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始動6

「フリーダン、あんた一体何者なんだ? ここで何をしていた?」


 シェザードの問いにフリーダンは黙っていた。


 無言でいるとまるで彫像のように微動だにしない男である。


 博識な少年は出会って間もない中で感じた多くの違和感からとある仮説を組み立てていた。


 この大男はもしかしたらかつてこの国が内紛に見舞われていた百年の昔から生きているのではないか、という仮説である。


 普通ならあり得ない長寿だ。


 だが前例がないわけではない。


 かつて南半球にいたとされる亜人と呼ばれる人間に似た動物の中には百年を超す長命の者がいたと言われているし、その血を引くとされて淘汰されたイウダル族という種族も不老長寿だったと言われている。


 更には北の大陸にいたとされる地底人のグマラ族も長命だったらしい。


 この男はずっと地底をねぐらにしていたようだがグマラ族のように低身長ではなく逆に見上げる程の巨体だ。


 顔を隠しているのは獣の特徴が見えるからかもしれない。


 いずれにせよ不透明な記述の多い内乱の歴史を知っているかもしれず、文献にしか載っていない種族の生き残りかもしれない者と相対しているというわけだ。


 これは大変貴重な事ではないか。


『……なんとなく、なんとなくですが状況は掴めました。目覚めてしまったのは鉱石の接近によるものとすると……』


「はぐらかすなよ」


『シェザード、あなたがこの鉱石を持つ者に最初に出会ったのはこの上ですか?』


「遺跡でっていう意味か? いや、学校だよ。バイレル・ベインさ」


『ベイン? ベインファノスですか?』


「それ以外に何があるんだよ」


『…………』


「なあフリーダン、あんたってもしかして亜……」


『シェザード、あなたは一度ベインファノスに戻って下さい。そこでまた会いましょう』


「は?」


『上が騒がしいです。あなたを探しているのかもしれない。この場はやり過ごして後で合流したほうが都合が良さそうです』


「全然聞こえないけど……って、いつどうやってまた会うんだよ」


『この隧道(ずいどう)はベインファノスの地下にある迷宮へと続いています。かつてロデスティニアが王国だった頃に築かれた地下迷宮で、範囲が広大過ぎる為に未だ全貌(ぜんぼう)は解明されていません。ですが我々はそこに希望を(たく)しました。それがあなたに会って貰いたい人なのです』


「……オルフェンスだっけ、そいつに無理やり連れてこられた時はどうなるかと思ったけどなんだか面白いことになってきたなあ。分かった、会うよ。俺もあんたらともっと話がしてみたい」


『ではさっそく、今夜なんて如何でしょう』


「いいぜ。明日は休校だし。夜更かしして寝坊しても問題ないしな」


『ありがとうございます。では手引きはオルフェンスに』


 意外にもフリーダンはベインファノスの地理をよく知っており貧民窟の場所も理解していた。


 地底にずっといた説が薄れてしまうので残念だったが憶測で一喜一憂しても仕方がないので後で確認してみようと少年は頭を整理した。


 迷宮へは自宅で待っていれば人が寝静まった頃を見計らって蜘蛛型の自律駆動が迎えに来て案内してくれるらしい。


 現状ですら聞きたいことが山積みだったが会う手段を得たので今は早急に別れて誰にも気取られないようにするのが得策だろう。


『ここであったことはくれぐれも他言無用でお願いします。あなたが地上に出たらこの隧道は埋めます』


「どうやって……って聞いてる暇はないよな。上に戻らなきゃ。でもどうやって戻ろう……」


『任せてください』


「え?」


 帰り道、フリーダンはシェザードを抱えて走った。


 驚くべきことにこの大男は走るのが異常に早かった。


 足が地面に接地する度に圧縮された空気のような音が聞こえる以外は無音である。


 照明の光が届くよりも先に暗闇に足を付けるような速度が怖くてシェザードは目を開けていることが出来なかった。




 その頃地上ではシェザードがいなくなっていることが発覚し発掘は中断され懸命の捜査が行われていた。


 自律駆動の撃退は完了しているもののいつまた動き出すか分からないので生徒たちは研究者の施設に避難させている。


 そんな時も官憲や教師に交じって行動出来るのは風紀委員だ。


 アレックスは不安に震えながらも気丈に捜索を続けていた。


 その時だった。


 瓦礫の山が轟音と共に崩れた。


 地面が陥没し、周囲にいた官憲たちも慌てふためく。


 また自律駆動が湧いて出てくるというのか。


「すげ……なんだよこの爆発。なにやったらこうなるんだよ……」


 緊迫した面持ちで武器を構える各々の後ろでまるで他人事のような声がした。


 驚いて振り向くと探していた生徒が飄々(ひょうひょう)と立っているではないか。


 多少顔や体中に傷があるもののいたって元気そうである。


 一同は呆気にとられつつも安堵したが正義感の強い少女だけは咄嗟(とっさ)にシェザードを怒鳴りつけた。


「なにやってたんだよ! 一体、どこに!」


「あ? あー、あっちにいた。急に自律駆動が動き出すんだもんよ。そりゃびっくりして気絶くらいするぜ」


「き、気絶? 気絶していたのか。よく無事だったね」


「あっちって……さっき探した時、いたか? 嘘をつくんじゃない」


「あ。あんたうちの班を護衛するはずだった人だろ。俺が一生懸命発掘してたんだから、あんたも当然一緒にいたはずだよな」


「え?」


「そういえば用心棒さんたちって何処だ? あんた、知ってる? なんか上手く説明出来ないけどあんた知ってそうだなあ」


「……ま、まあ無事でなによりだ」


「用心棒さんたちに何か用なのかい、シェザ?」


「いや別に」


 監督不行き届きな官憲の詰問を封殺するために彼が追っかけをしていた用心棒たちのことを話題に出しただけだったが、用がないとは言い切れなかった。


 フリーダンはセエレ鉱石を持っていたあの用心棒にも会いたがっていた。


 用心棒たちが彼の言う味方なのかは分からないが連携が取れるようにしておきたかった。


 しかし用心棒たちは生徒が大勢いる研究者の施設の守りについており、その後はシェザードも他の生徒たちと共に団体行動を取らざるを得なかったので接近する機会がなかった。


 教師たちからこってり叱られたシェザードは不貞腐れながら駆動四輪に乗り込んだ。


 実況見分などがあるため生徒だけ帰宅させられることになったのだ。


 乗り込む間際に遠くから用心棒たちがこちらを見ていることに気づいたシェザードはなんとなく大きく頷いてみせた。


 意図が伝わったかは不明だが義眼を失った用心棒が目を細めた気がした。


 こうしてシェザードが期待に胸を躍らせていた校外学習は波乱の内に終わった。


 帰宅したシェザードは混乱の中で身体検査されなかったのをいいことにちゃっかり良質な鉄屑や部品を鞄に詰めていた。


 今日あったことは鉄屑を土産に大家の老人たちに話そうかと思っていたが、箝口令(かんこうれい)が敷かれていた事と意外にもかなり疲れていた事が相まって土産だけ渡して話は翌日にすることにした。


 明日は休みだし、夜にフリーダンたちと再び会った内容をまとめて話したほうが良いだろうと考えたからであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 用心棒の目的はシェザードのように連れて行ってもらうことだったのだろうか…
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