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帰れないので、飼って(養って)もらうことになりました。

連投4日目。


やっと折り返した。後3日。

次回更新は夜8時。

 一通りの説明が終わったということで、魔王様たちはご自分のお仕事に戻っていった。

 基本全部アルベルトさんが説明してくれたし、王様なんて忙しいだろうから、別に待っててくれなくてもよかったんだけど。とか思ってたら、ばれたのかきっちり睨まれた。なんで。


 現在、お城(私がいたあの建物は城だったらしい)を出て、馬車でとことこアルベルトさんのおうちへ向かっています。

 地下から上ったときには、完全なる放心状態だったから、お城の中がどうなっていたかなんて見てなかったけど、馬車に乗るために歩いたお城の中は、とても素敵だった。


 室内は全体的にひんやりはしているけれど、石造りっぽいにしては全体的に明るい。

 昔、イギリスかどっかに旅行いってお城(まぁ、あれは要塞だろうけど)見学したけど、あの時は暗かった。電気なんてなくてろうそくの明かりだけなら、人の顔なんて判別しにくいだろうと思うほどに暗かった。 


 服飾同様、建築には疎いから、どんなふうにって表現が出来ないんだけども。イメージ的には、荘厳な修道院。そこに、王宮としての華やかさを添えるための彩を持たせるためか、天井画や、絵画、花などが飾られている。もちろん、調度品には精緻な細工や刺繍がしてある。


 馬車の窓から見たお城の形は、なんだろう、どっかでこの構図見たことがあると思うんだけど。あ、あれだ、夢の国の中央にある城か。町並みも、その城があってもなんの違和感もない感じに、整っている。

そとの景色はひとまず置いておいて。


 とりあえず、当面の生活の面倒はアルベルトさんが見てくれることになった。

 愚息がお世話になりました、と言われても、私は捨て猫一匹拾っただけなんですけど。

 てか、これ、言いづらいよなー。

 だって、息子さんをペットとして飼ってましたなんて、どんな鬼畜かという話になると思う。ネコ大好き病の末期患者として、虐待は絶対にしていないと誓えるし、餓えにも暑さ寒さにも苦しむことはなかったと思うけど。 

 それでも、ペットって、親御さんからしたら、許し難いことだと思うんだよね。


 どーすっかな、ほんと。

 なんて、悩んでいる間に、バステト邸に着いたらしい。

 これまた大きい。

 ご家族はクロとアルベルトさん、その奥様の三人だけらしいんだけど、いったい何部屋あるんだ。見えてる窓だけで10を超えてるぞ。


 昼下がりの太陽の光を受けて輝くアイヴォリーの壁に、空より少し濃い青い屋根。瀟洒っていう言葉は、このお屋敷のためにあるのかしら、と思ってしまうくらいに綺麗な建物。

 屋根付きの車寄せに馬車を止めると、外から扉が開かれて、真っ先にクロ、続いてアルベルトさんが降りる。扉の外で私に向かって手を差し伸べてくれるなんて、なんて紳士的。


 姫気分でアルベルトさんの手を取って降りると、頭の両横から角の生えた白髪の執事服のおじさまに会釈された。あれか、ひつじの執事か。やばい、まんますぎるでしょ。

 きちんと会釈を返して、アルベルトさんたちに先導されて、玄関をくぐる。



 玄関ひっろ!!



 入って右手のほうにはソファーと小さなテーブルが窓からの光を受けて、床に濃い陰影を描いている。あそこでお茶でもするのかな。(あとで聞いたら、待合室のようなものらいい)

 玄関から一枚扉をくぐれば、見たこともないような大広間。正面の壁左右に弧を描いた階段があって、二階につながっている。吹き抜けの広間は、庶民な私の貧困な発想からは、ダンスパーティーに使うくらいしか用途が思いつかない。なんでこんなにひろいんだろ。


 そんな広間に大口開けて見上げていると、クロに引っ張って左手にある廊下に連れていかれた。

 広間から廊下に入ったすぐくらいの部屋に入ると、くつろぐように、椅子をすすめられる。この椅子というかソファも、お城にあったのと負けず劣らず豪華ですわり心地が良かった。

