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先の読めない戦略家(ストラテジスト)  作者: みーやん
第一章 首都攻防戦
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迎撃

 迫撃砲の着弾音が散発的に鳴り響く中、石畳の道路を一台の車が疾走(しっそう)する。

 カイザーは嫌な予感しかしなかった。

 夜襲ならともかく、天気も良く、見晴らしも良い中、日中に堂々と攻撃してくる。

 仕掛ける側からしたら、狙ってくれと言わんばかりだ。


 そして、攻撃を受けているこちら側の拠点は一か所ではない。

 市内の駐屯地、恐らくすべてに同時に攻撃が仕掛けられている。

 突発的な衝突で無いことは確実で、かなり綿密な作戦のもとに事態は推移している。

 運転席のカイザーが、助手席のルヴィオレットに声をかける。


「ルヴィ」

「はい」

「現在の出撃状況は?」


「第二艦隊と第三艦隊に、迎撃命令が出ています」

 と、小型の通信端末を操作しながら、ルヴィオレットが応える。


「第一艦隊は待機命令か?」

「はい」


 目的地の格納庫がある軍空港までは、あともう少しで到着する。

 空中戦略艦を旗艦として、首都防衛を行う政府軍の艦隊は3つ存在する。

 カイザーの所属する第一艦隊は、先日の空中戦略艦『ルチス』撃沈により出撃できない。


 しかし、それ以外の2つの艦隊を同時に出撃させるとなると、事態は深刻だ。

 ボーレンが指示を早まったか。

 敵の勢力が、本当に油断ならない規模なのか。


 ――― 恐らく前者の可能性が高いが。


 格納庫の前まで来ると、入り口の兵士に止められる。

 それに応じて、運転席からカイザーが身分証を提示する。


「緊急事態だ。通してくれ」


 すると、兵士は身分証を確認し、

「ですが、ファントム中佐・・・。第一艦隊に出撃命令は出ていません」

 と、職務に忠実に応える。


 カイザーは鋭い眼光で(にら)み付けると、

「君は状況の判断ができないようだね。私が責任を取ると言っているのだ。わかるか?」

 と、低く、それでもはっきりと聞こえる声音で凄む。


「はっ! 失礼致しました」


 気圧された兵士が、慌ててゲートを開ける。

 カイザーは、兵士に軽く礼を言って、そのままゲートをくぐった。



■ □ ■ □ ■ □ ■ □



 ローランは、セバスキーから政府艦隊出撃の報告を受け取った。

 第二艦隊、第三艦隊のすべての戦艦が出撃しているとのこと。

 政府軍艦隊は通常、一隻の戦略艦と、一隻の母艦の二隻を核としている。

 そしてそれを護衛するように、強襲艦三隻の合計五隻で構成されている。


 だから今回は二艦隊分なので、合計十隻の単純計算だ。

 この艦船の数は、軍空港を直接監視しているレセナからの報告と一致している。


「対レーダー用に電波妨害をかけろ」

 と、ローランが指示を出す。


 すると、サラはローランを振り返り、

「では、同時に空中強襲艦『ゼーロス』に、着陸指示ですね?」と、確認を取る。


 (うなず)くローランに対し、素早く操作を行うサラ。


 そして、サラは回線が確立するのを確認すると、

「ラッセル、聞こえる?」と、相手に向けて声をかける。


 間もなく、(あご)(ひげ)の男性が空中のモニターに映しだされる。

 ラッセル・アラド ――― 【ファルクラム派】の空中強襲艦『ゼーロス』の艦長だ。

 鋭い眼光に、日焼けした肌。

 精悍(せいかん)な顔立ちをした、叩き上げの軍人の風格が漂う。


「あぁ、サラか。作戦開始か?」


 するとローランが、

「そうだ」と、サラよりも先に回答する。


「ナイトホーク参謀か」


 その回答に、応答するラッセル。

 サラが、慌てて船内カメラの入力操作を切り替える。

 空中に浮遊するカメラ付きの通信装置が、ローランの前で静止する。


 ローランはカメラを見つめると、

「無茶な作戦に参加させて悪かったな」と、詫びる。


 すると、それに対してラッセルは、

「・・・らしくないな」と、意外という表情で応えた。


 そしてニヤリと笑うと続けて、

「悪いと思ってるなら、酒を(おご)れよ。ちゃんとした高級な奴な」


「ああ、用意させてもらう。それで、準備は大丈夫か?」

「当たり前だろ?」

「頼む」

「ああ、任せておけ」


 同時に『ゼーロス』からも、電波妨害用のノイズが発信される。

 そして、ゆっくりと着陸態勢に入る。

 迎え撃つ準備は整った。



■ □ ■ □ ■ □ ■ □



 政府の空中戦略艦『ルモア』の作戦室。

 巨大な戦艦に対して作戦室は、それほど大きくない。

 だが、それでも十名程の兵士が、席を寄せ合って計器類のチェックと操作を行っている。


「レーダーの電波妨害を確認しました!」

「周波数を変えて、探索を継続しろ」


 オペレーターが報告すると艦長席に座る初老の男が、それに対して指示を出す。

 第二艦隊の提督を務めるこの男の名は、ラルス・フィッシャー。

 階級はレトフと同じ大佐だが、今は命令を受けている側だ。


 レトフの命令に従うのは正直、(しゃく)にさわる。

