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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

新兵少女の初任務~兵士志望だったのに特殊工作隊に配属されて不満です

第1回『11枚小説』コンテストの応募作です。
「歯車」というお題をもとに、文字数4,000字から4,400字までという制限の中で書きました。
「門が突破された!」

 未明の暗闇の向こうより、レーザーガトリング砲の掃射。のうしやへいから上体を出して迫りくる敵を迎え撃とうとしていた兵士達が、赤い光線に貫かれ、体中を穴だらけにして死んでいった。

「くそっ! くず鉄どもめ!」

 屈んで遮蔽の陰に身を隠していた兵士が悪態をつく。

「そのまましゃがんでいて!」

 別の兵士が手中のしゆりゆうだんのピンを抜いた。敵方へ放り投げ、伏せる。
 プラズマ手榴弾がさくれつし、緑の閃光が闇を照らした。
 とりでの門の外から波のように押し寄せる政府軍のロボット兵器達の姿が一瞬露わになる。人間と同程度の全長、暗闇をものともしないセンサーを備えた頭部、先端に銃器が付いている腕部、走破性の高い履帯の脚部。
 プラズマ手榴弾によりロボットの繊細な電子回路がいかれる。10体程度が動作を停止した。
 しかし、恐れを感じることのない後続のロボット達は歩みを止めることなく押し寄せてくる。両腕のガトリング砲を斉射し、兵士達が隠れている遮蔽を削り始めた。

「後退! ポイントゴルフまで援護し合いながら下がれ!」

 兵曹の指示が飛ぶ。防衛のために構築された砦は、革命軍の兵士達が無事に後方へ下がることを可能にしている。

「ちくしょう、敵が多過ぎる! 援軍は来ないのか?!」

 後退している兵士の1人が自棄やけ気味に叫んだ。

 それを耳にした少女が足を止めた。砦の内庭に積まれた大きな資材の陰に隠れて移動していた2つの影の1つだ。長い金髪を後頭部の上の方でお団子に束ねた背の高い美少女、名をヴィクトリアといった。
 彼女が味方の援護へ飛び出さなかったのは、ひとえに所持している兵器がレーザーピストルであったからだ。携帯性には優れるが、お世辞にも火力が高いとは言えない。
 猫目の上のまゆり上げ、前を歩いている上官を憎々しげににらむ。
 その上官が突如足を止め振り向いた。慌てて表情を消す。

「立ち止まっちゃって、どうしたのー?」

 間延びした声で上官である小柄な女性が問う。ウェーブのかかった黒髪が彼女の童顔を縁取っている。

 横の惨事を何とも思っていないような雰囲気に、ヴィクトリアの怒りが燃え上がった。

「ライネさん、なぜ私達はこんな所でこそこそとしていなければならないのですか。仲間達があそこで戦い、助けを求めているのですよ」

 正面から美少女の怒りを受けても、ライネと呼ばれた童顔の女性は「仕方ないなあ」とでも言いたげな穏やかな表情を浮かべている。それがますますヴィクトリアをいらたせる。

「落ち着いて。あなたが配属されているこの部隊は何?」

 ヴィクトリアは言葉を詰まらせた。端正な顔が苦々しげにゆがむ。

「……特殊工作隊、です」

「そう。私達は特殊工作兵。今回の任務は急襲してきた政府軍のかくらん。正面から戦うことではない。分かっているよね」

「ですが、すぐそこで仲間が死んでいるのですよ!」

 部下が大きな声を上げたので、ライネは鋭い目で周囲を確認した。戦場の騒音のおかげで、彼女の高い声音は敵に届かなかったようだ。

「仲間の死を黙って見過ごして、くだらない細工でもしに行くんですか!」

 ヴィクトリアは今回の任務について詳細を伝えられていなかった。配属されたばかりの新兵には教えないのかと、これも彼女が腹を立てている一因だ。
 ライネは静かに目を細めた。