 椅子に座って、少しもしないうちに、お茶が運ばれてきた。これは花の香り豊かなフレーバーティーのようだ。



「さて、君には息子がお世話になったようだけれど、クロードはどんな感じだったかな」



 ぐはぁ、きた・・・。



 優雅なしぐさでお茶を一口、カップを置いたらいきなり切り付けられた。いや、アルベルトさんの口調は全く険はないんだけれど。

 さて、どうするか。やっぱり、正直に話すしかないかなー。あぁ、さよなら私の快適ライフ。

 意を決して、私はソファから立ち上がり、その横に正座をして。



「申し訳ありませんでした」



 勢いよく頭を下げる。

 そう、いわゆるDOGEZA。

 日本に伝わる誠心誠意込めた謝罪の作法だ。



「え、ちょっと、リサさん。いきなり何かね。顔をあげなさい」



 何事にも同時なさそうなアルベルトさんの声が心なしか焦っている。

 まぁ、そうだろう。いきなり訳も分からず土下座されれば。

 とりあえず、お言葉に甘えて顔を上げる。やっぱり、きちんと顔を見て謝罪するのが一番だからね。


 上げた私の視線の先には、相変わらず穏やかな表情を浮かべるアルベルトさん。でも、頭のネコ耳がぴくぴく動いていることから、何らかの動揺はしているようだ。

 そんな彼の顔にひたと視線を据えて、私は話し出す。



「本当は、先に申し上げるべきだったのですが、機を逸してここまで来てしまいました。私は、クロード君の恩人なんかではありません」



 アルベルトさん無言。

 何を言い出すのか、と顔に書いてある。



「私は10年前、公園を一人で歩いているクロード君を家に連れ帰り、ペットとして飼っていました」

「・・・・・・ペット?」

「はい」



 ・・・・・・・・・。



「・・・どういうことかな?」



 私の衝撃発言に、言葉を返すまでおよそ10秒。

 今までのやさしげな表情は消えたけれど、怒っているようには見えない冷静な声で、私ではなく、クロに疑問の先を向ける。

 私が自発的に恩人発言をしたわけではないからか、アルベルトさんは思案の結果、説明をクロに求めることにしたらしい。



「確かに、ボクはリサにペットとして飼われていました。ただ、ボクは小型化状態から変化することはできなかったうえに、最近まで記憶がありませんでした。正直、自分でも自分を猫だと思っていたんです」



 クロの最初の発言に、おじさまは眉をひそめたけれど、続く言葉に何か考える顔になる。



「食べ物もなく、魔力も底を尽きて仔猫にまで大きさが縮んでいました。お腹がすいて公園をさまよっているときに、リサがボクに温かい寝床と食事をくれたんです。それから10年、たしかにペットでしたけど、嫌なことはほとんどなかったし、リサにも、リサの家族にも可愛がってもらいました」

「クロ・・・・・・」



 一生懸命に訴えるクロ。その真剣さが、ぴっと立ったしっぽからも伝わってきそうだ。

 今までクロが嫌がるほど撫でまわしたり、ちょっかいかけたり、もふもふしたりしまくってたのに、私をかばってくれるなんて。

 あるかなしかといわれる(一応あるよ!)胸が、じーんとする。

 そんな私をちらりと見て、アルベルトさんはクロに再び質問する。



「お前は、リサさんの家で何をしていたんだ?」

「何もしてません。ただ寝て起きて、ご飯食べてました」



 あえて言うなら家族の癒し係です。

 なんて、心の中でつっこみ入れてたら、アルベルトさんが溜息をついた。



「つまり何か、お前はよそ様の家にいて、寝る場所と食事を提供してもらっておきながら、何一つ働かなかったと?」



 いやまぁ、ネコですから。

 猫の手借りたいときはあったけど、本当のネコの手は借りれないし。ネコの仕事といやぁネズミ取りだが、現代日本には、ネズミもいないから。

 とかなんとか考えてたら、アルベルトさんが、床に座り込んでいる私と視線を合わせるように床に膝をつき、私の手を取った。

 うお、ちょっと待ってよ。ときめくじゃないか。



「リサさん、謝らねばならないのはどうやらこちらのようだ。どうか椅子に座ってくれないか」



 なんか、私が立たないと、アルベルトさんが梃子でも動きそうにないのでしぶしぶ立ち上がって、元の通りソファに座る。もちろん、椅子を汚さないように、スカートに着いた汚れは一通り払ったよ。

