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気が付けば、異世界に飛ばされていました。

連投2日目。


まだまだ行きます。あと5日。

次回更新は夜8時。

 よく、死ぬ間際に見るといわれているような、人生の走馬灯なんてものは見なかった。

 ただひたすらクロをぎゅって抱いて目つむって来る衝撃を覚悟する。なんていっても、人間って、ある程度の距離を落下すると気絶するらしいけど。

 それなのに、全然衝撃も来なければ、気絶した記憶もないのに、気づいたら普通の床っぽいところに座り込んでいた。

 周りで、誰かがしゃべってる声が聞こえる。それも複数。

 かつん、かつん、と硬質な足音のようなものが近づいてくるにしたがって、あたりのざわめきはおさまり、静寂に包まれる。



「やっと帰って来たか。全く、世話の焼けることよ。・・・・・・なんて恰好をしている。」



 腰に来る感じの艶やかな低い美声。台詞後半に濃い呆れの色を含ませていてもなお、魅惑的。

 どんなイケメンかと思わず覗き込みたくなるほどに。

 なので、思い切って目を開けてみた。


 まず見えたのはクロの後ろ頭。日本国首都の隣の県にある、某夢の国にいるクマのぬいぐるみ的な抱き方をして、その頭に顔をつけるようにしていたのだから当たり前か。

 そろそろと首を伸ばし、少しずつ視線を上げると、石畳の床に発光塗料でも塗ってあるのか、青白く光る線が見え、さらにその先に誰かのブーツ。発光している線に照らされているからなのか、あたりが位にも拘わらずピッカピカに磨き上げられているのがわかる。

 そのまま視線を上げ続けると、日本人とは明らかにくらべものにならないくらい、外国人の中でも長い部類に入ると思われるくらい長い足を通り過ぎ、服の上からでもわかるほど逞しくも引き締り、きれいな逆三角形を描いている(であろう)腹部からのど元。


 今までの人生において、服飾には全く興味がなかったので、それがどこらへんの国の民族衣装なのかはさっぱり不明だが、なんというか、強いてあげれば西洋ファンタジーに出てくる王侯貴族的な装飾を施された上下衣、背後にはマント的なものが見え隠れしている。あれだ、私の大好きな(えぇ、最初期の家庭用ゲーム機のころからやってますとも。オタクで悪いか)和訳すると竜の冒険とかいうRPGゲームの王様とか王子様のような感じ。部屋全体が暗いから、色の判別が難しいけど、全体的に黒っぽい。それに金糸(かな?)の刺繍が全面に精緻に施されていて、かなり煌びやか。でも、嫌味な感じは全く受けない。


 最後にその頭部にまで視線が言った時、わたしは中途半端に口を開けた、あほ面さらして“ご尊顔”と評しても過言ではないほど美しく整った顔を眺めてしまった。

 薄暗いこの場所では浮かび上がるのではないかというほど白く艶を持った肌。きっと、沁みひとつなく、肌理が細かいに違いない。引き結ばれた薄い唇と、こちらを見下す赤いの瞳は、背筋に何か冷たいものが走りそうなのに、決して目をそらすことのできないほどに蠱惑的だ。濃厚な、深い深い赤でありながら、その内から光を発していそうなその瞳は、宝石のようで、なるほど、ピジョンブラッドってこういうものをいうのかしら、と思った。


 そのご尊顔を縁どるのは、それ自体が輝いているのではないかというほどの煌めく金髪。緩く波打つそれを、(わたしから見て)左側の首元で束ね、胸元まで流している。

 そこまでならば単に、超絶なる美丈夫様素敵だわ~、で終わるのだが、そこからは明らかに“人”ではなかった。

 頭の左右、耳よりちょっと上らへんから突き出ているのは、二本の巻き角。曲線を描きながら下を向くそれは、ここからだと象牙色に見える。



 悪魔的な美しさ?



 そんな人に非ざるモノを持ちながらも、あたかもそれが当たり前の風景だと認識させるほどに違和感なく、威厳を纏い、圧倒的な存在感でその場を支配している男の容姿を表現するのに、これ以上ふさわしい言葉はないと思う。

 その人が、下から見上げていた私に意識を向けた。じっくりなめるように観察してここまでの感想を抱くだけの十分の時間があったのだということに、この時の私は気づいていなかったけれど、まぁ、そんなことはどうでもいい。いろいろと、私の処理能力を超えた事態に、軽く現実逃避てしているだけだ。


 完全に呆けている私の顔をみて、ほんの数ミリ眉を動が動き、眉間に力が入ったのがわかった。

私は、他人の感情の動きに疎い自覚はあるけれど、空気を読むのはうまいほうだ。だから思う。



 非友好的視線キター!!