「ヴィクトリア、私達革命軍の標語は?」

「え? よく磨かれた歯車たれ、ですよね。それが何か?」

「それ、実は続きがあってね。よく磨かれた歯車たれ。それがみ合ってこそ、全体が十全に回るって」

 上官の言いたいことを理解できず、ヴィクトリアはりゆうをひそめた。
 ライネはふふふと優しく笑う。

「任務が終わったら教えてあげるから、今は行くよ。早くしないと砦が占領されてしまう」

 不満は残っていたが、ヴィクトリアは先に歩き出した上官の後に従った。

 さつりく兵器のセンサーから身を隠し、暗中の影となって2人は前進を続ける。
 秘匿された足場を伝って砦の外壁をよじ登り、乗り越える。敵が布陣している外部、山間の平地へ。ロボット兵器は大部分が砦内へ進軍したのか、外での姿はまばらだ。
 仕掛けられていた索敵装置をライネがハッキングで無害化しながら山際に沿って進む。しばらくすると、狭い土地に照明が立てられ、藤色の布が張り巡らされた天幕が約10面ある場所まで来た。

「どこまで行くのですか? こんなに敵陣に近付いたら……」

 未だ明けぬ闇の中、警備のロボット兵器が増えてきたのでヴィクトリアは不安になってきた。
 ライネが進む道はロボットの視界から絶妙に外れており、ここまでは発見されなかった。しかし、これからも見つからずにいられるのか。もしも敵軍に捕捉されたら火力は敵うべくもない。

「ん。目的地はあそこ」

 女性らしいほっそりとしたライネの指が、敵陣の天幕の1つを指す。100メートルほど先にあるその天幕は、他の天幕と目立った差があるようには見えない。

 巡回警護しているロボット兵器がキュルキュルと履帯音を立てながら通り過ぎる。
 さてどうするのかとヴィクトリアが思っていると、ライネは唐突に走り出した。走っているはずなのに足音がほとんどしない。
 ヴィクトリアは慌てて追った。

 藤色の天幕の中へライネの小柄な体が転がりこんだ。ヴィクトリアが続いて駆けこむ。
 敵、政府軍人間3人。将校1人、へいそつ2人。
 ヴィクトリアの上官は地面に横たわり、軍服に土を付けたまま、ホルスターから引き抜いていたレーザーピストルの引き金を引く。減音された銃声。ごうしやな軍服を着た将校の胸部が打ち抜かれた。設置されている中型コンピュータに赤い血が飛ぶ。
 何が起こったのか知る間もなく絶命した将校が倒れるのに目もくれず、ライネはかたひざ立ちになる。
 侵入者の存在にようやく気付いた兵卒の1人が、携帯していたレーザーライフルの照準を向けようとした。しかし気が動転しており狙いが定まらない。
 ライネは冷徹にレーザーピストルの銃口を兵士の頭部へ向け、一度だけ引き金を引いた。
 天幕内に再び赤が散る。
 最後の1人のいる方向へ顔を向け、ライネは頬を引きつらせた。
 おびえた様子で中型コンピュータに駆け寄ったその男は、人の接近を感知してきようたい内から展開されたキーボードを触ろうとしている。射撃で妨害するのも一呼吸の差で間に合わない。

「ぐわっ」

 タイピングされる直前、レーザーピストルの赤い光線が兵卒の右太ももを貫いた。
 天幕の入り口、じゆうを両手で握ったヴィクトリアが立ち尽くしている。

 立ち上がったライネは、影のようにびんしように兵卒の背後に寄ると、痛みにより屈んでいる彼の頭へ両手を添えた。
 ごきり。
 ライネが軽く押しながら手を離すと、支えるもののない兵士の体はどさりと横に倒れた。

