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SKYED11 -シェザード編-  作者: 九綱 玖須人
メドネアのエルシカ
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メドネアのエルシカ5

「君との交信が途絶えてから十一ヶ月だ。心配していたよ。投獄されたのかと思っていた」


「そんなわけないだろ。まあ……色々あってな」


「頼もしいな。想像通りで嬉しいよ。首都の話を聞かせてくれないか」


「その前に解いておきたい誤解がある」


 町人たちを帰し、共に昼食をと誘われて案内された隣の部屋には既に大きな長机の上に食器が並べられていた。


 海にも近いメドネアでは獲れたての海産物も魅力の一つだ。


 自己紹介は会話の種にしようとまずは豪華な食事に舌鼓を打つ。


 目覚めてから未だ携帯食しか食べてこなかったリオンは感動のあまり頬張りすぎて涎を垂らしていた。


 その様子を興味深そうに見つめるエルシカ。


 シェザードは咄嗟に一日以上なにも食べてなかったんだと嘘をついた。


 彼はどういうわけかリオンに興味を持っている。


 どこまで情報を仕入れているのか分からない以上、うかつに特異な言動は出来なかった。


 リオンを留意するあまり警戒心を丸出しにしてしまっているシェザードはやはりまだ場慣れしていない。


 その点、ネイは流暢(りゅうちょう)に相手を持ち上げる言葉が出てくる。


 おべっかも過ぎれば嫌味だが、ネイの御機嫌取りは自然とその気になってしまうほどに巧妙だ。


 現にエルシカも屋敷を褒められてまんざらでもなさそうだった。


 ロード家はメドネアの名士である。


 かつてはいち卸問屋(おろしどんや)に過ぎなかったが今やこの町で名を聞いて(おそ)れない者はいない。


 黙っていても観光客が来る時代にこのまま現状に甘えていてはいずれ立ちいかなくなると警鐘を鳴らし、腰を上げようとしない政治家の代わりに私財をつぎ込んだ彼の祖父は英雄的存在だ。


 結局個人の財力では町の衰退を止めることは出来なかったが、二代目であるエルシカの父は町と共に没落しかけた家を再度復興させた傑物(けつぶつ)だった。


 そして三代目が彼だ。


 エルシカは親の財力を最大限に活かし実益を兼ねた趣味に没頭する毎日を送っていた。


 それが発明であった。


 彼の作った物、特に望遠鏡は世界一の精度らしくロード社の名を更に上げていた。


 なるほど学校に行かないわけである。


 これほど人生を謳歌していれば就学など無意味だろう。


 しかしそれ故に気になるところではある。


 何故そんな彼がわざわざ政府に目を付けられかねない事をしているのか。


「……で、私を頼ってきたと?」


「ああ。奴らが間違いを認めるわけがねえ。このままだと本当に政治犯にされちまう。だから、なあ、ビゼナルに帰るのを手伝ってくれよ」


 シェザードは事の成り行きを話した。


 エルシカに話した内容はこうだ。


 自律駆動の大群に襲われてしまったのは事実だがそれはシェザードがたまたま色違いの一機を組み立ててしまったからであり、同級生のリオンは一緒の班で一緒に被害にあった間柄だ。


 ただそれだけのはずなのに何故か中央官憲が出てきて自分たちを逮捕しようとして来たため無実を証明するまで捕まるわけにはいかずたまたま次の仕事を探していた用心棒に頼んで逃げてきた、と。


 だいぶ苦しい設定だがほとんど事実だから仕方がない。


 余計な設定を付け足してぼろが出るよりも中央官憲に秘匿性を持たせていたほうが想像の幅も広がるだろう。


 案の定、エルシカは中央官憲に陰謀の匂いを嗅ぎ取ったようだ。


 そして軽く非礼を詫びてきた。


「そうか……。いや実はね、首都から逃亡した政治犯は三人って聞いていたんだ。君と、あと用心棒のお二人がそうだと思っていた。だから彼女はいったい誰なんだろうと思っていて……申し訳ない、不躾(ぶしつけ)に好奇の目を向けてしまっていた。……そうか同級生だったか。議員の娘でも(さら)って来たのかと思ったよ」


