第17話 別に助けてないし勘違いしないでよね②
【主な登場人物】
◆逢沖 悠斗 17歳
本作の主人公。眼科で『診断結果 魔眼覚醒』と言い渡され、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。
◆七瀬 水月 17歳
人工魔眼持ちの少女。無意識に『天理逆行』引き起こし、2070年の世界を再構築した。今は悠斗の家に居候中。
◆九条 莉奈 17歳
悠斗の幼馴染。お金持ちのお嬢様だが割と庶民派。面倒見がよく悠斗と水月をいつも気にかけている。『秘跡の魔眼』の持ち主。
◆十文字 かれん 自称20歳
戒めの使徒。創世六位『人間の創造主』。悠斗に『診断結果 魔眼覚醒』と告げた。立場によって性格を切り替えている。
◆煌々 輝夜 自称14歳
戒めの使徒。創世一位『光の創造主』。かれんと一緒に暮らしている。恥ずかしがりやだが戦うと結構強い。
◆アルミラージ 自称15歳
戒めの使徒。創世五位『動物の創造主』。通称「あーちゃん」。しゃべる珍獣ウサギ。基本役に立たない。そしてエロい。
◆ナムタル
『冥界クルヌギア』の首相。「世界の在り方」から外れた魂を、在るべく状態へ戻す為に現れた。
◆ニール・サンクトゥス 目測20代
戒めの使徒。創世七位『??の創造主』。まだ謎の多い人物。
【名前のみ判明している戒めの使徒】
◆レックス・ウォラーレ 創世二位『空の創造主』
◆クラルス・マグノリア 創世三位『自然の創造主』
◆ルーナ・クレアーレ 創世四位『天体の創造主』
ニールの言葉を聞いた皆が口を噤んだ。生きたまま冥界に向かうなど、本気で言っているのだろうか。そもそも望んで赴く場所でもないだろう。
「助けられた、わけじゃないみたいね……」
「笑わせるなよ」
その言葉に反応したニールが莉奈を睨みつけた。見開いたまま瞬きすらしないその目は、瞳に映るもの全てに憎しみと嫌悪を向けているようだった。
「僕が君達を助けるわけないだろう……‼ 勘違いしないでくれるかなぁ」
戒めの使徒とは、人類が同じ過ちを繰り返さないよう見守る存在──かれんからそう聞いていたが、この男はどうだろうか。
仮に冥界へ赴く事が戒めの使徒の使命に繋がるとして、そう信じたくても、ニールの言動が、視線が、否応なくそれを否定する。
「で、どうなの? 冥界に連れていってくれるのかな?」
黙ったままのナムタルに、ニールが再度問いかけた。
「お前ぇ……冥界を何だと思ってる……⁉」
「死者の魂が行き着く場所だ」
「だったら……あぁ……死んで出直してくるんだな……」
「────」
再び訪れた静寂に場を支配され、辺りが緊張に包まれる。
「──まぁ、ダメなら別にいいよ」
ため息交じりにニールが緊張の糸を解いた。
「元々準備していた方法があるからね。惜しかったなぁ……‼ この前は邪魔されたけど、冥界が実在するなら今度こそ……‼」
ニールはナムタルとの交渉失敗に落胆するどころか、願いが叶う喜びを抑えきれない、といった風に声を震わせた。
「何を企んでやがる……」
「滅ぼすんだよ……‼ 人類を、地球ごと」
「「──⁉」」
「何言ってるの⁉ あの赤黒ロン毛アタマ‼」
ナムタルに初めて遭遇した時もそうだったが、こういう時の莉奈は実に胆が据わっている。
「ねぇユ─ト、あのロン毛ってもしかして……」
「あぁ……その元凶、かもしれない」
冥界へ行く事と、人類を滅ぼす事、それがどう関係しているのかは分からない。
だが実際のところ、そんな事はどうでもよかった。人類を滅ぼす──それが本当ならニールの企みを阻止する以外に選択肢はないだろう。
理由は違うが、それはナムタルにとっても同じだった。
「あぁ……世界の在り方を……変えるんじゃねぇよ……‼」
「いいんだよ。こんな世界、消えてしまえばいい」
ナムタルに迷いはなかった。「そうか……」と口にすると同時に地面を蹴りニールへと距離を詰めていく。
「消えるのはお前だ……‼」
「邪魔しないでくれるかなぁ」
ニールはその場から動くことなく、指先で虚空に小さな長方形を描いた。
「開門、虚無廻廊」
ビキビキと音を立てながら、見上げるほど大きな漆黒の門がナムタルの目前に突如現れた。
開け放たれた門の向こうには天も地も光もない暗闇が無限に広がり、ナムタルが抵抗する隙もないまま暗闇へと引きずり込まれていく。
「あぁ……やられたな……」
ナムタルを完全に取り込むと、門は勢いよく閉じられその姿を消した。
「さて、君達はどうしようか……」
ニールは腕を組みながら片手を顎に添えた。
口元は悪戯を企む子供のように歪み、ゴミを見るような目で悠斗達を見据える。
「計画の邪魔になりそうだし今の内に……いや、その時がくるまでできる限り生かしておいた方が……」
(あのナムタルが一瞬で消された……少しでも動く素振りを見せれば──たぶんおれ達も……)
◇
「ねぇねぇ輝夜ちゃん、今の気付いた?」
「うん、一瞬だったけど。あの時すぐいなくなっちゃったニールさんの気配?」
「そだね~、ってことはぁこの町に来てるのかなぁ~?」
悠斗達がピンチに陥っている頃、かれんと輝夜は屋敷でお茶を手にまったりしていた。それでもニールの気配に気づけたのは、戒めの使徒ゆえである。
戒めの使徒が魔力子を操ると、ある程度の範囲内なら使徒同士で存在を感じ取る事ができる。使徒は元々が精神体。人間とは生命としての構造がそもそも違う。
以前、輝夜とナムタルが戦っていた時も、かれんがすぐに駆け付けられたのはこれが理由だ。
「ずいぶんと禍々しくなってるねぇ。これはちょっとまずいかな~」
「……かぐやはいつでも出れるよ?」
「ふっふ─ん! そうこなくっちゃ‼」
そう言って立ち上がったかれんの表情は、戒めの使徒のそれへとすぐに切り替わった。
「感動の再会といこうじゃないか。七千年ぶりに……‼」




