええ! お前ならできる!」
そして、何故か一体感を醸し出す悠斗と水月に応援されながら、二人は素足でブレーキをかけた。




