素直になれない日常
それは、ある休憩時間スマホを見てるヒバちゃんに声をかけた時……。
みんなこんにちは! 喫茶アンドロイドの看板娘ことモミです‼︎
いずれは店ごと私のものだけど今はまだ様子見だね(*´ω`*)
今日は謎に包まれたマスターの1日を暴露しちゃうよ!
朝のマスターはなんだか眠そう(-_-)zzz
モミさんがしっかりしてないとすぐに注文忘れちゃうし、まるでポンコツロボットだよ( ´Д`)y━・~~
反面、昼は人が変わったように働き始める。コーヒーの味も朝よりは良くなってきてそこら辺の店と変わんなくなってくる。この辺りからちょこちょこピッチャーのオイル飲んで休憩してるのはきになるけど、まぁ寛大なモミは許してあげるのです( ̄^ ̄)
夜のコーヒーを淹れる手つきはまるで精密機械……この時の味だけは本当に美味しくて感服しちゃうんだよ(`・∀・´)
仕事が終わるとマスターは明日のためのメンテn……睡眠を取るのでけっこう働き詰めの人なんだよね。
以上がマスターの1日でした☆
「へーそうなんだ、見なよモモちゃん。マスターって本当ロボットみたいな生活してるんだねー」
「え、ヒバちゃん違くない?感銘受けるのそこじゃないんじゃない?もっとこうモミさんが……ねぇ?ツガっち」
「そうだよヒバ、マスターがロボなのは言っちゃダメなやつだぜ。まったく、夢を信じてるちびっ子に聞かれたらどうするんだ。
サンタクロースだって、ネッシーだって信じる者の味方なんだぜ」
「そうだった、ゴメンツガっち私が間違ってたよ!そうだよね、マスターは美味しいコーヒーを作ってくれる只の優しいおじさんだよね」
その通りと頷くツガっちの横で私の疑問はまるで無かったことのように過ぎていく。
なんなの?モミさんのキャラってそんなに有名だったの?
例えばそれは、午後の授業が始まるまでの退屈な時間。
弁当をチビチビ摘まむヒガシの前でシンジは腕を組み、真剣な表情で考え込んでいた。
しかしそれを気にする様子はヒガシには無い、シンジが訳の分からないことを深く考えそれを口に出すのはいつものことであるためだ。
「なあヒガシ」
「どうした?」
シンジは顔の前で手を組み、深く祈るように目を閉じ聖句を唱えるように静かに言った。
「モテたい」
「そうか、頑張れ」
シンジは思案する。
頑張れ、だと?
彼は一体何を頑張れというのだろうか?状況を整理しよう。目的は『モテる』だがこれだけでは条件が不十分、さらに整理。男にモテても意味がない、もちろん異性だ。だが異性に好かれるにはどうすればいいのか?それは答えの無い問いといっても過言でないのでは?もちろん傾向はあるだろう、顔のイケてる奴、金がある奴、運動の出来る奴etc……だがしかし
「あー、何考えてるか分かんないけどさ」
「手があるのかヒガシ!?」
「いや、5時間目始まるぞ」
こうやって青春は築かれ、見方によっては浪費される。
戦国甲冑部、それは武将たちの誇る鎧兜に魅せられた少年少女が集い、日々それについて熱く語り時に愛で時に身に着ける、研究会などとは一線を画す超実践的な部活動なのである。
しかし、この度我々戦国甲冑部は創部以来最大の危機に直面していた……。
「ハンザカさん!何でウチの部の今年の予算半分になってるんですか?この前生徒会の人達には頼んできたって自信満々な顔してたのに」
「そうですよ!接待に次ぐ接待で忖度して下さいネ!ってゴマすってきたっていってたじゃないですか」
ヒゲを逆立て訴えるトネリコに頭が馬、胴体が人というありえないバランスのキモ生物になっているウタシロ。彼らの訴えを前に俺は我が部の目下最大の敵を示した。
「諸君らの言いたいことは十分にわかる、しかしだ。この予算は俺の努力不足などではない、ライバルが現れたのだ」
2人は揃って不思議そうな顔をする。
「あちらさんも予算に納得がいかないようでな、お互いの予算をかけて勝負をすることが決まった」
2人は神妙な顔で話を聞いている。
「その相手は……」
(´∀`)ワクワク
「西洋鎧研究会だ」
(ーー;)……ドコ?
