万を数える妄執とただ一つの願い10
切りどころを見失ったので変な切れ方かもです。
リンカーネーションモンスター、暴聖のエイブラハム。
3万年を娘のために生きたこのモンスターの本質は「収奪」である。
不自然な方法で寿命を伸ばす魔術、《命の糧》。
他者からPOWを奪う魔術、《アザトースの呪詛》。
この2つの複合により、蜘蛛部分を構成する元人間達から寿命を徴収し、彼は幾星霜を生き延びてきた。
第1形態では外敵の放つ生命力を糧に、軟泥…正式名称「不定形の軟泥」を維持。
第2形態では不定形の軟泥の捕食を介し、攻撃を当てた相手から徐々にステータスを奪うことにより自身を強化していた。
ならば。
ならば寿命の維持に使われていた生命力。その全てを戦闘に回した、文字通り決死のエイブラハムの力はどれほどのものとなるのか。
その答えが今、コロナ達の前に顕現する。
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第3形態になったエイブラハム。全体的には第1形態と大差ありませんが、蜘蛛部分に加え人間部分も腐敗し始めています。これは崩壊終了まで耐えるパターンと考えていいでしょう。
ただ…どうも最終形態がただ耐えるだけというのはしっくり来ませんね…とりあえず様子を見ましょう。
「さーて、最終ラウンドです。どこからでも掛かって…」
「〈肉腐吹〉」
「みょっ!」
「〈肉腐吹〉」
「ひゃっ!」
「〈肉腐吹〉」
「ほっ!差し引き悪化してるんですがぁ!?」
正面からの腐肉を右へ回り込んで回避、その先にエイブラハムの肩から放たれた〈肉腐吹〉が目に入ったため跳躍。着地狩りに背中から3度目の腐肉が放たれますが、これは叢雲でいなします。
「いやぁ、第3形態だからさっきより強いのは当たり前なんですがこれはちょっと…。」
「〈焼焦腐蝕〉」
「据え置きィ!?ばふっ。」
軟泥が倒されたことで通常スキルに戻ったのはいいのですが、代わりにスキルが全身どこからでも飛んでくるようになりました。
全身の口から噴き出した酸の霧。非常に広範囲なそれを避けきれず、私は霧の中に飲み込まれますが…
「…あれ、なんとも無いですね。」
夜宴礼装は溶けた、叢雲はなんとも無い、私自身もなんともない。と、なると…
「なるほど、装備破壊効果ですか…。」
叢雲は恐らく生物判定なのでしょう。クトゥルフの星の落し子に変身することや、称号[狂気を飼い慣らすもの]から考えて間違い無いと思います。
ヌトセ=カームブレのアミュレットは…なんともありませんね。相変わらずの謎アクセサリです。
「〈蟻獄陣・渦潮〉」
「こっちも据え置きですか!」
〈焼焦腐蝕〉と同じく第2形態から据え置きのスキル。ただ、こちらは足元以外から放たれることはないので先程と同じく前方への突進で対処します。
据え置きなのは軟泥が絡んだ攻撃では無いからでしょう。〈肉腐吹・開花〉は腐肉と軟泥のマーブルでしたからね。
つまりこれまでの情報を繋ぎ合わせて見えてくるのは…
「〈焼焦腐蝕〉は極デレ行動、〈蟻獄陣・渦潮〉〈膿旋病旋〉はデレ行動、〈肉腐吹〉はツン行動ってことですね。」
「…コロナ、スイッチ、する?」
んー、総評としては実は第2形態より弱い…?いえ、肉腐吹連打は辛いですが。兎も角、これならマイカでも問題なく回避できそうです。
「お願いできる?」
「…了解。」
そういうとマイカはパッシブスキルを起動し、流石の速度で駆けていきました。
よーし、やっと高みの見物だぁ!
「〈焼焦腐蝕〉は私以外には効果あるから気をつけてねー。」
「…分かってる。」
「〈膿旋病旋〉」
高速で接近するマイカに対し、エイブラハムは距離を取りつつ旋回。腐液で牽制しつつ…っ!
「マイカッ!」
「…っ!分かって、るっ!」
「〈肉腐吹〉」
マイカは第1形態の倍程の距離を飛散してきた腐液を急ブレーキの後に前方斜め上に向け跳躍して回避し、さらに接近。
それを見たエイブラハムは空中で回避行動の取れないマイカに向けて腐肉の奔流を放ちます。
もちろんのことマイカは回避できませんが…
「ここで私の出番!」
「…ナイス、タイミング。」
少し離れたところで待機していたトーカがマイカのもとに転移、今度はマイカとともに転移してエイブラハムの背後を取ります。
あとはここに最大火力を叩き込むだけです。
「ぺぺさん、いけますね?」
「当たり前だろーが。【コラブジアス・レプリンカント】!」
第1形態を撃破する際にも使用した強化魔法【コラブジアス・レプリンカント】。
その効果は上限を20倍とし、対象の次の攻撃の火力をX倍するというもの。詠唱には(1+2+…+X)×10秒かかりますが、効果は絶大です。
今回の詠唱時間は35分、最大効力です。
「…くら、えっ!」
ステータスを4倍に伸ばしたマイカの双剣が、2本同時にエイブラハムの腰に食い込み…
ブシュウウウウゥゥゥウウウ!
「「…っ!?」」
瞬間、傷口から火山の噴火のように腐肉が噴き出しました。腐肉の体積は明らかにエイブラハムのそれを超えており、部屋の一角とともにマイカとトーカを飲み込んでいきました。
うわぁ、何ですかあのオートカウンター機能、受けたくないなぁ…。
「…酷い目に、あった。」
「お姉ちゃん、あれメッチャ臭いよ!」
「でしょうね。」
HPがミリ残りの2人が隣に現れます。どうやらギリギリで転移に成功したようです。
エイブラハムの方は…
「…腐敗が、進んでる?」
「進んでるね、それもかなり。」
決まりですね、最終形態は耐久ゲー、ダメージを重ねることで時間を短縮できる、と。
ただ…
「最高火力を叩き込んでもまだ半分ですか…。」
「コロナ、どうやらそれだけじゃないみたいだよ。」
ロンチーノさんが指をさした先では先程噴き出した腐肉がモゾモゾと動いています。これは確実に何かありますね。
というよりも、
「ロンチーノさんいたんですね。」
「それは酷くない?たしかに第3形態相手に何にもしてないけど。」
「私も何もしてないので大丈夫ですよ!」
「ラピスがやること無いのは良いことだから慰めになって無いなぁ!」
やっぱ過去の亡霊は自壊しなきゃダメだよなぁ!