第32話 旅立ちはいつも突然ですよね①
【主な登場人物】
◆逢沖 悠斗 十七歳
本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡され、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。
◆七瀬 水月 十七歳
人工魔眼持ちの少女。〝天理逆行〟を引き起こし、2070年の世界を再構築した。今は悠斗の家に居候中。
◆九条 莉奈 十七歳
悠斗の幼馴染。お金持ちのお嬢様だが割と庶民派で面倒見のいい性格。〝秘跡の魔眼〟の持ち主。
◆十文字 かれん 自称二十歳
戒めの使徒。創世六位〝人間の創造主〟。悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と告げた人物。
◆煌々 輝夜 自称十四歳
戒めの使徒。創世一位〝光の創造主〟。恥ずかしがりやだが、戦うと結構強い…??
◆アルミラージ 自称十五歳
戒めの使徒。創世五位〝動物の創造主〟。しゃべる珍獣ウサギでとにかくエロい。通称あーちゃん。
◆九条 玲奈 十五歳
莉奈の妹。旅先のドイツから急遽帰国した。
◆セバスチャン 六十歳
九条家の執事。とりあえず強い。
◆ニール・サンクトゥス 目測二十代
戒めの使徒。創世七位〝??の創造主〟。まだ謎が多い。
◆ナムタル
〝冥界クルヌギア〟の首相。
【名前のみ判明している戒めの使徒】
◆レックス・ウォラーレ 創世二位〝空の創造主〟
◆クラルス・マグノリア 創世三位〝自然の創造主〟
◆ルーナ・クレアーレ 創世四位〝天体の創造主〟
「さあ! みんな準備はいいかな⁉」
「おう! いつでも行けるぜ!」
かれんの問いかけに悠斗が力強く答えた。
ここは空港のロビー。
前回かれんの屋敷に集まってからまだ三日しか経っていないが、悠斗達はこれからグラヴィクスを探す旅に出るところだ。かれんが悠斗に忘れ物がないか確認する。
「お財布は持った?」
「持った」
「おやつは?」
「持った」
「エッチなビデオは?」
「持った」
「悠斗、それは引く……」
莉奈にドン引きされた。
「いや、持ってないからね⁉ なんか流れで……‼」
そんないつも通りのアホなやり取りを、寂しそうに見つめる者がいた。
「──ホントにもう行っちゃうの?」
玲奈がうつむきながら口を尖らせている。その斜め後ろにはセバスチャンも控えていた。ほんの数分前まで、玲奈が自分も行くのだと、どれだけ止めても聞かなかったのだ。
「玲奈、そろそろ聞き分けたら? もたもたしてる内に世界滅んだらシャレにならないでしょ?」
妹をなだめようとする莉奈に続いて、かれんも申し訳なさそうに言葉をかける。
「ごめんね玲奈ちゃん……とっても危険だから、魔眼を持たない子を連れていくわけにいかないの」
「じゃあセバスチャンだけでも──‼ すごく強いし……ねぇセバスチャン! 冒険するチャンスなんだよ⁉」
「ありがとうございます、玲奈様。ですがわたくしは九条家の執事です。旦那様から受けたご恩は一生かけてもお返しできるものではごさまいません」
「でも……‼」
「わたくしの人生は、幼い頃より抑止力に阻まれ続けてきました。ですが結局、最後に執事となる道を選んだのは他でもない私自身なのです。自らその道を外れることなど、できないのですよ」
「セバスチャン……」
「そんなに落ち込まないで、玲奈ちゃん! 誰にだって役割はあるから! しっかり周りを見ておかないとぉ、自分の出番に気づけないぞ~?」
ニコッと微笑んだかれんが、人差し指で玲奈のおでこを軽く小突いた。
「玲奈ちゃんせっかく仲良ぐなっだのにぃ……元気でねぇ……‼」
水月は涙が零れないよう必死に堪えているようだ。
そして輝夜は久しぶりに人見知りを発揮して、かれんの後ろに隠れていた。
「れ、玲奈……さん、かぐや達、が、がんばってくるから……ね」
「大丈夫だ玲奈、ちゃちゃっと世界救って帰ってくるから!」
「そうそう! アンタは安心して、自分の将来を心配してればいいの!」
皆に元気づけられて玲奈は見送りを済ませたが、やはり最後までその表情は曇ったままだった。
◇
「あたしはともかく! セバスチャンなら絶対大丈夫なのに……」
空港の駐車場まで戻ってきたが、玲奈は未だに納得できずにいる。
「あ、そうだ‼」
「どうされましたか?」
玲奈が突然スマホを取り出した。
「──もしもしパパ? ちょっとこれからセバスチャン連れて冒険行ってくるから! じゃね~!」
『ま』
通話はそこで終了。娘のワガママを聞かされて、『ま』しか言えなかった父親には同情してもいいだろう。
「電源も切っちゃえ」
「玲奈様⁉」
「さ、セバスチャンはこれから、あたしのワガママに付き合わされて冒険に行くんだから、覚悟してよね‼」
「────ホッホッホッホッ仕方ありませんな。このセバスチャン、全力で玲奈様をお守り致します」
「よろしい!」
「フッフッフッフッ」
二人が心を通わせていると、どこからともなく笑い声が聞こえてきた。
「ん? 今何か聞こえた?」
しかし、辺りを見回しても声の主は見当たらない。
「フッフッフッフッ」
また笑い出す怪しい声。少し下から聞こえるようだ。
「フッフッフッフッ」
「あ、これかな……何? この白くてちっこいの」
「おや? 見つかってしまったなら仕方ない。我こそは……」
玲奈がひょいっと白いのを持ち上げた。
「しょうがないから保健所に連れてこうか」
「待って! 待って! まだ死にたくないー‼」
「何なの? この喋る生き物」
「お前達……この姿を見ても驚かないとは中々の大物だな。我こそは戒めの使徒の一人、アルミラージ‼ 人呼んであーちゃん‼ 見事に置いてかれた寂しい白うさぎ……ぐすッ」
「どうやらかれん様のお仲間のようですね」
「うん。よく分かんないケド、かわいそうになってきたかも」
かわいそう──と聞いて、すかさずあーちゃんが目を光らせた。
「それじゃあ……その胸に抱かれて癒されてあげますね~っ!」
しかし、じたばたするだけで身動きが取れないあーちゃん。
「見よ! その狭間に程よく収まる我がボディー‼」
あーちゃんを掴む玲奈の手に力が入る。
「サーセン! 調子乗りました!」