 何故ならレトフにはこれといった実力もなく、コネと運だけで役職を手に入れた事は、誰の目にも明白だったからだ。

 だからこそ、今回の作戦で圧倒的な勝利を収め、レトフの上に行くこと。

 それが目下、ラルスの野望だ。


「約五百km先に、敵艦『グーラッシュ』の船影を捉えました」

 と、すぐに別のオペレータから報告が入る。


「もう一隻は?」

「見えません!」

 と、オペレータは続けて、「再び『グーラッシュ』を見失いました!」


 それに対してラルスは、

「こちらも電波妨害をかけるぞ。船外モニターに切り替えろ」と、素早く指示を出す。


 既に戦いは始まっている。

 電波妨害で、レーダーはほとんど役に立たないだろう。

 これは、相手の位置を探りながらの進軍になることを意味している。


 あとは古典的だが目視に頼ることになる。

 つまり、ある程度の距離になるまで近づき、モニターで相手の船影を確認したら、直ちにそこからが戦闘開始となる。


 相手の大体の位置は捕捉している。

 このまま進んで、正面から正攻法をとるか。

 または第三艦隊と手分けして、迂回しながら挟撃を狙うか。


 正攻法で、このまま前進しても戦力的には十分勝てる。

 だが、相手は智将ローラン・ナイトホーク。

 何を考えているか分からない。


 いずれにせよ、こちらの動きを相手に悟らせるのは愚策だ。

 射程範囲ギリギリまで近づいて、速やかに展開して包囲殲滅を狙うのが良いだろう。

 そこまで考えて、ラルスはオペレーターに指示を出す。


「このまま進め、ギリギリまで近づくぞ」と、続けて、

「残り三十kmの位置まで来たら、速やかに部隊展開、敵を包囲殲滅する」


 命令を受けると、オペレーターは直ちに計算を始める。

 現在の航行速度と敵艦までの距離から、何分後に展開すれば良いかをはじき出すためだ。


「・・・了解。三十六分後に作戦を展開します!」



■ □ ■ □ ■ □ ■ □



 政府軍、第二艦隊の提督は、ラルス・フィッシャー。

 そして、今回の作戦の総指揮も、彼が執っているはずだ。

 彼の性格からすれば、この内容で恐らく正解だろう。

 ローランが、地上部隊に作戦指示を飛ばす。


『作戦開始は三十分後、それまで予定位置で待機せよ』


 ここまでは、ローランの読み通りの展開。

 まさか、動員可能な全艦隊を出してくるとは思わなかったが、これで政府軍に決定的なダメージを与えることができる。


 ローランが地上に展開した部隊。

 それは、空中強襲艦『ゼーロス』により輸送された部隊。

 その主力は【ファルクラム派】の本拠地≪ラチェスタ≫の防衛部隊であり、それに加えて、首都≪バルスト≫の郊外防衛ラインの一個連隊。

 つまり、それは『街を防衛する部隊』ということ。


 これらの街にとって最大の脅威は何か。

 それは、この世界で最も機動力があり、甚大な被害をもたらす兵器。


 ――― つまり弾道ミサイルと、そう航空機だ。


 三百両を超える、自走式地対空ミサイル車両が、その全ての砲台を一点に向ける。

 刻一刻と、その時は近づいていた。

 ローランの事前の予想により、方角も距離も、すべて計算済みだ。


 ――― そして、定刻の時間。


 ラッセルは双眼鏡に、敵艦の姿を確認する。

 そしてつい最近、同僚になったばかりの、政府軍の元将官に無線を送る。


「ゾーン、確認したか?」


 目視が可能なほどの、至近距離からのミサイルの発射。

 しかも、シールドを張っている様子もない、いわば完全な無防備状態の奇襲。

 もはやこの距離では、たとえこちらの攻撃に気付いたとしてもシールドの展開は到底間に合わないだろう。


「・・・ああ、驚いたな。予想通りだ」


 ラッセルは、ゾーンからの応答を聞くと、

「作戦目標は一〇隻全部だ。無線を切ったら三〇秒後・・・いいな」と、続ける。


「了解」

「では、健闘を祈る」


 ラッセルは無線を着るのと同時に、秒針を目で追う。

 そして、無線の内容を聞いていた兵士も、各々の目標に照準を調整し、全てのミサイル砲身が対象を捉えると、その動きを停止させる。

 狙う戦艦は事前の作戦通り、それぞれに割り当てられた対象。

 あとは対空砲を発射するだけ、単純で簡単な作業だ。


 ――― そして、約束の時間。


 ラッセルの指示で、合図役の兵士が旗を振る。

 その直後、爆音とともに発射される無数の対空ミサイル。

 ゾーンの部隊からも、同時にミサイルが発射されるのが見える。


 時間にすれば、発射から三秒程度だろうか、全てのミサイルが吸い込まれるように政府艦隊に直撃していく。

 それは、もはや回避も防御も不可能な痛恨の一撃。


 激しく被弾し、閃光を放ち、次々と高度を下げ始める政府艦隊。

 遅れてシールドを展開している艦船も見える。

 だが既に致命傷を受けた後であり、もはやその行為に意味はない。


「ローラン。聞こえるか・・・?」

 と、あまりの呆気なさに、当のラッセルも言葉が続かない。


「ああ、大勝利おめでとう。好みの酒の銘柄、後で教えてくれ」


 参謀からの無線越しの気の利いた賛辞に、改めてラッセルは自らの勝利を実感した。

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