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SKYED11 -シェザード編-  作者: 九綱 玖須人
信じるということ
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信じるということ8

「爆発……。……くそっ!」


「待てっシェザード! 同志シェザード、勝手な行動はよすんだ。君一人で行って何が出来る!?」


「何が出来るだ!? そんなんじゃねえよ! 関係ねえところに実害が及んでるんだぞ!」


 焦燥(しょうそう)に身を焦がしながらも心の奥底には冷静な自分がいた。


 官憲たちだって必死の抵抗はするわけで、東区の陽動隊が無人の野を行くかのように一気に中央区の学園に進撃することなど不可能だ。


 それに土地勘のあるシェザードは東門から続く大通りの先に公的機関の施設がいくつもあることを知っていた。


 陽動隊の者たちとて見れば分かるだろうに、わざわざそれらを素通りして学園に狙いを付けるのは不可解だった。


 考えられるとしたら一つ、騒ぎに乗じて無関係の何者かが襲撃を企てたのだろう。


 一体誰が、何のためにだろうか。


 金品があるわけでもなしに何故学園が標的になったのか理解に苦しむ。


 分からないからこそ邪推が脳裏をよぎってしまった。


 自分はまた学校に迷惑をかけてしまったのではないか。


 田舎者と馬鹿にする嫌な奴らは多いがそれでもあそこには仲良くしてくれた同級生や先生がいる。


 名誉ある学園から指名手配犯を出してしまったという負い目があった。


 それなのに更に面倒に巻き込んでしまうなどなんという不義理だろうか。


「火事場泥棒のようなものだろう。大勢を見るんだ、シェザード。我々にはやるべきことがある。立ち止まっている暇はない!」


「シェザ、政治家たちが逃げてしまうかもしれないよ。急がないと。数の上では圧倒的に不利なんだから時間が経てば経つほど僕らは劣勢になる。大丈夫、一度しか会ってないけど君の担任の先生も体育の先生も、対自律駆動の手練(てだ)れだったから。きっとなんとかしているよ」


「シュリは……。シュリ達は行けばいいさ。だけどエルシカ、俺たちは学園に行くんだ」


「シェザード。分かってくれ。我々の革命の成功確率は今も刻一刻と減っている。だから……」


「バルドーを押さえるのが先決ってか? いいや違うね。(わず)かな可能性だろうと星の連中が学園を襲っていたなら、そんな奴らにバルドーは協力しないだろう。違ってたとしてもお前ならどうだ、自分たちが起こした騒ぎに便乗する奴を放っておいて、さあ助けに来ましたよなんていう奴らを信用できるか? バルドーは義憤で反乱を起こした真の革命家だってじいさんたちが言ってた。そんな奴がてめえらの保身を優先させるようなごろつき集団に手を貸すわけがねえよ!」


「この野郎、よくもそんな事を!」


「よすんだ!」


 シェザードは冷静だった。


 学園の無事を確認するのに人員を割いて欲しいという下心はもちろんあったが彼はスタン・バルドーという男の心理をよく理解していた。


 大家の老人から話を聞いていたのでその性質を掴んでいたわけだが、バルドーが逮捕されたのは無関係の者たちが彼の正義に便乗して各地で狼藉を働いたからだ。


 そのような理想に行きる人が、自身が出頭した原因と同じ状況を放置するような革命ごっこ集団に手を貸すとは到底思えなかったのだ。


 無礼な物言いのシェザードに男たちが怒って歩み寄ろうとしたがエルシカはそれを制した。


 ただ一人、親を殺された事で本気で革命を成そうとしていた少年もまた協力を仰ごうとしていた相手への調査を欠かしていなかったからだ。


 エルシカは僅かな時間で脳を高速で働かせた。


 そして今の自分が最も納得できる別の手立てを導き出したのだった。


「……二手に別れよう。政治家に()()()いただく作戦は中止だ。私と隊長、シュリは監獄に向かおう。シェザード、あとの皆は学園に行き、暴挙が我々の意志ではない事を示してくるんだ」


