第30話 ちょっとそこまで空飛んできますね②
【主な登場人物】
◆逢沖 悠斗 十七歳
本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡され、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。
◆七瀬 水月 十七歳
人工魔眼持ちの少女。〝天理逆行〟を引き起こし、2070年の世界を再構築した。今は悠斗の家に居候中。
◆九条 莉奈 十七歳
悠斗の幼馴染。お金持ちのお嬢様だが割と庶民派で面倒見のいい性格。〝秘跡の魔眼〟の持ち主。
◆十文字 かれん 自称二十歳
戒めの使徒。創世六位〝人間の創造主〟。悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と告げた人物。
◆煌々 輝夜 自称十四歳
戒めの使徒。創世一位〝光の創造主〟。恥ずかしがりやだが、戦うと結構強い…??
◆アルミラージ 自称十五歳
戒めの使徒。創世五位〝動物の創造主〟。しゃべる珍獣ウサギでとにかくエロい。通称あーちゃん。
◆九条 玲奈 十五歳
莉奈の妹。旅先のドイツから急遽帰国した。
◆セバスチャン 六十歳
九条家の執事。とりあえず強い。
◆ニール・サンクトゥス 目測二十代
戒めの使徒。創世七位〝??の創造主〟。まだ謎が多い。
◆ナムタル
〝冥界クルヌギア〟の首相。
かれんの屋敷へ続く脇道にさしかかったところで悠斗達が車を降りる。
玲奈は一緒に降りたそうにしていたが、やはり疲れが溜まっていたようでそのまま大人しく家路に着いた。
かれんからは『鍵開けとくから勝手に上がっておいで~』と言われていたが、言葉通りズカズカと上がり込むわけにはいかない。ノックするだけで壊れそうな、和風の木製扉を恐る恐る叩き「おじゃましまーす」と、誰もいない廊下に向かって挨拶をする。
すると、足音がパタパタ聞こえてきて輝夜が迎えてくれた。
「みんないらっしゃい! かぐやが案内するね!」
続いて通された部屋では、「やほ~」と手を振ってかれんが待っていた。
「ごめんね~急に呼び出しちゃって」
「どうしたの? かれんさん」
「モタモタしてたら人生も世界も終わっちゃうからね! 今度はこっちから仕掛けようと思って! まあまあ座りたまへ~」
言われるまま全員が座布団に腰をおろす。
「──よし、では始めようか」
急にかれんが戒めの使徒の表情になった。ご丁寧にお茶まで予め用意してあるところからして、それなりに緊急を要する内容のようだ。
「ニール・サンクトゥス──奴がこれからやろうとしている事が判明した以上、私達戒めの使徒はそれを止めに入る」
かれんの瞳には決意の色が浮かんでいた。
「幸いなことにニールはまだ行動を起こしていない。タイミングの問題なのか、何か手順を踏む必要があるのか……それは分からないがね」
悠斗達も次第に事の深刻さを思い出してきた。UNYOなんぞで盛り上がっている場合ではなかったのだ。
「そこで頼みがある──君達の力を貸してほしい」
「そんなの今更訊かなくてもおれ達は……」
「いや、これは危険な旅になる。ニールは強い。私でも手こずったからね。だから改めて確認しておきたいんだよ」
改まってそう尋ねられると、やはりそれなりに考え込むものだ。
それぞれが心に自問する────
本当に立ち向かう覚悟があるのか?
ただ流されているだけではないのか?
恐怖を感じないのか?
この状況から目を背ける事ができるのか──?
「わたしはやる。それにあの人だって……救いを求めてた」
「あたしも同じ。大切な人達の命が懸かってるんだもん。どこまでも足掻いてやろうじゃない」
「おう! 当たり前だ! ニールってヤツも含めて世界中救うに決まってんだろ‼」
何の恥ずかしげもなく、それぞれが決意を口にした。
かれんの顔が少しほころぶ。
「そうだな、ありがとう──」
「では状況を整理しておこうか。まずはニールの目的──地球ごと人類を滅ぼし生きたまま冥界へ向かうこと。だがそれは通過点に過ぎず、その先にある目的はまだ分からない」
「冥界といえば……ナムタルはどうなったんだろうな」
「ふむ、あの男は敵とも味方とも言い切れないからね。まだニールに捕まっているならこちらも動きやすくて都合がいい」
「そうね、あいつ水月を狙ってたし、大人しくしといてもらわなきゃ」
「うん……そうだね──」
水月の言葉は複雑な感情に染まっていた。
「水月、安心していい。君は生きていていいんだよ」
「────ありがとう、かれんさん」
「構わないさ。では次に人類を滅ぼす方法だ。グラヴィクスを使って天から大地を落とし地球ごと破壊する──おそらくこれは惑星同士の衝突とみて間違いないだろう」
「マジか……どんだけでかいスケールの話だよ」
「救い甲斐があるだろう? 以上を踏まえ、私達はこれから早急にグラヴィクスを見つけ出し、破壊しなければならない」