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プロフェッショナルな日常

みんなこんにちは!今日も張り切って働くカリスマ従業員ことモミです‼︎

夢はマスターから店を奪い取って独立すること、その為に今日も技や客をマスターから盗みまくるよ(`・ω・´)


今日のお客さん、1人目はいつものおじいちゃん。この人は唯一マスターと私のコーヒーを飲みわける曲者。今日も入れ替えたのを見破られたあげく、深みがないって言われちゃった( ;∀;)

きっとおじいちゃんはラスボスなんだよ、他のお客さんなんて私のコーヒーの方が美味しいっていう人もいるくらいだもん。きっとそう


2人目はなんて事のないカモ……じゃなくて学生さん2人組ね。この2人もよく来るね。名前はシンジ君とニシくんだったかなー

シンジ君はおじいちゃん子だから微妙に手強いけどニシ君の方は完全に私の虜だね(°▽°)

コーヒーの味の区別が全然つかないみたい、簡単な攻略対象だぜ!


3人目は幼馴染のスズキ君、外見で誤解されることも多いけど良い人だね。

それに今、スズキ君には店の乗っ取りの手伝いをしてもらってるからね、今日はサービスしちゃうよ‼︎

ホイップクリームとシュガーを溶けるまで入れまくって若干コーヒーが白いモミさんスペシャルだ(((o(*゜▽゜*)o)))

でも、すごく美味しいハズなんだけど何でか微妙な顔してたなー


4人目はツガちゃん。おじいちゃんのお孫さんで夕飯時になったら呼びにくる。この子を堕とせばおじいちゃんも私を贔屓してくれると思って頑張ってるんだけど、この子が一番天敵かもしれない(ノ_<)

今日もファスナー引っ張られて危うく中身が出ちゃうところだったよ……おじいちゃんDNA、ここでも私に牙をむく(T ^ T)




……何だろう、街の行事予定を探してたらとんでもないブログを見つけてしまった。モミさん、こんな事考えてたの?何で俺だけ名前覚えられてないの?

釈然としないこの気持ちどうしてくれようか。


「おーい、遊びに行こうぜ!」


外から見るシンジの声がする、そうだな気晴らしは大事だ。何となくモヤモヤするこの感じを払いのけるには遊びに行くのが一番だ。


「シンジか、いいぜどこ行く?」


「やっぱり喫茶アンドロイドだろ!またマスターのコーヒー飲みに行こうぜ」


喫茶アンドロイドか……


「おいシンジ、もしかしたら俺たちマスターのコーヒー飲んだ事ないかもしれない」


「何言ってんだ?」


いや、語るまい。シンジは何も知らない方がいいだろう……。モミさんの恐ろしい本性、真実を知るのは俺1人でいい。

何としてもモミさんにそこら辺のモブとしてでなく、東として認識してもらうんだ‼︎

思えば、これが俺とモミさんとの不毛な争いの日々の始まりだった。



p.m.21:50


街の喫茶店、『アンドロイド』。営業時間は朝6時30分~夜10時まで、定休日は日曜日の大きくはない店だ。

今はもう閉店前、常連客の姿ももう既になく、マスターとアルバイトのモミの二人がのんびりと店じまいの支度をしていた。

ふと、モミが皿を洗う手を止めた。


「今日は来そうですね」


「おや、そうなのかい?もっと早く言ってくれればしっかり準備していたんだがなぁ」


モミは口元に手を当て思案する。

それをマスターは訝し気に見つめながらもすぐに切り替えて作業は止めない、彼は基本的に面倒見のいい人間ではあるが、それ以前にこの喫茶店の主であるから仕事優先であるし、モミの考えもそう生活に響きそうに無いようなので黙って流す。待つのは彼にとっての良い男のルールなのだ。

少しの逡巡の後、モミが口を開いた。


「……彼らは毎晩来ていますよ」


「そうだったのかい?でも彼らが来るのは週に1,2回くらいじゃないか」


「それはですね……」


「「頼もう!」」


店の扉が勢いよく開いた。

入ってきたのはスポーツウェアの高校生二人組、ヤマノウチとその先輩、タルキだ。


「いらっしゃいませ」


「プロテインコーヒーを2つ頼む!」


「かしこまりました」


マスターがちゃきちゃきと注文の品を淹れる。

その間、客の二人は自前のタオルで顔を拭き、席について一息ついていた。


「ヤマノウチ!今日は僕のおごりだ!」

「まじっすか先輩!あざっす!」

「ああ!今日は新記録も達成したしな!」


彼らは陸上部、それ故に夜遅くまでこうして自主練習をした後、この店で一息ついて帰路を辿るのが日課であった。


「おまたせしました。ご注文のプロテインコーヒーです」

「「ありがとうございます!」」


「会計お願いします!」

「1040円です…はいちょうどですね」


「「ごちそうさまでした!」」


ゴクゴクと競うようにコーヒーを飲んだ彼らは、手早く会計を済ませ店を出て行った。


「相変わらず嵐のようだねぇ、それで?」


「彼ら、あのように練習熱心な子たちなので」


「なるほどね、ここに来るときにはもう10時を過ぎているというわけか」


カップを洗いながら、マスターは少し考えた。そしてすぐに考えるまでも無いことだと思い至った。


「よし、閉店時刻を11時に変更しよう」


「だからあまり言いたくは無かったのですが」


「大丈夫、モミちゃんは今まで通り10時に切り上げてくれて構わない」


「付き合いますよ」


「OK、給料はその分支払おう」


「構いません、ですが…」


「なんだい?」


「バリスタの修行、お願いします」


「ご注文承りました。じゃあ10時から1時間レッスンを設けようじゃないか、彼らはすぐに帰ってしまうからね、時間はたっぷりある」


そう言って彼は微笑み、杯を煽った。

仕事終わりにはいつも一杯のオイルで締める、それが彼の仕事の流儀である。





「坊ちゃん、今日もお出掛けですか?少しお待ちを、料理の仕込みが終わったら私もお伴します」


「必要ないぞ、クラシナ。というかついてくるんじゃない!