「道理で。なんかちらちら見てんなあって思ってたんだよ。ていうかこいつが議員の娘に見えるか? 俺と同じく地方から出て来た田舎もんだよ」


「へえ。どこ出身なんだい?」


「こ、こらんどろん」


北の大陸(ベステス)か。それはそれは。そういえば名前を聞いていなかったね」


「リオン」


「リオン?」


「なに?」


「いや失礼。男性名詞とは変わってるなと思ってね」


「だんせいめい?」


「あまり女性には付けられない名前ってことさ。そして……いや、実に良い出会いだ。これは運命かもしれないね」


「あらあら、エルシカ君がリオンのこと口説き始めたわよ」


「ははは、御戯(おたわむ)れを。そうではなくて、皆さんはリオンという名を持つ女性に覚えがありませんか? それは今から三百年の昔に邪神から世界を救ったとされる英雄の名です。珍しい、ご両親が影響を受けたのかな?」


「知らない……」


「そういえばそんな話……あったなあ。でも世界を救ったっていうにはこの国に逸話が残ってるわけでもねえし、よくある地方の偉人列伝だろ」


「まあ、確かにこの国ではあまり有名な話ではないかもしれないね。神話でもあるまいに、たった三百年前だっていうのに邪神などという非科学的な言葉が出てきたりもする。シェザード君の言う通りリンドナル共和国やロタウ公国あたりの権力者だった女史を神格化させたというだけというのがしっくりくるだろうか。だけど今は伝説の成り立ちは問題ではないのだよ」


「なんだよ」


「要は気運の問題さ」


「……担ぎ上げようとすんのはやめてくれよな。そういう奴じゃねえんだから」


「そんなことはしないさ」


「……えっと、余計な口出しだと思うけどエルシカさん、ちょっといいかな。確かにこの町は君たちの天下かもしれない。官憲も取り込んでいて万全だ。でも、町の人たち含めてちょっと大胆過ぎるんじゃないかなあ。僕らを追いかけて来ている中央官憲は本当に手ごわいから今は気持ちを抑えたほうがいいよ」


「お気遣いなく。それよりシュリさん、あなたは北の少数民族ですよね? あなたの行動こそ大胆ではないですか? 国家を敵に回して、御同胞にはなんと説明するんですか?」


「それは……」


「万全じゃないわよぉ。官憲の中にも取り込めてない人、いるみたいじゃない。駅で会ったわよ。ここに中央官憲が来たらあなた方の秘密、全部ばらされちゃうんじゃないかしら」


「確かに(くみ)しない人もいますね。しかしそういう人は変に押さえつけるより存分に働かせてやったほうがいい。伸び伸びと自らの行動を教えてくれるわけですから重宝しています。むしろ捜査官と合同捜査してくれたほうが助かりますよ」


「やだすっごい自信~。かっこいい……本当にあんたと同い年?」


「うっせ」


「男前だし頭もいいし、将来有望じゃない! お姉さん今のうちに(つば)つけとこうかしら」


「光栄ですね、ならばすぐに湯あみの手配をしましょうか」


「えっお風呂!?」


「そういえば少なくとも二日は入ってないよな俺たち。走り回って汗だくなのにそのまんまだ」


薫衣草(くんいそう)を浮かべた浴槽なんて如何でしょう。私の好きな花です」


「やっだ、なにほんと素敵! 大胆! 自分好みの香りの女にしたいだなんてエルシカ君ったら! もう経験済みなのかしら……」


「なんか上手く伝わってねえみたいだから教えてやっけど、エルシカはお前くさいぞって言ってんだぜ」


「あんたは絶対もてないわ」


 シュリと使用人が笑い、リオンもつられて笑った。


 エルシカは慌ててシェザードの代弁を訂正する。


 場を支配するネイのおちゃらけた言動は本当に頼りになる。


 諸々の話はうやむやとなり食事は和やかな雰囲気で終了した。

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― 新着の感想 ―
[一言] シェザードとはだいぶタイプの違う人間ですね。これくらい違う方が付き合いも上手くいくんでしょうかね…
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