第19話 ダーリンといえばハニーですよね①
【主な登場人物】
◆逢沖 悠斗 17歳
本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡され、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。
◆七瀬 水月 17歳
人工魔眼持ちの少女。無意識に『天理逆行』引き起こし、2070年の世界を再構築した。今は悠斗の家に居候中。
◆九条 莉奈 17歳
悠斗の幼馴染。お金持ちのお嬢様だが割と庶民派。面倒見がよく悠斗と水月をいつも気にかけている。『秘跡の魔眼』の持ち主。
◆十文字 かれん 自称20歳
戒めの使徒。創世六位『人間の創造主』。悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と告げた。立場によって性格を切り替えている。
◆煌々 輝夜 自称14歳
戒めの使徒。創世一位『光の創造主』。かれんと一緒に暮らしている。恥ずかしがりやだが戦うと結構強い。
◆アルミラージ 自称15歳
戒めの使徒。創世五位『動物の創造主』。通称「あーちゃん」。しゃべる珍獣ウサギ。基本役に立たない。そしてエロい。
◆ナムタル
『冥界クルヌギア』の首相。「世界の在り方」から外れた魂を、在るべく状態へ戻す為に現れた。
◆ニール・サンクトゥス 目測20代
戒めの使徒。創世七位『??の創造主』。まだ謎の多い人物。
【名前のみ判明している戒めの使徒】
◆レックス・ウォラーレ 創世二位『空の創造主』
◆クラルス・マグノリア 創世三位『自然の創造主』
◆ルーナ・クレアーレ 創世四位『天体の創造主』
「輝夜が埋まってくれている内に訊いておこうか。何があった? 今は簡単な説明で構わない」
かれんは言葉を選びつつ話を進めた。
状況を全て見ていた水月がそれに答える。
「……ナムタルが来たの。自分は冥界の首相だって言ってた」
「ほう?」と相槌を打ちながら、かれんは黙ってその続きを待つ。
「わたしの命を狙ってたみたい。それで戦いになったらその人が突然現れて……ナムタルを簡単に消しちゃった」
「成程、この男の目的について何かわかった事は?」
「冥界に連れていけってナムタルに頼んでたよ、それも生きたままで。でも断られたら……地球ごと人類を滅ぼして冥界に行くって」
かれんは目を閉じて俯き「そうか」と静かに口にしたあと、ゆっくりとニールに向き直った。
「やれやれ……ずっと姿を見せずに何をしているかと思えば、そんなことを考えていたとは。──ニール・サンクトゥス、何を目的に冥界を目指す?」
「話す必要はない。どちらにしろ僕を止めるだろ」
「そうだな」
かれんは刀の先をニールに向けた。
「かれんさん!」
「わかってるよ水月、殺しはしない」
「ハハッ! 結局お前も人間だなぁ……十文字」
ニールの体が透けたように見えた直後、その姿は完全に消え、光の縄が砂浜に落ちた。
「くっ……まさか消えるとはな。どうりで大人しく捕まっているわけだ」
「かれんさん、すぐ探しに行こう! おれも一緒に──」
「悠斗、今は無理しなくていい。みんなすまなかったね、私がもっと早く気付いて駆けつけていれば……こんなに怪我をさせる事はなかったかもしれない」
「かれんさんが謝ることなんて……」
「いいや、謝るさ。使徒がこの体たらくでどうする……輝夜、皆を任せていいか?」
「はい、安心して奴を追ってください」
埋まったままの輝夜が自信たっぷりに答えた。
「実際に姿を見たばかりだからね。気配でおおよその居場所なら見当はついている。では頼んだぞ」
向かう先を定め駆け出したかれんの走りは凄まじかった。常人では不可能な速さで瞬く間に姿が見えなくなっていく。
「かれんさん……」
◇
「悠斗動ける?」
「あぁ、なんとか」
危機を脱したとはいえ、安心してはいられない。
莉奈に手を引かれて立ち上がった悠斗に輝夜が声を掛ける。
「チャンスです、悠斗さん」
「ん?」
「今なら助けるフリしてかぐやを触り放題ですよ? さあ、早く」
(素直に早く助けてって言えばいいのに……)
悠斗はかなり疲弊しているはずだが、何故か力が漲るのを感じた。
「しょ、しょうがないなー。でもかなり深く埋まってるしぃ、いっぱい触っちゃうかもしれないなー」
棒読みでニマニマする悠斗に笑顔の莉奈が囁く。
「悠斗? ……アンタも埋まる?」
(目が全然笑ってねェーっ‼)
「水月、早いとこあたし達で掘り起こしましょ」
うん、と頷いた水月が輝夜のもとへ駆けていった。
「ねぇねぇ輝夜ちゃん! うまく埋まる方法、あとで教えてねっ!」
(この子やっぱりドⅯなんじゃ……前もプチプチ二重巻きの刑されたがってたし)
「任せてください。コツを掴めば簡単にできますよ」
「はーい、みんな~っ!」
ニッコニコで楽し気に声を上げた莉奈が皆の視線を集めた。
「──埋めてやるから場所選べ♡」
「はい……ッ‼」
埋まりたくはないのだけれど、それしか言葉が出なかったようだ。
「そこッ‼ ワクワクしない‼」
──水月を除いては。
◇
場所は変わり兎神神社の近く、生い茂る竹林の小径をニールは歩いていた。
京都の有名な観光名所ほどではないが、十分立派で美しい景色が石畳の先まで続いている。
時刻は既に午前一時を回った。
人影はなく、虫の音がうるさく感じられる程辺りは静まり返っている。
コッ…コッ…コッ…と同じ間隔で寂しく響く足音。
それが次第に不規則なリズムを刻み始める。
コッ…カコッ…コカッ…
音のリズムが狂い始めると、すぐに足音は聞こえなくなった。
代わりにニールの背後から声が聞こえる。
「なかなかいい場所を選ぶじゃないか。刀と紅い血が……実によく映えるぞ?」
「まるで悪役のセリフだな、十文字」
「人類皆殺しを企む奴には敵わないよ」
少し距離を開けて二人が向かい合った。
「ニール、天を覆った灼熱の大地、あれはお前の仕業か?」
「……そうだ。本当なら地球はもう粉々になってるはずだったのにさぁ……邪魔した奴が誰か知ってたら教えてくれよ」
「知るわけないだろう? お前がまたやらかしたら、その救世主様に助けてもらうつもりだよ」
「─―フン、まあいい。知っていても教えるわけがないか」
「私が嘘を吐いていると言いたいのか? 女の嘘の一つや二つ、軽く流せないと嫌われるぞ?」
「どうでもいい、僕はこの世の全てが嫌いだ」
「笑えないな。少なくともお前が刃を向けた銀髪の少女は、お前を救おうとしているのに」
「あの女では僕を救えない」
「……まぁ、そうでなければ人類皆殺しなど企むはずもないか。しかし戒めの使徒とはいえ、あんな事ができるとは思えないのだが」
「なら僕に構うのはやめろ」
「いや、一つだけ思い当たる節があってね。旧世界にはそれを可能にするものが存在した。しかしあれは破壊されているからどうしても信じられ──」
「正解だ」
「……なんだと?」
「グラヴィクス、あれは破壊されていない」