ep.8♡金縛りの正体
「さて、ティーパーティーもそろそろお開きとしますか」
オズウェルが空になった食器を片付け始めた。言われてみれば、明るいうちに始めたティーパーティーも既に茜空が見下ろしている。
少し肌寒い。
「あ、オズウェルさん。片付け手伝うよ」
「いえ。女性に手を煩わせるなど…」
「いいってこれくらい」
「…すみませんね、ではそちらのティーポットを持っていただけますか?」
「はいよ」
普通より大きめのティーポットを落とさないように抱えながら、あたしはオズウェルさんの隣に並んで屋敷の中へ向かった。
「オズウェルさん、聞きたいことがあるんだけど」
「何です?」
「あたしのせいで、この国の人たちが変になったって言ったじゃない?…元に戻すには、どうすればいいの?」
「そうですね。アリスがこの世界に居てくれるだけでいいんです。アリスの近くに居れば、みんな徐々に元に戻るでしょう」
オズウェルが広いシンクに食器を置く。あたしも持っていたティーポットを彼に預けた。
「そっかあ。でもあたし、悪いけどそんなに長くこの世界に居られないよ?」
「安心してください、アリス。貴方がこの世界にいる間、実際の世界での時間は止まって居ますから」
「そうなの!?」
「もちろん、不思議の国はアリス無しでは動くことのない世界。絵本の中のようなものですしね。安心して暮らすといい。気が済めば、元の世界に帰っても構いません。ただし…」
「…ただし、気が向いたらこの国に来てくれるって約束するならだけどね!」
「おや、リル。驚かせないで下さい」
いつの間にかリルが背後に立っていた。その横にはクレミーも。
「さて、帰ろうアリス。不本意だけどクレミーも持って帰るしさ。不眠症治療ってことで。ほら、クレミーも行くよ!」
リルがクレミーの肩に触れようとしたら、クレミーはあっという間にヤマネの姿になってあたしの懐まで駆け上がってきた。
「こ、こいつぅ~!やっぱりムカつく!」
「まあまあリル。玄関まで送って行きますよ」
憤慨するリルを宥めるようにしてオズウェルが歩き出す。あたしもそれに従った。
「それじゃあね、オズウェル!今日はありがと」
「いえいえ。アリスならいつでもいらして下さい。アリスが来れば、ティーパーティーを開く口実にもなりますしね」
オズウェルがバチンとウインクした。
そういうことしなければ良い男なんだけど…
あたしは苦笑しながらオズウェルに手を振った。
♡♤♢♧
「あっははははは!やっぱ楽しい!楽しいこれ!」
ボヨンボヨン
「僕も僕も~!あはははは~!楽しぃ~!」
ボヨンボヨン
「お前らかああああああああ!」
長年あたしを悩ませ続けた、金縛り(にしては今考えるとちょっとおかしかった)の正体が明らかになった夜だった。