第18話 別に助けてないし勘違いしないでよね③
【主な登場人物】
◆逢沖 悠斗 17歳
本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡され、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。
◆七瀬 水月 17歳
人工魔眼持ちの少女。無意識に『天理逆行』引き起こし、2070年の世界を再構築した。今は悠斗の家に居候中。
◆九条 莉奈 17歳
悠斗の幼馴染。お金持ちのお嬢様だが割と庶民派。面倒見がよく悠斗と水月をいつも気にかけている。『秘跡の魔眼』の持ち主。
◆十文字 かれん 自称20歳
戒めの使徒。創世六位『人間の創造主』。悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と告げた。立場によって性格を切り替えている。
◆煌々 輝夜 自称14歳
戒めの使徒。創世一位『光の創造主』。かれんと一緒に暮らしている。恥ずかしがりやだが戦うと結構強い。
◆アルミラージ 自称15歳
戒めの使徒。創世五位『動物の創造主』。通称「あーちゃん」。しゃべる珍獣ウサギ。基本役に立たない。そしてエロい。
◆ナムタル
『冥界クルヌギア』の首相。「世界の在り方」から外れた魂を、在るべく状態へ戻す為に現れた。
◆ニール・サンクトゥス 目測20代
戒めの使徒。創世七位『??の創造主』。まだ謎の多い人物。
【名前のみ判明している戒めの使徒】
◆レックス・ウォラーレ 創世二位『空の創造主』
◆クラルス・マグノリア 創世三位『自然の創造主』
◆ルーナ・クレアーレ 創世四位『天体の創造主』
「やっぱりまだだ……」
目を大きく見開いたニールが口元を更に歪ませた。
「ハハッ──計画を実行するまで我慢しよう……苦しめて絶望サせて心ヲ壊シてスり潰シテ……‼ ソレを眺めながら次の段階に……」
(あ、この人ヤバい)
もはやニールにとって人間は『人間』でないのかもしれない。そのまま何も言わずに去ろうとする背中に、悠斗は問い掛けずにいられなかった。
「お前だって同じ人間だろ……? 命を何だと思ってるんだ……‼」
ニールが背中を向けたまま立ち止まる。
「今……君は僕を理解できずに『悪』だと決めつけてるよね?」
「それは……」
「いや? それは間違ってない。僕は『悪』だ。もっと言えば──人間自体が『悪』だ。救いようのない程に」
振り向いたニールが言葉を続けた。
「人は理解できない相手を嫌悪する。自分の価値観を押し付け、自分だけは理解されたいと願い、分かり合えなければ非難し排除しようとする」
狂ったかと思えば急に正論をぶつけられたようで、悠斗は口を挟めない。
「そんな人間ばかりが集まった世界で、僕は全てを失った。僕から全てを奪った人間が憎い……人間を生み出したこの地球が憎い! 自分が同じ人間だと思うと虫唾が走る‼」
ニールの叫びが辺りに響いた。砂浜に打ち寄せる波は、その憎しみから身を隠すように息を潜めている。
「だから、誰がどうなろうとどうでもいい」
────
張り詰めた空気を破り、水月が口を開いた。
「そんなのだめだよ」
「水月……」
「人間だって悪い人ばかりじゃない。全部失っても、手を取って救い上げてくれる人が絶対いる‼」
「うるさいよお前……やっぱり今すぐ死ぬか……?」
「まだ死ねない。あなたに手を差し伸べる人が今まで誰もいなかったなら」
「うるさいって言ってるだろ……」
「わたしが‼ あなたを救ってみせる‼」
「……っ‼ 大口を叩くなよ女、僕を救えるのはただ一人だけだ‼」
「──―ほら、やっぱり」
ニールは「なんだと……」とつぶやき、今にも水月に襲い掛かりそうだった。
「あなたは人間を憎んでる。だけど……あなたを救えるのも、その『ただ一人』の人間なんでしょ⁉ あなたはまだ完全に人間を憎んでない‼」
「黙れ‼ 目障りだよお前……」
ニールが瞬時にナイフを取り出し、殺意を宿した刃を水月に向けた。一瞬の出来事に反応が遅れた悠斗と莉奈は、攻撃を防ごうとするが間に合わない。
「よく言った、水月」
キィンと甲高い音を立ててナイフが弾かれ、目の前に人影が現れた。
「「かれんさん‼」」
「みな無事でよかった」
かれんは胸を撫でおろしながらもニールから視線を離さない。
「そういえば、最初の時も似たような状況だったかな?」
「前も襲われそうになったタイミングで助けてくれたけど、もしかして狙ってる?」
悠斗がいつもの調子で会話できてしまうぐらい、かれんの存在は皆に安心感を与えた。
「まさか。私にそんな余裕があれば……旧世界が滅ぶ事はなかっただろうな」
そして自嘲気味に笑うと、視線の先にいるニールへ意識を集中させた。
「久しぶりだな、ニール・サンクトゥス。ざっと七千年ぶりか?」
「十文字……何千年経っても何を考えてるいるか分からない奴だ」
「お前にだけは言われたくないな。どうだ? 星でも見ながら色々話そうじゃないか」
「断る。お前にも星にも興味なんて……」
何気なく夜空を見上げたニールの視界に一際強い光が映り込む。
「あれは……」
「結わいの光に告げる──あの者を繋ぎ止めよ」
一瞬の隙を突いて光の縄がニールを縛り付けた。
その光の先端は地面まで伸びて固定されている。
「輝夜ちゃん‼」
「水月に刃を向けましたね。裁かれる覚悟はできてますか?」
戒めの使徒として、決めゼリフとともにニールを睨みつける輝夜。
ニールの動きを封じたところで、かれんが視線を移した。
「ところで輝夜、空を飛べるとはすごいじゃないか。知らなかったぞ?」
「そら?」
そう、輝夜は今、地上より約五十メートルほど上空で浮遊している。
「わ、ほぇっ、かっ──かぐやも知りませんよぉぉぉぉ‼」
空中で躓くようなしぐさを見せ、一直線に落下する輝夜。
大きな音と共に砂埃が舞う。
「まさか……気づいてなかったのか?」
徐々に薄れる砂埃の中から、砂浜に肩まで垂直に突き刺さっている輝夜が現れた。
「いえ、狙い通りです」
「さっき知らな──」
「ち、注意を引く作戦なのですヨ? さあ、かぐやが埋まっている内に早く」
「……」
自分が囮になって足止めする的なセリフだが、どう見ても足止め失敗した人である。
そんな状況の中で、悠斗は皆が見落としている輝夜の真意に気付いた。
縄で縛られた男と、埋まって動けない女。
(これは……相互縛りプレイ‼)
※違います。
(相手を縛り己の体も拘束することで、手を出せないもどかしさに焦らされ、あわよくば放置プレイまで味わえる──これが……七千年生きた者が辿り着く境地‼)
※もうそれでいいです。
そんな欲張りプレイ中の男女だけでなく、刀を手にした白衣の女もいるのだ。
絵面的にヤバい夜の砂浜となっていることに、まだ誰も気づいてはいない。




