ゴッドファーザー!
ああ、今日も、18時間労働かぁ。疲れ切って、家に着くと、母さんと英明の大声がした。何かあったのか。急いで、車を降りて、二階へと上がる。すると、英明が黒いダブルのスーツを着込んで、髪型をオールバックにしては、煙草を吸ってワインを飲んでいた。
「父さん、英明が」
「母さん、ここは、男同士の話を英明とさせてくれないか。大丈夫だから。うん。母さんは下へ行ってなさい」
すると、英明は学生服に着替えては、下を向いた。
「英明。いつも、言っているだろうが。煙草とお酒は二十歳になってからだと」
「うん。ごめんなさい」
「はっはっ、はっ、は。英明、わかってくれれば、父さんはいいんだ。そうか。そうだよな。お前も、もう、中学三年生だもんな。こんなことをする歳になってたのか。やれ、どんなものを見て、ゴッドファーザーしてるんだ。ちょっと、父さんに見せてみなさい」
英明はベッドの下からDVDを取り出した。
「ほう、『マフィア映画のすべて』『スクリーンのNG大賞』『新、イタリア』。こういうものを見て、ゴッドファーザーしているのか。英明、こういうものは、最近、簡単に手に入るのか」
「普通に、レンタルビデオ屋に置いてあるんだ」
「ほう、そうなのか。父さんの頃はな、こういうものはなかったからなぁ。ずっと、想像でゴッドファーザーしてたよ。やれ、アルパチーノだ、やれ、ロバートデニーロだ、やれ、マーロンブロンドだ。やれ、フランシスフォードコッポラだ。英明、違うんだ。父さんはな、ゴッドファーザーしちゃいけないと、言ってるわけじゃないんだ。勉強を一生懸命、頑張って、その合間に、ゴッドファーザー。それは、むしろ、アカデミー賞にとって、良いことなんだ。ベネチア国際映画祭の盛り上がりのためにもな。ただ、ゴッドファーザーするときは、スーツを着込んではいいが、煙草と赤ワインは絶対にやめるんだぞ。なにかあった時に、責任がとれないからな。自分で責任をとれるマフィアになってから、ゴッドファーザーとして、世界に君臨するんだぞ。いいな」
「それは、わかってるよ」
「英明、わかってくれたか。まあ、英明、父さんがな、やれ、アルパチーノだ、やれ、ロバートデニーロだ、やれ、マーロンブロンドだ、やれ、フランシスフォードコッポラだと、想像でゴッドファーザーしていたことは、母さんには内緒だぞ」
「うん」
「さあ、母さんも待っていることだし、下へ行って、ご飯にしよう」
「母さん、許してくれるかな」
「大丈夫だ、英明。きちんと、前売り券を1200円で購入してゴッドファーザーするんだぞ」
「うん」
「踏ん張って赤いじゅうたんの上をゴッドファーザーして、歩くんだぞ。映画界は、想像以上に厳しいものだからな」
「うん」
「おい」
ムラムラ。英明が。父さんも映画館に、久々、行きたくなった。凄い世界だ。ゴッドファーザーか。流れる血は同じだからな。




