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奈落の月  作者: れのぺぱ
第一章 魔眼覚醒
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第20話 ダーリンといえばハニーですよね②

【主な登場人物】

逢沖あいず 悠斗ゆうと 17歳

本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡され、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。


七瀬ななせ 水月みずき 17歳

人工魔眼持ちの少女。無意識に『天理逆行』引き起こし、2070年の世界を再構築した。今は悠斗の家に居候中。


九条くじょう 莉奈りな 17歳

悠斗の幼馴染。お金持ちのお嬢様だが割と庶民派。面倒見がよく悠斗と水月をいつも気にかけている。『秘跡の魔眼』の持ち主。


十文字じゅうもんじ かれん 自称20歳

戒めの使徒。創世(そうせい)六位『人間の創造主』。悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と告げた。立場によって性格を切り替えている。


きらきら輝夜かぐや 自称14歳

戒めの使徒。創世一位『光の創造主』。かれんと一緒に暮らしている。恥ずかしがりやだが戦うと結構強い。


アルミラージ(Almiraj) 自称15歳

戒めの使徒。創世五位『動物の創造主』。通称「あーちゃん」。しゃべる珍獣ウサギ。基本役に立たない。そしてエロい。


◆ナムタル

『冥界クルヌギア』の首相。「世界の在り方」から外れた魂を、在るべく状態へ戻す為に現れた。


ニール(Nil)サンクトゥス(Sanctus) 目測20代

戒めの使徒。創世七位『??の創造主』。まだ謎の多い人物。


【名前のみ判明している戒めの使徒】

レックス(Rex)ウォラーレ(Volare) 創世(そうせい)二位『(そら)の創造主』

クラルス(Carus)マグノリア(Magnolia) 創世三位『自然の創造主』

ルーナ(Luna)クレアーレ(Creare) 創世四位『天体の創造主』

 

「馬鹿な! グラヴィクスが起こした事件はあまりにも悲惨で……事件後すぐに破壊されたはずでは⁉」


 柄にもなく、かれんが驚きを露わにした。


「神の造りし兵器に匹敵する──『破滅を招く人造(じんぞう)神器(じんき)』と謳われ恐れられた科学兵器だ。権力者共が喰い付かないと思うか? 起きた事件が悲惨すぎたからこそ破壊されなかったわけだ」


「戦時下でそれを保有していれば敵国を降伏させるのも容易い、という事か。しかし何故そんな事を知っている?」


「頼まれたんだよ」


「頼まれた?」


「世界を欺いてグラヴィクスを入手したはいいが……それはあの惨劇が再び起きる恐れと常に隣り合わせってことだ。ハハッ! 結局奴らは、グラヴィクスに封印を施そうと僕に声を掛けた」


「科学者だったのか」

「国のトップ数人しか触れないようにしてくれ、なんて頼まれたからさぁ……ガチガチに封印して誰一人触れなくしてやったよ。奴らは怒り狂ったがな。そしてそれが巡って……僕の悲願はついに叶う」




 ニールの話がひと段落すると、かれんはため息をついた。


「まったく、それがどうしてここまで歪んでしまったのか。封印を施した時、お前はまだ狂ってなどいなかったのだろう?」


「おいおい……そんなに狂人扱いするなよ。僕はまだマシな方だ。自覚のない狂気ほど狂ったものはないからな」


「それは同感だがね、お前を止めることに変わりはないよ」


 かれんは右手を前にかざすと、親指と人差し指で何かを挟むように、左から右へゆっくりと指を滑らせていく。するとその指の後を追うように、魔力子(まりょくし)によって刀の刃先が形作られ、美しい日本刀が姿を現した。


 刀を手にしたかれんが戦闘態勢に入る。


 しかしニールは未だに無防備なまま話を続けた。


「なぁ十文字(じゅうもんじ)……僕たち戒めの使徒は殺されれば死ぬと思うか?」


「どういう意味だ?」


「この体は精神体を宿すための入れ物。宿っているものが魂でないなら、体の消失はおそらく死に直結しない」


「そうだな。精神体となった時点で、私達は死に至る(すべ)を失ったのかもしれない」


「──試してみるか」


「やってみろ。だがこっちは水月(みずき)との約束がある。私はお前を殺さない」


 ニールがナイフを抜いてようやく戦意を見せた。


「殺す気で来いよ……‼ その体、失くすぞ」


「心配するな、私は医者だ。半殺しにしてから死なない程度に治してやるよ」




 刹那、二人の殺気が(やいば)を通してぶつかり合った。




 キィン──と響き渡る鋼の音。


 得物を打ち合う度に、お互いの力量や手の内を探っていく。


 刀の間合いを保つ事ができれば有利なのはかれんだが、ニールは体術を組み合わせつつ巧みにかれんの刀を躱す。防御をほとんど無視した立ち回りで、簡単にかれんの懐へと入り込みナイフを脇腹に突き立てようとした。


 ──しかし、それを難なく弾いたかれんは流れるように攻撃へと転じる。


 まるでニールの動きを全て把握しているかのように、かれんの動きに無駄はなく、冷静に最小限の手数でニールを追い詰めていく。


「死ね」


 一瞬の(あいだ)にかれんがニールの胴を上下に斬り裂いた。


「ハハッ‼ いいね……見えなかったぞ……‼ 『死ね』なんて医者が言う事じゃないよなぁ⁉」


「殺す気で来いと言ったのはそっちだ。それに、刀がすり抜けて見えたのは気のせいか? 確実に斬った筈だが」


 砂浜に現れた時と同じだった。ニールは全く傷を負っていない。


「さあな。もっと殺し合おう十文字……」


「まるで手品師だな。どうりで防御が甘いわけだ」


「次は別の手品を見せてやるよ」


 不意に、かれんに向けて勢いよくナイフが投げられた。


 それを軽く躱すかれん。


 が、すぐにそれは現れた。


「──‼」


 かれんの瞳から数センチ先で、躱したはずのナイフがその切っ先を向けている。


 咄嗟に身を屈めたかれんはギリギリでそれを避け、転がるようにして膝をついた。


「大した反射神経だ」


「何だ今のは……⁉ ありえない方向からナイフが──」


 二度目に見たナイフは、立ち位置からしてもニールが投げたものではなかった。


(投げる動作は最初の一回だけだったはず……もう少し試してみるか)


 再び交戦に入る二人。隠す必要がなくなったからか、ニールは刀を意に介さず攻撃に撤している。


「ハハッ! どうした十文字……動きが鈍ってるぞ?」


(こいつ……体はすり抜けてもナイフは違うようだ……)


「そろそろ終わりかァ⁉」


 大きく踏み込んだニールによって、かれんの刀が弾き飛ばされ宙を舞う。


「しまっ……」


「死ぬのはお前だ‼」


 首筋を斬られて倒れるかれん──ニールがそれを頭に描くのは容易だった。


 しかし現実に描かれたのは別の光景、不敵な笑みを浮かべるかれん──




「──なんてね」




 ニールは己の目と耳を疑った。ナイフの刃が首に届く直前、かれんが視界から消え、足元からの殺気でニールの背筋が凍りつく。


 しゃがみ込んだかれんの手に握られた、一際(ひときわ)異彩を放つ日本刀。


 ニールは咄嗟に後ろへ飛び退()いたが既に遅い。


 体を回転させた勢いを利用し、かれんが刀で斬り上げる。




紅時雨(べにしぐれ)‼」




 ──降り注ぐ紅い雨が、石畳を濡らした。




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