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リア充に中指を立てて原稿を書け

 この短編にはキャラの設定上ネットスラングなどの言葉が多用されています。苦手な方はブラウザバックをお願いします。

「ねー三枝って宮橋と付き合ってるのー」

「んなわけねーだろあほ」

「いつも一緒にいるけど付き合っt

「ないから」

「何か付き合ってるって話聞いたk

「お前そろそろ張り倒すぞ」

「なーまたお前と付き合ってんのとか聞かれたんだけど」

「ファーーーーーーーーーーーwwwwwwwww」


 ……ここまでが本日のハイライト。あいつらは本当に付き合うとかなるものが現実に存在するとでも思っているのだろうか。いくら男女ふたりだからって昼休みにネタ動画みて爆笑しているのに彼氏彼女だとか色恋沙汰に走ってるとか何の冗談だ?

(さて、と……)

女子高生が背負うには余りに無骨なリュックでもって颯爽(多分)とリア充の間を縫って駆け出していく。これを可愛らしい女の子にでも変換すれば見栄えがするのだろうが、生憎チビでぺったんこで目つきが悪いものでそんなに絵にはならない。

(急がないと、やばいな)

 その辺にいた例の男子を首根っこ掴んで連れていく。

「原稿しますか」


 “夢みたいなところで、時間だけが淡々と過ぎていった。名前しか分からない相手と延々と話し続けている、根拠も何もない情報が掠めて、消えていった。妙に眠たくて体を動かすのが億劫で、もうなにもしたくないや。

『もう、このまま眠ってしまおうか』“


 ☆

 某高校のコンピューター室。「私語は慎む」の標語のもと、タイピングの音と、たまのクリック音、あとは少し声を抑えた会話だけがあった。


「……なあ、終わったか」

「あ゛?」

「明日と明後日と来週に〆切だけど」

「終わってるとでも思ったか」

「すまん」

「お前もだろ」

「うぃっす」


 返す言葉もなかった。

文化部の秋の砦「〆切」。それは「いっつも何してんの?え?大会とかあるんだ。することあるの?」と聞かれる率No.1の我らが文芸部も同じことだった。部誌に載せる小説を10P超――およそ7000字の〆切が丁度来週に迫っていた。文化祭は10月半ばなのに一月前に〆切とは鬼畜すぎる。一週間前ぐらいだろうと高をくくってカラオケやらゲーセンやら行ったのが間違いだったか。


「はぁ……」

「溜息つくな辛気臭い」

「原稿終わりそうにないんだけど」

「俺だって」

「くそ、Twitterやろ」

「ちょっおま原稿やれよ」

「終わんねーよ……あのさその受け答えしながら超高速タイプかますのやめて怖い」

「うるせえ」


 画面から一時も目を離さず一心不乱にキーを叩くその姿は目つきの悪さも相まってどこか近寄り難い雰囲気が漂っていた。本人曰く「常に眠くて目が開いてないだけ」らしいがそれはそれで怖い。てか今眠くなんかないだろ絶対。

 自分のワードテキストと向き合って文章を凝視する。…………………くどい。ノルマの半分も書けていないのにこのくどさ。自分が書いたものだが、胃もたれするような、読んでいて眠くなるというか。大量のキャラメルソースとチョコソースと生クリームをそのまま食べたみたいな……?オレならすぐ飛ばして次を読む。


(文章にすると、くどいんだよなぁ……)

「だぁぁぁぁ終わんねぇぇぇぇ……」


 やっぱり欲に負けて、というか宣言どおりに、スマホを起動して、4ケタの数字で、繋がる。

 ぴきぃん!

 一瞬、クラリとする。


「……あ、あの人新作来週だって」

「嘘マジか」


 移動式チェアが2、3m吹っ飛ぶ。三枝はたった一言であっさりと原稿から離れてしまった。おい、ユーザー名に@原稿中が付いてるのはどこのどいつだ。


「ちくしょう……時間が欲しい……時間さえあれば……」

「んなもんねーよ……お前はいいよなバイトしてないし、バイト明日から5連勤だぞおい」

「俺はこの〆切が終わってもまだ原稿7枚はあるんだが?」

「それは部活兼部しすぎだろ」

「3徹余裕だわー……」

「はぁ……」

「はぁ……つら」


 そしてまた繰り返す、と……

 会話が止んでしまった。

 とてもつらい。

 コンピュータ室には他に2,3人しかいなくて皆だんまりを決め込んでいる。時間のすぎる感覚が違うってのはこういう時顕著だな。


「この追い詰められる感覚はもう味わいたくないな……」

「じゃあその無計画やめろよ」

「じゃあその二つ返事で依頼受けるのやめろよ」

「うっす」


 まただんまり。タイピングは終わらない。


(原稿……やんなきゃなぁ……)


 正直もう原稿したくないんだが。


「つーかまだ7日あるしオレは焦んなくてもいいんだよ」

「まだ7日かもう7日かどちらに捉えるかで進歩は変わってくると思いますがねぇ……」

 フフ……と自嘲気味に笑って見せた。うっわこいつ目が死んでやがる。

「そういやあと原稿どれくらい残ってんの?」

「……文芸部があと3000字弱と表紙裏表紙扉絵二枚、漫研のやつがあと二枚とポストカードとラミカカラーで」

「……ちなみにいつまで」

「明後日」

「御愁傷様です」


高速タイプが一瞬、止んだ。原稿が明朝体の「ああああああああああああああああああああああああああああああああ」で埋まっていく。


「原稿進んでんじゃん」

「うるせえよぉぉぉおおおおこっちだって修羅場確定なのは知ってんだよ言うなよ!!察しろよ!!ちくしょぉぉぉおおおお」

(うるせえなこいつ……)


 その時、引き戸が音を立てて開いた。元より静かなせいでやけに目立ち、数人が横目で見て、フッと顔を背けた。入ってきた人は人目に肩を揺らして、こっちに駆け寄ってきた。……誰だっけ、同じクラスの、


「さえきょー絵渡しに来たよー」

「あメトロポリスだ」

「メトロポリスだ」

「ねぇそのあだ名いつできたの」


 訝しげな表情をしつつも持っていたカラフルなイラストが数枚、三枝に渡される。絵上手い人居すぎだろこの学校。


「おーおっけーおっけー、あとでスキャンかけとくねー」

「ありがとー……じゃあ私は帰るね」

「え嘘作業していかないの」

「あーうん、この後先輩と会わなきゃいけなくって。バイトもあるし」

「ん?」

(……ん?)

「……え?」


 きょとんとしたメトロポリス(笑)を筆頭に妙な空気がしばし先行する。「あっLINE来てる」とスマホでせっせと返信し始めた彼女にオレらは瞬時に状況を把握し、一気に見る目が変わった。


「宮橋……これは……」

「あぁ……間違いない……」

 今度は何の反応もない。ならば言うべきことはただ一つ。


「「リア充爆発しろよ!!」」


「……いや二人に言われたくないよ」


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