始動4
シェザードはさっそく先ほどまでの場所に戻って部品を組み立て始めた。
ついさっき問題が起きたばかりなのに単独行動をするシェザードを咎める者は誰もいない。
教師たちもまさかそんな身勝手な生徒がいるとは思っていないし、アレックスら風紀委員も官憲と共に自律駆動が出現した場所を中心とした索敵に駆り出されていた。
今が好機だった。
動いている自律駆動を見てみたい。
こんな調査され尽くされた遺跡の研究者に教えを乞うよりは自分の目で実際に見たほうがよほど勉強になる。
鉄屑の山から必要な部品を取り出す作業はシェザードにとっては造作もないことだ。
瞬く間に教師に倒された自律駆動に似たものが完成した。
「……だめか」
しかし自律駆動は動かない。
やはり動力が生きていないと駄目なのか。
そんなことはない。
動いていたとされる自律駆動の動力も完全に錆びついて機能を失っていたのだから。
「どういうことなんだ……? 何故動ける?」
成功に至らなくても考えるのは楽しい。
必ず解は存在するのだ。
よくよく観察していたシェザードは気づいた。
組み立ててみたは良いものの、動力部の傍に駆動四輪などの機械では見たことのない区画があったのだ。
「この隙間はいったい……」
考え込んでいると不意に誰かが来る気配がした。
復元した自律駆動を隠している暇もなく自分だけ瓦礫の山に隠れる。
間一髪で現れたのは用心棒の二人組だった。
だが彼女たちは巡回に来たわけではなかった。
付きまとっていた生徒たちは引き離せたようだ。
周囲を見渡しながら何かを探している用心棒たちは目の前の物に気づいて肩を震わせた。
自律駆動が見つかってしまった。
用心棒たちは信じられないといった面持ちである。
「嘘だろ? 何故こんなところに。まるでたった今瓦礫の山から這い出て来たみたいじゃないか」
訝しむ白髪のユグナ族。
確かにこんなに目立つところにあって今まで放置されていたなどありえないことだろう。
だが生徒が組み立てたとまでは想像は及ばなかったらしい。
もう一人の黒髪の女性が確認する。
「見て。ここに隙間がある。これのことじゃないかしら。装置もあるわ」
「こんな小さな機体に? ありえない……。けど、これはひょっとして……」
「ひょっとするかもしれないわね。早速やってみましょ」
善は急げとばかりに自律駆動の前に座り込む黒髪。
すると刺青だらけのほうの左目から眼球を取り出したではないか。
義眼だったらしい。
そんなものをどうするのかと見ていると女性は……それを動力の傍の謎の区画に入れた。
「急いで。誰かが来てしまうかもしれない」
「分かってるわよ」
黒髪が何かを施したようだ。
と、同時に信じられないことが起きた。
自律駆動が起き上がったではないか。
そして……瓦礫の山に飛び掛かって来た。
「え?」
「うわぁっ!?」
呆ける用心棒を余所に自律駆動はシェザードを器用に掴むと二足歩行で走り出した。
なんという力だ。
急な展開に着いて行けず叫び声をあげながら引きずられていくシェザード。
我に返った用心棒たちが慌てたのは言うまでもない。
「な、なんで生徒がいるんだ!?」
「知らないわよ! とにかく助けなきゃ!」
その声に反応したのか自律駆動から奇妙な電子音が鳴った。
瓦礫の山が呼応する。
鉄屑の中で錆びついていた無数の機械たちが目を覚ました。
蜘蛛の子を散らすように大群が一斉に飛び出していく。
「きゃああっ! なによこれ気持ち悪い!?」
「言ってる場合かい!? 緊急事態だ!」
「た、助けて!」
シェザードは機械たちに運ばれていった。
ユグナ族が巨大な斧を振って足元を薙ぎ払うも自律駆動はどんどん湧いてくる。
混乱しつつも組み立てる必要のなさを確認する機械好きの少年は混乱する外面とは裏腹に新たな疑問について冷静に考えていた。
最初の機械が動き出したことが黒髪の女性の義眼によるものだとしたら、何故それに類するものなど入っていないであろう他の自律駆動まで動き出すことが出来たのだろうか。
答えは義眼を入れた一機にありそうな気がするが今は調べることが出来るわけもない。
蠢く鉄の塊に飲まれたシェザードは全身に機械が当たる痛みを感じつつも移動している感覚を覚えていた。
どんどんと降っている?
膨大な屑鉄の下には瓦礫をどかさなければ分からない入口があったらしかった。