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SKYED11 -シェザード編-  作者: 九綱 玖須人
メドネアのエルシカ
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メドネアのエルシカ4

 導かれるままに古民家の床下に掘られた隧道(ずいどう)を抜けるとそこは大きな屋敷の敷地内だった。


 広い土地にはいくつもの家屋や(くら)がありそれらは全て商工会をまとめる一軒の卸問屋(おろしどんや)の資産だった。


 その卸問屋こそがエルシカの家なのだと聞きシェザードは妙に納得してしまう。


 学校にも行かずに発明をさせて貰えるような余裕のある家庭ならばきっとそうなのだろうなと思っていたからだ。


 既に仲間だと認識している町人たちはおしゃべりだ。


 聞けばどうやら彼らは漠然とした不満を政治批判に転嫁(てんか)しているようだった。


 (いわ)く、この町が寂れたのも売り物の相場が下がり生活が苦しいのも地方を切り捨てる政府の陰謀なのだという。


 彼らはそれに(いきどお)鬱憤(うっぷん)を晴らすために徒党を組んでいるのだ。


 どこにでもある話だが情けない話である。


 中央自治体と地方自治体の関係は例えるならば親子関係ではなくただの利害関係だ。


 この町はかつて鉄道が発展し旅行が流行した時代に一貫して売り手市場だったという過失がある。


 その過ちを未だ正そうともせず、集客の努力をした南側都市に投資する政府を非難するのはお門違いもいい所なのだ。


 政府がこの町に投資しない理由は他にも立地が影響している。


 諸外国に開かれた南側とは違いロデスティニア北部に隣接する大国はない。


 故に経済の観点からも国防の観点からも守らなくても良い都市なのである。


 そこに暮らす住人としては理由が分かろうと分かるまいと納得の出来るものではないだろうが、同じ批判でも陰謀だと決めつけての批判は非生産的以外のなにものでもなかった。


 だがそういう思想になってしまうのは仕方がないことなのかもしれなかった。


 恐らく彼らの中に学校に通ったことがある者は一人もいないはずだからだ。


 学問が市民権を得てきたのはつい最近の話である。


 勉強など何の役にも立たないと決めつけ少しでも早く労働力にしたいと考える大人は未だ大勢いて、それはシェザードの両親のように田舎に行くほど顕著(けんちょ)なのだ。


 シェザードはたまたま学校に行けたから広い視野を持てた。


 学校で地理や歴史を学んだから彼らよりも物事を俯瞰(ふかん)で考察出来る。


 だから出会って間もないにも関わらず彼らに危うさを覚えていた。


 争乱は一部の識者が彼らのような無垢の者を扇動して行うものだと歴史が証明しているからだ。


 シェザードは後悔していた。


 彼らは自分たちを中央から来た同志と認識してしまっている。


 まだエルシカが会ってみたいとしか言っていないにも関わらずもはやそれは決定事項だ。


 彼らの組織の長もきっとそれを利用するに違いない。


 外部から同志が現れば彼らは自分たちの正しさを改めて確信する。


 その同志が敵である中央から来た者なら尚更だ。


 今までは鬱憤晴(うっぷんば)らしですんでいたごっこ遊びが本物になる。


 そうなればいよいよ官憲も黙っていないだろう。


 一瞬シェザードの脳裏に考えがよぎった。


 まさか中央官憲は彼らが勢いづいて一線を超えることを期待して自分を泳がせたのではないかと。


 思ったがすぐに自ら否定する。


 自分がメドネアに縁があったことなど官憲は知る由もないことでありこれはあくまでも偶然の産物なのだ。


 ともあれシェザードはエルシカに会い滞在の手助けを得たら早急に準備を整えて出発するつもりでいた。


 初めは官憲の捜査網を(あざむ)くのに丁度良い知り合いがいたと安易な気持ちで頼ろうとしていたがよくよく考えて見たら文通をやめた時の直観は当たっていたのだ。


 彼らにリオンが空を落とせる空の民である事やネイが魔法を使えるアシュバル人である事を知られてはいけない。


 争いの道具として利用されることは目に見えていた。


 裏口から屋敷に入り立派な廊下を行く。


 簡素ながらも威厳を感じさせる応接間に通されると彼はそこにいた。


 首都の学校に行くと書いた手紙に革命を臭わせる檄文を返してきた同年齢のはずの少年は背が高く、実際に会ったことがなかったシェザードは大人かと思ったほどだ。


 だが中年たちがシェザードを紹介する時に彼の名を呼んだので彼が目的の人物であるエルシカ・ロードであることが分かった。


 錦糸のような金髪を後ろに束ね貴族のような服装をした美男子である。


 ところが新雪のごとき柔和な白さのシュリとは異なり一日中部屋に籠っている者特有の不健康な青白さだった。


 それが神経質で近寄りがたい雰囲気を(かも)し出している。


 エルシカはシェザードを見据えると目を細めて口角を上げた。

 

「二日前、ベインファノスからこの町に政治犯が逃亡したと電話が届いた。そして今日、首都から同じ年頃の知人が尋ねて来た。私はこの二つの報告を受けた時に真っ先に君の名が浮かんだよ。シェザード・トレヴァンス。君だろう?」


「……持つべきもんは友だな。色々分かってるみたいだから話が早くて助かるよ。暫く(かくま)って欲しいんだが組織の代表に取り次いでくんねえかな」


「いいとも。だがその行為は省略できる。何故なら私がこのメドネアの星の代表だからさ。歓迎するよ、同志シェザード。盟友の方々もね」


 予想だにしなかった言葉が返ってきたことで周りの大人を見回してしまうシェザード。


 まさか十五歳の少年が反政府組織の代表をやっているなど誰が思うだろうか。


 手紙で革命だのと書いていたのは感化されていたのではなくさせる側だったというのか。


 素直に凄いと思ってしまったものの、メドネアの星という組織名の垢抜けなさに色んな意味で一層(いっそう)心配になるシェザードであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 地下通路、官憲の協力者など本格的な点もあってちぐはぐな印象があったのは彼らの学のなさから来ていたものだったのでしょうかね。
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