 私の正面で、アルベルトさんは自身を落ち着けるためにか、お茶を一口飲んで深く息をつく。



「確かに、ペット扱いというのは、親からしたら心中穏やかには居られない。しかし、人間から見れば、我々の小型は普通の猫と変わりないし、実際猫以上のこともできない。そんな息子を、君が飼い猫として扱っていたのは、致し方ない。その中で、君は私の息子を心から可愛がってくれていた。その上、ペット扱いを私がどのように考えるかにも配慮してくれた。心からお礼を言わせてもらおう」



 ソファの背もたれに沿って立ち上がりゆらゆらと揺れていた黒いしっぽが、ぴたりととまる。そしてゆっくりと頭を下げる。



 そんなたいそうなことしてないんで、やめてくださいー。



 心の中で大声で叫びながら、アルベルトさんに何とか頭を上げてもらう。

 ネコ一匹拾ったくらいで、大げさすぎる。



「それを踏まえたうえで、君のことはわがバステト家が、責任をもって面倒を見よう」



 あわあわする私に、アルベルトさんは宣言する。

 まぁ、もちろんありがたいんですけど。行く当てのない私としては、願ったりかなったりですけど。

 ほんとに、いいんですかね。

 なんて聞いたら、もっとすごい答えが返って来た。



「それこそ、君の家でクロードが振舞っていたように、我が家で振舞ってくれて構わない」



 クロのようにって、それこそ寝て起きて食べて寝る生活だけど。

 それはネコだから許される生活であって、人間がやるとそれはただのニートっていうんだよ。



「10年も息子の面倒を見てくれていたのだから、それくらいはさせてくれ」



 いやいや、そんなの申し訳なさすぎるし。



「そうだ、今日から君は我が家のペットということでどうかな。それなら、クロードと同じなのだから、君が遠慮することはないだろう」



 にこにこと、いいこと思いついた的に提案してくるアルベルトさん。

 ・・・・・・いや、まぁ、いいけどね。別に、ペットで。







 そしてその後、クロの母上にお会いすることになった。

 時折銀にも見えるグレーのふわふわの髪にぴんとたったとがった耳、きらきらと輝くエメラルドグリーンの丸い大きな瞳。

 華奢なのに出るとこ出てる優美な線を描く肢体は、品のよいロシアンブルーを思わせる。アルベルトさんの奥様と考えるとだいぶ若く見えるけど、クロの母親とすればそれほど若いわけでもない。



「うちの息子がお世話になりました。うちのことは我が家だと思ってくつろいでね」



 アルベルトさんから私のことは軽く説明されているらしく、対面一発目でこんなことを言われた。

 どことなく、少女めいた雰囲気の人だなーとか思ってたら、きちんと母親としての言葉をかけられて面食らった。いや、私が失礼な先入観を持っただけなんだが。



「こんなに小さいのに、家から引き離されるなんてかわいそうに。本当にうちの息子がごめんなさいね」



 24です、歳くっててすいません。

 家から引き離されて、可哀想がられる年齢じゃありません。

 と、正直に申告したら、アルベルトさんにも目を丸くされた。いくつだと思ってたんだ。

 どうせ日本人の中でも童顔だよ。でも、発育も身長も平均だからな。



「まぁ、人間の女の子はずいぶんとかわいらしいのね。わたしね、娘が欲しかったの。あなたのお洋服考えるのが楽しみだわ」



 にこにこふわふわ。

 そんな擬音が聞こえてきそうなのに、なぜか逆らうことは許されない空気を感じる。

 案の定、アルベルトさんにも、目線でエリーザさんには逆らわないようにとの忠告を受けた。

 どうやら私は着せ替え人形決定らしい。



「一緒にお出かけして、遊びましょうね」



 私には、頷く以外の道は残されていなかった。

 バステト家の(正確にはエリーザさんの)ペットに決定した瞬間だった。



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