「エルシカ坊ちゃん!?」


「シェザードの言う通りだ。便乗する者が出てくる事は想定済みだったが意志を統一出来なかった時点で我らの大義もなくなっている。回りくどくはなるが仕方がない。監獄の責任者を人質にして立て籠もり交渉に持ち込もう。中央官憲内にいるメドネア襲撃の実行犯もしくは暗躍させた黒幕……事態の収拾を条件にその者たちの処断の交渉をね。政府も内乱は避けたい筈だ、絶対に応じさせてみせる。事が成ったら即時撤収。するが、バルドー公とは接触しておき中央官憲の暴走を訴える。公ならきっと手を貸してくれるはずだ。いや、貸させてみせる」


「エルシカ……」


「こぎゃん土壇場でえ。余計なことばっかかよっ」


「リッキー。シェザードが抜け穴の地図をもたらしてくれなければ我らはこんな少数でここまで来ることなど出来なかった。我らを頼ってメドネアに来ていなければ、私は反撃の機会もなく殺されていたかもしれない……私の両親のようにね。彼は我らに良い風しかもたらしていないよ」


「…………」


「どのみち政庁へ行くにも監獄へ行くにも地下迷宮の同じ場所を辿っていけるようだし、ちょっと目的が変わっただけさ。問題ない。行くぞ!」


「すまん。シュリ……ええと」


「いい案だと思うよ。籠城するっていうのなら……()も交渉役を立てるとか、自分が交渉役になるとかで接触しやすいだろうし。じゃあ気を付けてね。リオンは君がしっかり守るんだよ」


「ああ!」


 少ない人数を更に分けた一行。


 残念ながら地図には学園まで続く地下迷宮の道は描かれていないので地上の道を行くしかない。


 エルシカと別れたシェザードたちは時折官憲の妨害に会いつつもなんとか学園に辿り着いた。


 学園では目を背けたくなる光景が広がっていた。


 煙を上げていたのは寮だった。


 学園の敷地内にありながら最も外に近い場所にある寮が何者かに狙われるのは当然だったのかもしれない。


 登校を控えていた学生たちが朝の諸事を成していた時に襲われたのだろう、所々に物言わなくなった生徒と警備員が倒れている。


 寮の中からは悲鳴が聞こえていた。


「……行こう!」


 顔面蒼白になり今にも倒れそうなリオンはリッキーに任せ後衛に置いて護衛会社の三人が前後を守り、シェザードが先頭を行く。


 寮内の廊下でも至るところに血まみれの学生たちが横たわっていた。


 少ししか居たことがないが見覚えのある場所のあまりの変わりようにシェザードの目には自然と涙が溢れていた。


 死体を辿っていった先には学生食堂があり、その前に血まみれの男がいた。


「ああ……混ざる、混ざるよ!」


 最初は生存者かと思ったが制服の下半分だけ履いて上半身裸のその男は両手に持った包丁で自身を切っている最中だった。


 あまりの異様さにリオンが悲鳴をあげた。


 振り返った男は恍惚の笑みを浮かべていた。


 その顔は見覚えがなく、少なくともメドネアの星の一員ではなかった。


「ああ良かった! 皆、この部屋に閉じこもっちゃって開けてくれないんだもの、どうしようかと考えていたところなんだ。手伝ってくれない?」


「なんだてめえは! なんで学園でこんな事してやがる!?」


「おや、先生かな? おはようございます、俺はメドネア反乱軍! 覚えてくれるのは一人だけでいいけどね!」


「……そういうことかよ」


 異常者は護衛の大人たちを教師と勘違いしたようだ。


 僅かなやり取りだったがシェザードは多くの事を理解した。


 覚えるのは一人だけでいいということは裏を返せば一人だけは逃がす意思があるということで、それはこの蛮行がメドネアの星の仕業であるということを喧伝(けんでん)して欲しいという思惑があるということだ。


 そして反乱軍などと正式名称を間違えている事からメドネアの星の事を知っているわけではなく、反乱と捉える第三者からこういう事態を起こすことを依頼されているだけだという事が伺えた。