「奴ら今までは同好会だという事をわきまえて予算の請求などしなかったんだがな……。
俺たちがマラソン大会で目立ったのが癪だったんだろう、急に正式な部の申請をしてきやがった。しかもだぞ!ウチの生徒会も何をトチ狂ったのか知らんが奴らの申請を通しやがってな……」
「あのつまり」
俺の熱烈な訴えをやや呆れたような声で遮ったウタシロはそのままの口調で続ける。
「同じような部活が足の引っ張り合いしてるだけなんですか?」
そうともいうだろうと頷いた俺をウタシロもトネリコも落胆したような顔で見つめため息を吐いた。
「日程は1週間後、それまでに準備を整えるぞ」
こうして彼らの戦いが始まった。
1年の教室、すでにこの街で15年も生きてきた者たちにはなんてことない日常が過ぎていくだけだが、今年引っ越してきたミチカケにとってこの教室は入学から3か月経った今でも少し異様に感じられた。
「そんなに何を悩んでいるんだい?」
「ヤダマか……」
ミチカケは教室を見回す、だいたいクラスの9割くらいは人の形をしている、言い返せばクラスの1割は人の形をしていない。
残り9割をよく観察する、だいたい2割くらいが何か変なものが付いているか、何かが足りない。
残った70%を見る、だいたい10%くらいは色が変だったりする。緑色の髪の女生徒はきっと葉緑素か何かだろうとミチカケは思う。
残った60%、ミチカケは隣のヤダマを見た。
「僕の顔に何かついてるかい?」
「いや、いつも通りの丸顔だよ」
「そんなに褒めないでくれよ、照れるだろう」
「誉め言葉なのか……」
ヤダマはまんまるとした体形だが、探せば普通に見つかるレベルの丸い体形だ。
しかしミチカケはこの前のマラソン大会で彼が明らかに体の体積より多い量のパンを食べていたのを目撃している、さらに言えばパンを食べることができたミチカケはあのパンが決してスカスカなパンではなかったことを知っている。
このように残った60%も、だいたい15%くらいはもう既に並外れたナニカを目撃している。きっと残りもまだ見せていないだけでどこかがアレなのだろう。
「常識って何なんだろうな?」
「個人を形成する一部さ」
若者には悩みが多いが、彼の悩みはきっと都労に終わるタイプの悩みである。
「……俺、スカイダイビングとかやってみようかな」
「いいんじゃない?確かイグルマ先輩が得意だったはずだから教わってみたら?」
「……もう既に居たのか」
彼の考えた渾身の個性的な考えはいとも容易く砕かれることとなった。
『第一回!チキチキ部活対抗予算奪取大会!司会は私、イヌマキ医院のアシバナが担当しますね!きゃはっ♪』
「いよいよ、だな」
体育館の舞台上、戦国甲冑部部長ハンザカは脇差に手を携えた。
「部長、落ち着いてください、不意打ちは武士道に反します」
「ああ、分かっているさウタシロ」
ウタシロは全身馬の姿で鞍をのせ、背には武者式フル装備のトネリコを背負っている。
「この1週間、とりあえず合戦の練習を行ってきましたけど、先輩方一つ質問良いですか?」
「「なんだ?」」
「何を競うか生徒会に確認したんですか?」
「いや、していないが、戦国甲冑と西洋鎧だぞ?ならば“いくさ”しかあるまい」
自信ありげに断言するハンザカを見て、ウタシロとトネリコの背には冷や汗が流れた。
『部活対抗と言っても参加する部活は2つしかないのでちゃきちゃき進めますね~』
「いよいよ、ね」
戦国甲冑部とは反対の体育館の舞台袖で、西洋鎧研究会会長のオオサキは大きな息を吐いた。
