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逃亡10

「……おかしい。列車に乗ったのは確かだった。なのにこれほど探しても見つからないとは。市民どもの妨害があったのを差し引いてもあり得ないことだ。これは減速の時に飛び降りて逃げたとみて間違いなさそうだな」


「そ、それはあり得ないかと……」


「ああ、そうだな。あり得ないことだ。クロフォード、お前は軍でも稀代(きたい)の狙撃手だったはずだ。当然、観測手としての技量も確かなものだと思っていた。だから引き抜いたというのに実働でさっそく失態をやらかすとはな。一人で任せるべきではなかった」


「そ……そんな……私は……!」


 一方、メドネア行きの乗客が全員乗り込んだことを確認した官憲たちは所在なさげに立ちつくしていた。


 既に町人たちは中央官憲が誤認捜査ではるばるいるはずもない犯人を追ってきたのだと落胆し解散してしまっていた。


 夜にはきっと(あざけ)りの対象となって酒の席を(にぎ)わせていることだろう。


 計画通りではあったが代償を支払わねばならなかった。


 マーガスに責められていたのは急遽(きゅうきょ)捜査班に編成された若者だった。


 彼は郊外で望遠鏡を構え途中下車する者がいないかを確認する任を負っていた。


 道中でマーガスが関心する度に得意げになって大会での成績などを豪語していた者と同一人物とは思えないほどの(ちぢ)こまりぶりである。


 確かに大勢の目があった駅より彼一人の目のほうが信用ならないのは確かだが、どちらも間違っていないのではないかと誰もが思っていたが口には出せなかった。


 ならば学生は一体どこに消えたのだろう。


 ベインファノスの駅に残った官憲たちからも発見の報は届いていない。


 むしろあの駅こそ周囲を畑などに囲まれていて他に逃げられる場所などない。


 奇妙なこともあるものだが軍出身の若者の失態だと決めつけるマーガスはまあいいと冷たく言い放って次の行動に移った。


 デルヤークでの捜査は所轄に任せ、班は二手に分けられた。


 学生たちの逃亡先は予想がついているので最終的に国外へ逃げられる前に抑えれば良いのだ。


 万が一、天文都市メドネア方面に逃げていたとしても北の大陸に渡るにはギヨム海峡を超えなくてはならない。


 その渡しの港さえ押さえてしまえば奴らは袋の鼠だった。


 道中のビゼナルでもやることがある。


 執念深い捜査官はどうやら状況を楽しんでいた。


 漠然と抱いていた夢に手が届きそうな今、柄にもなく感情が(たかぶ)っているのだ。


 空を見上げたマーガスの瞳は玉虫色の(もや)の向こうにあるものを見据えているかのようだった。


 その様子を見守りながら未だ(もや)に包まれた状況の者たちもいた。


 地方官憲のベンジャミン・オブゲン巡査部長と新人のグレッグ・ハンマヘッド巡査である。


 少年は政治犯という形で指名手配されたのだからもはや自分たちは完全に管轄外だ。


 いつの間に中央官憲に再編されたのか分からないが、指令を受けるわけでもなくただ連れまわされる状況は不可解でしかなかった。


 少年との面識も一度切りなので自分たちが逃げる少年の情に訴えられるとも思えない。


 犯罪捜査の専門家が集まるマーガスの班に自分たちのような田舎の駐在がいることは足手まとい以外の何ものでもないだろうに。


 マーガスは少年を泳がせているのではないかとオブゲンはグレッグに語った。


 理由はアシュバル人の存在だ。


 彼らは遥か昔にロデスティニアで大きな犯罪を起こした前科がある。


 迷宮の出入り口の一つで確保した特殊な自律駆動や化身装甲なども今までにないことであり、水面下で動いていた何かが隠しきれないほどに膨れ上がったのは確かだった。


 少年のような末端ではなく大元を引きずり出すことがきっとマーガスの目的なのだろう。


 だが、何故そこに自分たちが居合わせなければいけないのか分からず不安は募るばかりであった。


 シェザードたちは北東に。


 マーガスは北西に。


 そしてオブゲンとグレッグは北東に進む班に入れられた。


 数日後、天文都市メドネアで大きな事件が起きようとしていることも知らず各々は分岐の町から旅立っていくのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 確かにあれだけマーガスのやり方に反発したりと邪魔そうなのを連れていくのは謎ですね…
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