吾輩は孤独と冷徹な視線光る探偵ぞ。邪魔をするでない」


そう、道に会話が響いたと思うといつぞやの自称探偵が今度はプロペラの取り付けられた安楽椅子でホバリングしながら文字通りに飛び出してきた。ジンベエザメもかくやと言うほどに俺はあんぐりと口を開け、彼を見送る。


「いや、見なかった事にしよう。どうも今日は調子が悪いようだ、さっさと家に帰ろう……」


だがしかし、悲しいかな世で探偵が外に出ると言うことはすなわち事件の発生を意味する。頭脳が大人な小学生でも、推理力ゼロのエセ探偵でもそこだけは共通なようで彼らは事件の数には困らない。

問題なのはそこに俺が巻き込まれてしまったことだ。




「またお前か?ヒガシ、だが安心しろ今回吾輩はキサマを犯人と疑ってはいない」


……そりゃあ、そうだ。初めに事件の被害者から疑い始める探偵は廃業モノだろう。


「いいか、取り敢えず初めから事件を振り返ろうではないか。

そうあれは吾輩がヘリ型安楽椅子で街の見回りをしていた時に起こった。

…スズキ君」


「はい」


「うわっ!いつの間に…」


先ほどまで俺とタガヤの二人だけだったはずなのに、コイツがスズキを呼んだかと思えばスズキがそこにいた。

スズキはいつものチャラそうな格好に鉄面皮ともいえる仏頂面で、これまたいつ作ったのか分からないレポートを持っている。


「ふははははは!一流の探偵には一流の助手が付き物、そして一流とは時と場所を選ばないのだよ」


正直一流なのは助手だけだと思うが、その一流が強い意志を持って此方の目をまっすぐ見てくるものだから口に出すことはできない……

……コイツ、やはり客を満足させることにかけてはプロだ。流石不満があったら全額返却を掲げているだけはある。


「話を戻しますね、今回の傷害事件の被害者は3人

一人目は生体パーツ屋の店主『桃ノ木』氏、重症ですが、彼はすでにメイジ製作所(有)に搬送済みなので大事には至らないでしょう。

二人目は〇×高校の生徒である『トネリコ』氏、擦り傷程度の軽傷ですが念のためイヌマキ医院に搬送済みです。

三人目は言わずもがなここにいる『東』氏、被害はありませんので未遂です。」


「ふん、感謝するんだなヒガシ、お前は吾輩のおかげで無傷でいるのだからな、それで犯人は…」


「癪だけどその点は感謝してるさ、けどさ、この状況で推理って必要か?」


「最後まで聞け、様式美というのもあるだろうが。まあ吾輩のこの灰色の脳細胞が活躍しなかったのは残念ではあるがな」


タガヤは深く目を瞑り、顎に手を当てる。なまじ身振りや服装、外見は良いせいでこのワンシーンだけを切り抜けば優秀そうなやつに見えるが、油断してはいけない、コイツは方向性こそ違うがヤマノウチと同レベルのバカだ。


「この連続傷害事件の犯人、それは貴様だスズキ!なぜなら生体パーツ屋の店主ほどの戦闘力を持つ者を倒せる輩など吾輩は貴様しか知らん!」


ピシッとスズキを指さしたタガヤは「決まった…」とでも言わんばかりの表情だ。

だが違う、そうじゃない。どうして貴様の目には指さしたスズキの背後でお昼寝する桃ノ木さんの腕部パーツを咥えた桃ノ木家の愛犬ハナちゃん(犬種:ギガントレトリバー)が見えんのだ!

思わず叫びそうになるが、スズキに手で制される。


「ふっ、ばれてしまいましたかタガヤ先生、ええ私がこの事件の犯人です」


「お前何を…」


「潔いのは良いことだぞスズキ、さあ縄につけ、警察に引き渡す!」


「しかし…」


ドロン、と白い煙が巻き起こり、静まったかと思うとそこにはタキシードに仮面、シルクハットといったいかにも怪盗っぽい格好をしたスズキがいた。これは顧客(タガヤ)満足度100%で間違いない。


「私には仕事がまだ残っているのでね。今回はここらへんでお暇させていただこう!さらばだ名探偵タガヤ!」


「待てー!」


スズキはハナちゃんにリードを付け、桃ノ木さんの腕部パーツを奪い取り、それを餌にハナちゃんとともに走り去っていった。

それをタガヤはプロペラ付き安楽椅子で追いかけて行き、あっという間に見えなくなった。


「……なんだこの茶番」


とりあえず家に帰ろう。


この日の夜、布団の中でさあ寝ようとした時、ふと脳裏に掠めたものがあった。

……そもそも俺は何故あいつらを知っていたんだ?タガヤもスズキも出会ったのは今日が初めてのはずじゃ…

そのとき何かがヒラリ、掛けてある学ランから零れ落ち、俺の前を過ぎて行った。


『手伝い屋 スズキ

家事、雑用、料理、護衛、レポート・資料の作成等々、24時間幅広くお手伝いいたします。

料金は要相談、万が一当社のサービスに不満があった場合は全額返金致します。TEL XXX-XXXX』


何だ…?これは…?俺はこれを……知っている?



―――――――――――プツリ。



「やっぱり素人じゃ無理がありましたかね、イヌマキ医院に予約を入れて適切に処置しなければ……」


「………“仕事”は完璧にこなさなければならない」


闇夜に紛れ、男が一人、呟いた。

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