「会長落ち着きましょう。我々の信ずる騎士道を貫けば神もきっと味方してくださる事です」
「分かっているわ、ありがとうガーシッドリンデル」
ガーシッドリンデルは白い長髪をファサっとかきあげ、黒縁眼鏡を直した。
「この一週間徹夜に徹夜を重ねて猛勉強してきたわけですけど先輩達、1つだけ質問いいですか?」
研究会唯一の一年生マエカワは躊躇いがちに今日まで抱えてきた疑問をぶつけた。
「本当に今日の対決ってクイズ大会なんですか?ちゃんと生徒会に確認しましたか?」
そういえば、とガーシッドリンデルもオオサキの方を向く。2つの視線に見つめられる中オオサキは自信満々といった表情で答えた。
「いいえ」
唖然とする2人にとつとつと理由を語る。
「けど考えてみてよ、あのテキトーな生徒会の決めた競争よ?しかも私たちは専門分野の違う戦国甲冑と西洋鎧。
お互いの知識を比べるクイズこそ最も公平で意味のある勝負と言えるじゃないの」
そう断言するオオサキの様子に冷や汗を流す2人。そもそもこの予算の取り合い自体、オオサキのワガママが発端となっているのである。彼女が無計画に研究会を振り回すのはいつものこと、いつものことであるが……。
『部活対抗と言っても参加する部活は2つしかないのでちゃきちゃき進めますね~』
先の見えない戦いが、今始まる!
『さぁ始まりました予算奪取大会。参加するのは先日のマラソン大会で大いに目立ち新部員の大量獲得に期待する戦国甲冑部!
対するは、まるで対抗するかのように甲冑部発足の一週間後に突如創立され今日まで活動してきた西洋鎧研究会!』
「久しぶりだなぁオオサキ‼︎その右手に持ってる本はなんだ?今回の対決がまさかただのクイズ大会などと勘違いしてきたんじゃないだろうな。
フンッこれだからアマチュアは……」
「ウタシロ先輩、部長とオオサキさんって同じクラスなんですよね。久しぶりってどういう……?」
「しっ!黙ってろトネリコ。この2人は色々とややこしいんだ」
「あらあら?そういうあなたこそ脇差しなんて持ってきちゃってどうしたのかしら。
まさか私たちの勝負が合戦か何かだとでも?この文明の進んだ時代になんとも時代錯誤なことね。
これだから旧時代のお猿さんは……」
「ガーシー先輩、会長てなんでハンザカさんの前だとあんなに早口になるんですかね」
「マエカワ……沈黙は金と申します。会長達には会長達なりの理由があるのです」
『対決するのはこちら‼︎クジ引きです』
「「ク、クジ引き!?」」
ハンザカ、オオサキが揃って口を開ける後ろで付き添ってきた4人はやれやれといった顔で話していた。
「そんなことだろうとは思ってたけど……」
「あ、甲冑部さんもそうでしたか。実はウチも」
「あっやっぱり?お互いトップには苦労してますねー」
『やはり公平性に定評がありますからね、これは。さっどっちを引きますか?
ササっと終わらせてしまいますよー、生徒会から予算案を早めに決定したいと言われてますので』
茫然自失といった感でフリーズする2人を見かねてウタシロとガーシッドリンデルが代わりにクジを引く。
「あっ外れた……まぁ予算なんて別に半分くらいしか使ってなかったからいいか」
「おっ当たりだ!
ありがとうございます甲冑部さん。予算を譲ってもらった感じになっちゃって」
『という事で第一回!チキチキ部活対抗予算奪取大会は西洋鎧研究会の勝利という決着となりましたー!皆さん次回ご期待ください‼︎』