第3話 魔眼覚醒しそうなんで目薬出しときますね③
悠斗の家から十分ほど歩くと、山の高台にある高級住宅地へ続く坂道に差し掛かる。
その坂を上った見晴らしのいい土地に建っているのが莉奈の家だ。
時刻はすでに夜の八時を過ぎ、都市部から離れた場所のせいか、歩いているのは悠斗達だけだった。
デザインされた街灯は存在する意味を無くしたかのように弱々しく道を照らしている。
その坂の左右は深い森になっていて薄気味悪く、この時間に莉奈一人で歩かせるわけにはいかない場所だった。
「相変わらずなんか出そうなとこだよな……」
「ちょっと、変な事言わないでよ……!」
無意識に発した言葉で莉奈を怖がらせてしまった。
いつの間にか悠斗はピッタリくっついてくる女子二人に挟まれている。
その状況に少し照れているのを悟られないよう、悠斗は胸を張って歩いた。
しばらくすると、不意に水月が姿勢をかがめながら前方を指差した。
「――ねえ、あそこ……何かいない?」
言われて目を凝らしてみる。
約三十メートル前方、そこには確かに何かがいた。
輪郭のはっきりしない、黒くモヤモヤしたものが街灯の下で浮遊している。
そのモヤモヤは二メートルぐらいの縦長で、下に向かうにつれて細くなっており、二つの白い小さな丸が目のように付いていた。
更に異質なのはその黒さだ。
通常、人間が認識する黒というのは光を反射して必ず白みがかっている。しかしそのモヤモヤした黒は、街灯の下であっても全く白みのない、空間に穴が空いたような得体の知れない完全な黒だった。
悠斗の腕をつかむ二人の手が震えている。
それ以上進めずに立ち止まっていると、煮えを切らしたように黒いモヤモヤが動き出した。音もなく、這いよるように近づいてくる。
「二人とも後ろに走って!」
それが何かは分からないが、危険を直感して悠斗が叫んだ。
しかし二人は掴んでいる腕を離さない。
「ユートは⁉」
「悠斗も早く‼」
「おれは……あれをここで止める――‼」
「そんなのできるか分からないでしょ⁉」
黒いモヤモヤが近づくにつれ、空気が重くなり息苦しくなっていく。
(まずい、このままじゃ後ろの二人が……おれは選択を間違えた? 一緒に逃げるべきだったのか⁉)
目前までそれが迫って思わず目を閉じる直前、急に人影が間に割り込んできた。
「一閃」
声が聞こえて目を開けると、黒いモヤモヤが上下に分断されて目の前で霧散していった。
そして突然現れた人影に目を向ける。
(刀で斬った⁉ それにこの後ろ姿、おれは見覚えがある……)
刀は金色の粒子となって消え、その人影が振り向いた。
「なぜ逃げなかったんだ? 私が来なければどうなっていたか」
間違いない──悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡した人物。
「ヤブ医者の先生⁉」
「失礼な。私の診断は正しかったよ」
おかしい。同じ人物なのに、まるで雰囲気が違う。
眼科では頭にお花が咲いているようなぽわ~っとした人柄だったのに、今は目つきが鋭く、声のトーンを落として真面目な口調で話し掛けてくる。
そしてもう一人、驚きを隠せないでいる者がいた。
「かれんさん――」
「久しぶりだね、水月ちゃん?」