「良い感じだよ、ヴィクトリア」

 穏やかな声で褒められたが、ヴィクトリアの動悸はしばらく収まりそうにない。

「あ、ありがとうございます。しかし、ここは何ですか?」

「敵軍のロボット兵器統制室」

「え?」

「まあ見てて」

 展開されたままのキーボードの前に立ち、ライネは慣れた手さばきでタイピングを始めた。
 ディスプレイに次々と文字が流れていく。

 砦の仲間を心配しながら上官の様子を眺めていたヴィクトリアは、履帯の音を耳にして体をこわばらせた。
 減音機構を付けているとはいえ、銃を撃ったのだ。自分達の存在が露見するのは道理。

「ライネさん!」

 レーザーカッターで藤色の布が切り取られ、天幕を囲むロボット兵器達の姿がのぞく。ガトリング砲が装備された両手がライネとヴィクトリアの方を向く。

 ヴィクトリアは銃をロボットへ向けたが、その手に力は入っていない。敵の数が圧倒的なのだ。
 故郷の家族のことを思いながら目を閉じた。

 いつまで経っても痛みは訪れない。

 履帯の駆動音。
 恐る恐る目を開けると、ロボット兵器は彼女達には目もくれずに、別の天幕へ向かっていた。

 その天幕の方から人間の悲鳴。
 ライネは平然とした顔でタイピングを続けている。
 断末魔を遠くに聞きながら、ヴィクトリアは困惑したまま口を開く。

「ロボットが、反乱を起こしたのですか?」

「この子達はただ命令に従っているだけだからねえ、反乱とは違うかな」

「では……?」

「このコンピュータは、ここの政府軍の機械達に命令を下しているセントラル・コンピュータなの。命令を書き換えたから、この敵陣にいるロボットも砦へ行ったロボットも、今のターゲットは政府軍」

 キーボードを叩き続けていたライネの手が止まる。
 そしてディスプレイに表示された文字を確認し、満足げにうなずいた。

「よし、これで皆殺しじゃなくて、投降した者は生きたまま捕縛するようになった。後始末は後続の部隊がやってくれる。無事に帰還すれば、私達の任務はそれで終了」

 ディスプレイから目を離し、ライネはヴィクトリアの方へ向き直る。

「だからもう、銃を下ろしても大丈夫」

 声をかけられ、ヴィクトリアはようやく自分がピストルを前へ構えたままであることに気が付いた。恥ずかしく感じながら、銃をホルスターへ収める。

「恥じることなんてない」

 ヴィクトリアの心中を読んだかのようにライネは微笑む。

「上出来だよ。今日は任務の様子を見てもらえればそれでいいと思っていたのだけど、敵がコンピュータをいじるのを阻止してくれたね。ありがとう」

「いえ、きっとライネさんだけでも何とかなったはずです」

 少女の目には、これまでのさいではなく純粋な尊敬が輝いていた。
 外では履帯の駆動音が幾重にも重なって聞こえる。砦へ進軍していたロボット兵器達が命令の変更により戻ってきたのだ。

「お見それしました。たった1人で戦況を覆すなんて。あなたは英雄です」

「違うよ。私1人の力じゃない」

 ゆるゆるとライネは首を振った。

「セントラル・コンピュータのハッキング方法を調べてくれたのは諜報部の情報収集隊。敵に見つからずにここまで侵入できたのは、兵士達が前線で注意を惹いてくれたから。そもそも私達前方部隊が動けるのは、後方がへいたん管理をしてくれているおかげ。誰もが自分の仕事をちゃんとこなしたから勝てたの。よく磨かれた歯車たれ。それが噛み合ってこそ、全体が十全に回る。分かってくれたかしら?」

 ライネは配下のうら若い兵士の目を覗きこんだ。

「……はい!」

 覇気のある返事に、ライネはふふふと嬉しそうに笑い声を漏らす。

「じゃあ、これからは一緒に回っていこうね、ヴィクトリア」

「はい、よろしくお願いします、ライネさん!」

 ライネが伸ばした右手をヴィクトリアが取り、2人は固く手を握った。
アウトサイダーKの足跡
私の小説執筆の記録や、拝読した小説の感想、エッセイ、日々の雑記などをブログに書いています

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