 ぬいぐるみ抱きにしていたクロを赤ん坊抱きに持ち替えて立ち上がり、クロを男からかばうようにしながら後ろ重心にじりじりと後退する。

 そんな私の行動に、男は眉間にしわを寄せ、さらに視線を険しくさせたけれど、特に何をしようとはしなかった。


 それを幸いに、さりげなく周囲を見渡してみれば、“怪しい魔術師”みたいな黒っぽいローブをまとった人(身長的に男っぽい)数人と、目の前の男の後方に、男と似た貴族的衣装を身にまとった男二人と、その護衛っぽい騎士的男数名。どうやらここは相当広い部屋だったらしく、男のはるか後方に見える出口と思しき上へ上る階段のそばにも、階段を守るように槍と鎧を纏う男二人。全員が全員、どう見ても私に友好的な態度ではない。


 後ろを振り返ることはできないけれど、今目の前にいるだけの人数の男たちを振り切って逃げれると思う程、私は自分の能力を過信してはいなかった。



 これって、絶対絶命ってやつ?



 思わず、腕の中にいるクロを抱く手に力がこもる。温かく柔らかい毛皮の感触が伝わって来て、この子を守らなければと、強く思った。

 そこで、ふと思う。



 この場合、私と一緒より、クロ一人(というか一匹)のほうが逃げれる。



 そうだ、いくら運動神経の悪いこの子だって、一応猫なのだから、危険を察知すれば逃げれるはず。

 視線を下げれば、こちらを見つめる黄緑色の無垢な瞳と目があった。警戒心のかけらもない、安心しきったように体中の力を抜いて私の腕に身をゆだねているクロを見ると、なんとなく張りつめた感のあるこの空気の中でも、自然と表情が緩んだ。

 そんな私に、まるで頬にキスするように、クロが自分から顔を近づけてきた。濡れた鼻先がほっぺたに触れて、くすぐったい。



「失礼、お嬢さん」



 こんな場合にも拘わらず、クロと戯れて和み始めていた私に声をかけてきたのは、悪魔的な美丈夫様の後ろにいたはずの、黒髪の男の人だった。いつの間にか、美丈夫様の前に出て、まるで私をなだめるように微笑みを浮かべている。



「あなたの腕の中にいる、それなんだがね。私の息子なんだ」



 ・・・・・・はい?



「ちょっと、それにも話を聞きたいから、一度降ろしてもらってもいいかな」



 あまりにも、非現実的なことを言われて、思考が一瞬空白になる。

 なにいってんだこのおっさん、とか、頭大丈夫か、とか失礼なことを本気で思いながら、まじまじを黒髪の人を見ていると、あることに気づく。

 そう、この部屋は暗いから、最初は全くきづかなかった。でも、いま、おじさまの頭でぴくぴくと動くその物体。それは。



 ネ コ 耳 ! ! ? 



 サラサラな髪と同色な口ひげを品よく蓄え、柔らかく(つまりは友好的態度で)微笑む素敵なおじさま。大人の余裕で微笑むおじさまは、どこからどう見ても、ダンディーで、こんな父親がいたら、ファザコンまっしぐらだと思う。少なくとも、私なら、こんなパパがいたら、他の男には目もくれないと思う。



 そのおじさまからネコ耳!!

 萌えの象徴ともいえるネコ耳!!!



 あ、さっきの意味不明発言は、頭にお花咲いてるんじゃなくて、ネコ耳生えてるからかー。


 なんて、現実逃避をしていると、腕の中にいるクロがもぞもぞと動いた。6キロある上に、体に見合って力も強いから、私の腕から逃げるなど造作もないこと。

 ひらり、というには程遠い動作で、そこそこ大きい着地音を響かせて床に降りたクロは、とことこと私とおじさまの中間くらいに座る。

 何をするつもりなのか、見守っていると(ネコ耳萌えで呆然としていたともいう)、それは、目の前で起きた。


 さっきまではっきりと見えているはずなのに、ジワリとクロの輪郭がにじみ、ゆらゆらと形を変えていく。何がどうなって、そんなことになったのか、目の前で起こったことなのに、全くわからなかった。

 いや、わかりたくなかった。




「只今戻りました。ご心配おかけして申し訳ありませんでした、陛下、父上」




 幼い声で帰還の報告をするのは、人間の姿の男の子。

 目の前のおじさまと同じくさらさらの黒い髪とその上には同じ色のネコ耳。おじさまに向けて片膝ついて跪いている後姿には、同色の黒く長いしっぽ。先っぽ1センチだけがひょこひょこと、呆然とした視界の中で揺れている。

