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奈落の月  作者: れのぺぱ
第二章 痴情の楽園
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第29話 ちょっとそこまで空飛んできますね①

【主な登場人物】

逢沖あいず 悠斗ゆうと 十七歳

本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡され、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。


七瀬ななせ 水月みずき 十七歳

人工魔眼持ちの少女。『天理逆行』引き起こし、2070年の世界を再構築した。今は悠斗の家に居候中。


九条くじょう 莉奈りな 十七歳

悠斗の幼馴染。お金持ちのお嬢様だが割と庶民派で面倒見のいい性格。『秘跡の魔眼』の持ち主。


九条くじょう 玲奈れな 十五歳

莉奈の妹。どこかへ旅に出ていたようだ。


◆セバスチャン 六十歳

九条家の執事。とりあえず強い。

 


「で、玲奈(れな)の方は? ドイツで何かあったの?」



 セバスチャンの運転する車内で莉奈(りな)が訊いた。


 実は約一年前より、玲奈はドイツにいる母方の祖父母の元を訪れていた。一年前といえば、玲奈が中学三年生になってまだ間もない頃だ。それがどうしてドイツへ行くことになったのか。


 理由は、特にない。ただ思い立ったから。


 そうだ、ドイツ行こう──と。



 玲奈の凄いところは、コンビニに行くノリでドイツまで一人で行ってしまう行動力と精神力だ。もちろんそれを実行できるのは、九条家の娘として生まれ、金銭面やら人脈やら環境に恵まれているからではある。周りからは嫉妬混じりの陰口を言われたりもする。


 しかし、玲奈にとってそんな声はただの雑音でしかなかった。


 生まれつき環境に恵まれているのなら、それを足掛かりにしてもっともっと色々学び、更に高いところへ辿り着かないでどうする。


 むしろ辿り着かなければならない。


 それが玲奈の考えであり、父の考えでもあった。環境に甘んじて努力を怠っているのなら罵られても当然。でもそうはさせない、と玲奈は心に決めている。


 とはいえ実際のところ、ドイツに行ったから何を得られるとか、そんな事は分からなかった。


 自分の決断が自分の将来をどれだけ苦しめようと、それは自分の責任──父から許可を得る時、そう言われて玲奈はドイツへ旅立った。


 もしかするとこれは、将来になって責任の重みを実感するための旅だったのかもしれない。



「いやー、大した事じゃないんだけど、途中から変なのに絡まれちゃって……」


 それを聞いたセバスチャンがピクッと反応した。運転中で前を向いているから表情は見えないが、心の中では「何ですと⁉」とか言ってそうだ。


「最初はね、順調にいろいろと観て回ってたんだよ! 歩くしかなくて大変だったけど、自分で進んでるんだーって気がして楽しかったなぁ~」


「歩くしかないって、どうしてだ?」


 その理由は、質問した悠斗(ゆうと)が予想していないものだった。


「え? だって、旅費は全部親のお金だし、節約できるところは節約しなきゃ。あたし飛行機降りてからは向こうで交通機関使ってないよ?」


「マジで⁉ お前偉いのな」


「メロメロになった?」


「それはない」


「ちぇー、まあそんな感じでドイツを満喫してたの。だけどベルリンに行った時にね、見ちゃったんだ」


 話を聴いている全員が、何を?と訊くかわりに黙って次の言葉を待った。


「路地裏で殴られてる人がいたの。まだ昼間だっていうのにさ、いかにも悪そうな奴が二人で男の人を囲ってたんだよ⁉」


「アンタまさか……普通ならここは玲奈の心配するとこなんだけど……」


「うん、ぶっ飛ばした」


「玲奈ちゃんカッコイイ!」


「でしょでしょ? そいつら『憶えてろよー‼』って言って逃げちゃった!」


「そのセリフ現実で言うヤツいるんだ⁉」


「ってかそれよそれ! なんでそんな強くなってんの?」


 セバスチャンがまたピクッと反応した。


「セバスチャンが教えてくれたの。ね! 師匠~」


「……はい、玲奈様にもしもの事があってはいけないと思い……」


「まさかアンタもあのトレーニングルーム、見た?」


「見た見た! すっごいよねセバスチャン!」


「セバスチャンて、何かおれ達に甘いよな。秘密の場所なのに」


「あたし達のこと孫みたいに大切に思ってくれてるのよ」


「でもさ、それじゃあ玲奈ちゃんが絡まれたっていうのは……?」


「あ~それね、助けた方」


「「──え?」」



「何か懐かれちゃってさー、それから一ヵ月ぐらいずっと跡つけてくるんだよ?」


「ストーカーじゃん」


「あたしも歩きだから中々振り切れなくてさ、ついに頭きてぶん殴ってやった!」


「まぁ当然ね」


「でもそいつ、まだめげずに追いかけてくるの。そこからは毎日ぶっ飛ばしては追いかけられてを繰り返してた。おかげであたしはもっと強くなったけどね! そいつもどんどん打たれ強くなっちゃったけど」


「もうそれ修行の旅だな」


「ホントだよもー‼ 髪がブロンドのイケメンで見た目は良かったんだけどね~。だから予定繰り上げて帰ってきたってワケ」


「ま、とりあえずアンタが無事に帰ってきて安心したわ」


「そうそう! 最後空港でね、そのブロンドバカにプロポーズされたの!」


 ──セバスチャンの手元が狂って車が大きく揺れた。


「「セバスチャ────ン‼」」





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