 学園が狙われた理由が分かった。


 非力な者が集うこの場所を襲ったとあればどのような言い訳も立たなくなる。


 メドネアの星を分別のない極悪集団に仕立て上げようとしている者はメドネア襲撃事件に関与している者と見て差し支えないだろう。


 つまり攻めてくることも想定内で、今に至るまで自分たちはずっと誰かの手の上で転がされているというわけだ。


「……誰に依頼されてやった? こんなこと……なんでそんなに手馴れてやがる!」


「手馴れてるように見える? ありがとう! 自分ではちょっと(なま)ったかなって思ってたけど嬉しいよ。やっぱり体が覚えてたんだろうね!」


「いかれてやがるぜ……。何言ってんのかわからねえぞ」


「いや、情報が満載だ。体が覚えるほど以前にも同じようなことをして、鈍ったって思うほど長い時間が空いて、誰かから制服を奪って着ているのはただ単に変態だからってだけじゃねえ、一目でどういう奴か分かる服装をしていたから誤魔化したかったんだ。間違いねえよ、あいつ受刑者だ!」


「おやおやおや。君、そういう決めつけはよくないね!」


 殺人鬼は笑いながら突進してきた。


 久しぶりの殺人に気が大きくなっているのか撃ってこないと見くびっていたのか、護衛の大人たちが構える銃が見えているにも関わらずだ。


 撃たない義理はないので盛大に銃声が響く。


 胴を狙い撃ちにされた殺人鬼は多くの銃弾を浴びつつも直前まで迫ってくる気概を見せたが膝の頭を撃たれて敢え無くその場に勢いよく倒れこんだ。


「なんなんだこいつ……」


「……そりゃこっちの台詞だよ。なんで撃つんだよ。銃は駄目だろ。これからどうやって混ざり合うっていうのさ……」


「おい、誰に依頼されたか言え」


「……やーだね。ふふふ、でも一つだけ教えてあげる。ここにいるのは俺だけじゃないよ……」


 男は頑なに口を割らなかったが依頼自体を否定しなかったことがシェザードの推理を裏付けた。


 何故明かさないかと言えば簡単で、彼は依頼者を明かしたことが万が一にも依頼者の耳に入って恨みを買う事を面倒に思ったのだろう。


 犯罪者の罪を如何様にも出来るという存在は限られてくる。


 殺人鬼の言葉通り、その者との取引に応じて脱獄した受刑者は他にもいるようで悲鳴はまだ聞こえてきていた。


「死んだ……? ったく、なんだったんだよ。おい坊主、こいつらが受刑者だって本当か?」


「エルシカたちと合流すればすぐにわかるさ。きっと脱獄もメドネアの星がやった事にされるんだろうけどそうはいかねえよ。良かったなあんたら、たぶん政府はバルドーの怒りを買うぜ」


「黒幕は政府そのものか!?」


「そりゃ言い過ぎだと思うけど、犯人が名乗り出ないんだったら広義に解釈するしかないよな」


 シェザードたちはメドネアの星にかけられそうになっている疑いを未然に防ぐべく寮内の脱獄犯たちを次々に倒していった。


 暴漢襲来の異変を感じ取った生徒たちはすぐさま各部屋に籠ったようで入口付近以上の惨状は見受けられなかったのが不幸中の幸いだった。


 受刑者たちが大した装備を持っていなかったこともあり掃討は難しいことではなかった。


 最後の受刑者を倒した時、陰からこっそりと見ていた生徒たちは正体不明の集団を味方として捉え歓声を上げた。


 扉の隙間から恐る恐る覗く目に気付いた護衛の大人たちが生徒を安心させるべく銃を頭上に掲げ、もう大丈夫だと声をかけると部屋の中から安堵に崩れる泣き声が聞こえた。


 生徒たちが出て来れたのはリオンが一緒にいることが決め手になったのかもしれない。


 シェザードはその様子を胸を撫でおろしてみていたがはっと気づいて砂塵除けの頭巾を目深に被った。


「トレヴァンス……トレヴァンスだろ?」


 だがそれは遅く、自分の姓を呼ぶ声がしてシェザードに緊張が走った。

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― 新着の感想 ―
[一言] バルドーを逃そうとしてネメドアの星にも敵対するのは妙な感じがしますね。外国の方だったり?
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