 なぜ、彼はここにいるのか。

 さっきまで、こんな子供はどこにもいなかったのではないのか。

 さっきまで、ここにいたのは、クロだったのに。



「クロード、おかえり」

「無事でなによりだ。立つがいい」



 おじさまと美丈夫様に交互にねぎらわれ、立ち上がった。

 幼いとは思っていたけれど、大きさ的には、小学校に入るか入らないか、といったころだと思う。彼が、人間なら。



「さて、クロード。先ほどから、そなたのそばにいるそれななんだ」



 その言葉とともに、美丈夫様の視線の先が私に移る。

 血のように赤い、底深く輝く瞳は、私を観察し、値踏みしている。吸い込まれそうなほど魅惑的であると同時に、後ずさりたくなるほど威圧的。



「そこにいるのは、人間の女です」



 クロードと呼ばれたネコ耳の少年は、私を少しだけ振り返ったけれど、また美丈夫様に向き直る。

 その時に一瞬だけ見えた瞳の色は、明るい黄緑色。10年一緒に暮らした、クロと同じ色だった。



「人間、だと」



 すがめられた赤い瞳が、私に突き刺さる。

 ざわめく室内からも、美丈夫様の声音からも、「人間」であることは、よろしくないという響きが感じられる。

 なんとなく、わかってはいたけど。

 ここにいるヒトたちはきっと「人間」ではない。


 気づけば、足ががくがくと震えていた。こんな、得体のしれない場所に連れてこられて、人とは思えない生き物に囲まれて。その上、敵意まで向けられて。

 平気でいられるはずはなかった。


 視線に射すくめられて、蛇に睨まれた蛙のように震えるいかできない私の左手に、不意に温かいものが触れる。

 そのぬくもりに、金縛りから解放されて、左手を見る。

 そこには、クロにそっくりな表情をしたクロード少年がいた。

 小さな手で、私の手を握って。



「この者は間違いなく人間です。ですが、私の命の恩人です」



 私の手を握り締めて、美丈夫様にまっすぐ視線を向けて意見する。

 あんな威圧的な美丈夫様に、こんな小さい子が意見するなんて、ものすごく勇気のいることだろうに。

 頑張れ、というように、思わずしっかりと手を握り返す。


 正直、このときはこの少年がなんなのか、気にはならなかった。ネコから人間になったって構うものか。こんなにも健気で、かわいいのだから。

 握り返した手に、びっくりしたのか少年がいっしゅん私を振り仰いだけど、嬉しそうに口元をほころばせて再び美丈夫様に向き直る。

 美丈夫様は相変わらず目をすがめてはいるが、先ほどまでの険しさは薄れ、何か思案しているようだ。



「恩人、ですか」



 そんな沈黙に支配された場を、ネコ耳おじさまの声が切り裂いた。

 クロード少年と美丈夫様に視線を奪われていた私は、びくっとして声の聞こえたほうに顔を向けた。



「息子がお世話になったようですね。心よりお礼申し上げます。」



 歳を重ねた渋さを感じさせる、やさしげな笑顔でクロード少年を見ていた顔を私に向けたおじさまは、優雅なしぐさで礼をした。

 少なくとも一回りは年上の、明らかに気品を感じさせる男の人に頭を下げられ、私はあわあわとまともに言葉にならない声を発して激しくうろたえる。


 しかも、何の話なのかいまいち理解できない。

 これはあれか(予想はしてたけど、心情的にはやっぱり信じたくないというか、見とめたくないというか)、クロード少年=クロということか。

 いやでも、ふつうネコは人間にはなれないしでも人間にネコ耳もしっぽも生えてるわけないしなにかのどっきりなのかそもそもわたしはまんしょんからおちたのではないのかてかおちたらふつうしぬだろじゃあなにかここはしごのせかいとてもいうのか。



 そうか、これは夢なんだ!!



 この結論に至るまでおよそ30秒。

 こちらを優しい目で見つめるおじさまに、左手を握ってくれているクロード少年、成り行きを眺めている美丈夫様。

 そのすべての臨場感と現実感が、夢ではないと伝えてくる。

 もうなんだか、すべてが意味がわかんない。

 あたりを見回した私の顔は、きっと泣きそうになっていたんだと思う。



「詳しく話をする必要がありそうだな」

「そのようですね」



 少し驚いた顔をした美丈夫様が、溜息をつく。おじさまが、背後のローブ集団や衛兵に指示をだし、それに従う為に数人がいなくなった。



「お嬢さん、こんなところで立ち話もなんですから、少しお茶にしないかな」



 許容量超過キャパオーバーで呆然としている私に、指示を出し終えたおじさまがやさしく提案してくれる。

 けれど、何か返事をしなければならないのに、何の返事をしていいかわからない。

 頭が正常に働いていないのが自分でもわかるけれど、どうしようもない。

 そんなふうに途方に暮れていると、左手がつんつんと引っ張られる。

 のろのろと首を向ければ、いつも見ていた黄緑の瞳と出会う。



 たしか、萌黄色っていうんだったかな。



 昔、クロの瞳の色の和名を調べて得た、どうでもいい知識を思い出した。

 そこから、どこかうすぼんやりしていた視界のなかの少年の顔に焦点ピントが合う。



「大丈夫だ、リサ。行こう?」



 一歩前に出て、私の手を引こうとする少年は、ここに来てからは名乗っていない私の名前を呼んだ。

 身長差から、上目遣いで私を見上げる表情は、いつも帰宅したときに出迎えてくれるクロの表情とひどく似て。



「リサ」



 重ねられる声に、私は一歩を踏み出した。



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